義務教育を終えたその先

今日は私の母の話を書こうと思う。
21歳でお見合い結婚し、農家に嫁ぎ、子供を3人育て、今なお農業をしている元気な母である。

私が思うに、この人はわりと賢い部類の人なのだと思う。ちなみに父は良い人ではあるが、賢いかと言うと残念な感じ。

そのDNAを引き継いだ私は、どうやら母寄りだったようで、昔からそんなに勉強がわからないという想いはしたことがなかった。
学校での成績も良く、高校受験に至っても教師でさえも心配はしていなかった。

しかし、今はどうか知らないが、当時は公立高校を受験するのに、当然のように保険で私立高校も受験するというのがセオリーだった。
同級生もほとんどそうで、私も何の疑問を持つこともなく当然そうするのだと思っていた。

ところが、うちの母は、私にとんでもない発言をしてきた。

「うちはお金がないから私立は受けなくてよろしい」

え?
ちょっと待って?
この人何言ってんの?

頭上に浮かぶクエスチョンマークを汲み取ったように、母は私に続けて話した。

「小学校、中学校で、親の教育の義務は終わりました。あなたが勉強したいと言うなら、公立高校なら頑張って行かせてあげます。でも私立はうちの家庭では無理です。」

え?
義務教育って?
え?え?えぇーーー???

パニックになる私に、母は更なるトドメを刺してきた。

「大丈夫。落ちたら働いたら良い。」

マジか!
しかし、真顔だ。
きっと冗談でも何でもない。

我が家で最も実力のある人の言葉である。
覆るのは絶対にない。不可能だ。

ヤバイヤバイ!!

慌てた私は教師に助けを求めた笑

「先生!お母さんが私立は受けさせないって。落ちたら働けって言うんです!」

教師も私の話を聞いて驚き、母と話してくれたのだが、まぁ、想像できるだろうが論破されて終わった。

そう、母の言うのは全くの正論だ。
義務教育というのは、親が子供に教育を受けさせる義務である。
子供が教育を受ける義務ではない。子供にあるのは教育を受ける権利だ。
だから、何で勉強しなきゃいけないの?
というよくある子供の問いは、そもそも間違えた質問であることを伝える必要がある。

そこから考えても、母は1mmも間違っていない。

実は私は学習塾にも行かせてもらえなかった。
同級生があれこれ塾に行くのを羨ましく思い、行きたいと何度もせがんだが、母の言葉はいつも同じ。

「学校教育というのは、教科書が全て。だから教科書さえしっかり勉強すれば、それ以上というのは必要ない」

えぇ、まぁ、全くもってそうなんですけどね。

そういう母なので、本気なのはわかっていた。

絶対に落ちない。
落ちたら中卒で働かなきゃいけなくなる!

同級生に比べると、尋常でない追い詰められ方をした私は、それは猛烈に勉強した。
結果、予定通りに公立高校に合格し、晴れて高校生となれた。

世間のみんなも覚えておいて欲しい。

高校行けるって、すごいことだと。

また、母は私を看護の道に誘導したのだが、当時はほとんど大学ではなく専門学校だった。
だから母は私にこう言った。

「あなたは大学行くわけではないから、センター試験は受けなくていいわ」

学校では一応進学校でもあり、全員模試を受けさせられていた。母はその成績にもほとんど興味を示していなかった。なぜなら看護学校に行く私に大学に受かるための試験の結果など意味をなさないからだ。

教師にセンター試験は受けないと言うと、とても驚き、やはり母の説得にかかっていたが、


先生が受験に必要なお金を払ってくれるとでも言うのですか?

と返り討ちにあっていた。
可哀想だったな。

そんな感じで、母のおかげというか、稀に見るスパルタンな教育方針で、私の学習に対する自主性はすこぶる上がった。

勉強させてもらってる。

その事実にどれだけみんな気付いているだろうか?
当たり前ではないのだ。
現に今だってコロナで職を失った人もたくさんいる。
当然子供がいる人もいるだろう。

彼らは子供が私立に行きたいと言われたらどうするのか?

今ある環境への感謝、1人では何も出来ない赤ちゃんの、時から育ててくれた親への感謝。

時々で良いので思い出して欲しい。

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