見出し画像

3spoons vol.8 『福助』the 2nd spoon_UNI

文芸ユニットるるるるんによるツイッター400字小説 3spoons

夏、べたべた

ここ、刺された。そう言ってタタはショートパンツをまくり、白い太ももの内側を福助に見せつけた。蚊、と喉から声をしぼり出した福助は太ももから目をそらし、床に寝そべったまま冷蔵庫の扉に腕を伸ばす。扉にはタタがまぶたの縁から外したつけまつげが貼り付けられて、南国の虫のようだ。カットすいかの乗った皿を見つけた福助はのそりと起き上がって皿を庫内から出し、床に置く。髷をほどき背中を丸めてスイカにかぶりつく福助の姿は、タタに妖怪を想起させた。
日本からこの国へ来た世代の祖母は、いくつかの妖怪話をタタに聞かせてくれた。そのうちのひとつが、夫が寝ている間に髪をかきわけて頭の後ろにあるくちでごはんを食べつくしてしまう妖怪話だった。
消えてしまった日本の、その湿度すら知らないタタにとって、妖怪は虹色をしたグミの弾力性を持つものだった。
タタは福助に妖怪の話をしようとして、やめた。西陽が照らす福助の背中に、わざと乱暴にもたれてみる。

画像1


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?