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3spoons vol.6『貯金箱』the 3rd spoon_UNI

文芸ユニット「るるるるん」によるツイッター400字小説 3spoons

いつかぁこん貯金箱があんたを助けてくれなるでなぁあと、大婆さんが久しぶりに入れ歯をはめて喋ったのには、驚いた。大婆さん、入れ歯ありんさったか。いつものように、私は話の枝葉のその先ばかりを見てしまう。

ドクダミの花の焼酎漬、ダナキャランの薄灰色のワンピース、大婆さんの黒い貯金箱を入れると、鞄はいっぱいになった。
東の海へ嫁ぐという実感はない。私と彼は双頭の赤べこや、でんでん太鼓の左右の紐、尻と尻でつながったシオカラトンボ、そんなものになる。

暮らしがどうしてもうまくいかなければ、私はこの貯金箱を抱きしめて海に入ろう。貯金箱の中にはきっと、しじみの貝殻、何千枚もの。だって振ると、しゃらんしゃらんと軽い。

二人がだめになったときには、貝紫色に染まる朝焼けの海へ、とぷとぷと歩を進めよう。浮こうとする私は、貯金箱によってそうっと沈められて、はじめて一人の日々を持てるだろう。

海の底の私を想像して、やっと心が凪ぐ。



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