「商店街」the 1st spoon_UNI

文芸ユニット「るるるるん」によるツイッター400字小説『3spoons』第一回テーマ ”商店街“

「最近どきどきすることあった？」
　短い正月休みも終わりに近づく。お節料理など作る気はハナからない。年末からずっと朝食は菓子パンとコーヒーだ。それをもそもそ食べながら夫は「は」とだけ呟きこちらに一瞥もくれない。だよね、わたしも「は」だわ。
　ぱんぱんに膨らんだへそ周りがなんとかなるんじゃないかとわたしは一人、隣駅の商店街まで歩く。中華料理、開いている。牛乳屋、本屋、休み。パン屋、開いている。この町で一番儲かっているプリン屋はもちろん開いている。巨大プリン像のある広場に餅つき大会を見に行く。
よいっしょう！ほら、もいっちょう！ぼったんと杵をおろす若者が、中二の秋に牧場の映画を観させられた視聴覚室でそっと指を握ってきた波佐見くんの顔をしている。臼に餠をぐにとこねつける彼の上気した頬ににやりとしたまま洋品店のガラス戸に目をやる、垂れた頬に重い瞼のわたしがそこに。よいっしょう！小走りでそこから逃げる。もいっちょう！歩道橋を駆け上る。気持ち悪いほどにどきどきしている。