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3spoons vol.6『貯金箱』the 1st spoon_3月クララ

文芸ユニット「るるるるん」によるツイッター400字小説 3spoons

下村は三ヶ月分の給料を貯めるために500円玉貯金を始めた。
婚約指輪を買って恋人にプロポーズするつもりだ。
500円玉の釣り銭を得るために工夫して支払いをする。
1,650円の買い物には2,150円を払う。
30,682円の買い物には31,132円を払った。
お釣りは450円だった。文系の下村は、しばしばこんな計算間違いをする。
500円玉には500円分の価値があるが、戻ってきた5枚の硬貨には1円の値打ちもないように思え、不燃ゴミなのか資源ゴミなのか迷っているうちにゴミの日になり、価値のない硬貨は硬貨で牛乳パックを仮の無分別ゴミ箱として、次のゴミの日まで仮に貯めておいた。

給料三ヶ月分にあたる10万円貯まる貯金箱の6個目が、いよいよ満タンになろうとしてしていた。
ところがすっかり貯金が趣味になっていた下村は、既に7個目の貯金箱を用意していた。
9個目の貯金箱がいっぱいになる頃に、500円玉を得るための買い物で預金を使い果たしていたことに気づいた。
恋人は置いてあった自分の荷物をスーツケースに詰めて部屋を去り、恋人のヘアアイロンや替えのパジャマが無くなってできたスペースは、牛乳パックで作った仮の無分別ゴミ箱の仮置き場になった。

500円玉貯金を続けるために、下村は昼夜を問わず働き続ける。

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