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「カレンダー」the 3rd spoon_UNI
文芸ユニット「るるるるん」によるツイッター400字小説『3spoons』第二回テーマ ”カレンダー“
筍、とだけ書いてあったからきっとこれは四月の切れ端なのだろう。
あの春だ。いくら言い争い、話し合っても、彼が伝えたいことはわたしには伝わらなかった。結局なにについて二人は言い争ったのか、今でもわたしにはわからない。
引っ越そう、と彼が言う。別れよう、よりはまともな提案だったからわたしは同意し、何軒も部屋を見て回った。花水木の見える部屋をわたしは気に入ったが、彼は「獣くさい」と嫌がった。ペット不可なんですけどねぇと不動産屋は面倒臭そうに首をかしげる。
ひとが出ていったばかりの賃貸の部屋は壁も床も薄汚れていて、そういえばパチュリの香りだけは窓辺に残っていた。花水木が見えるというだけでなぜあそこに惹かれたのだろう。
引越しはしなかった。彼は出ていった。あの年のカレンダーは十六等分にカットして、メモ帳にしている。友達と電話しながら、そこに絵を描き単語を書き留める。おもてを見ると筍とだけ書いてあったから電話を切りほとんど吠えるように、泣いた。
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