第8回 にしてようやく本の話(丸山→大澤)
大澤さん、こんにちは。先週は僕の回だったのですが、こちらの都合もあって1週間ほどアップを延期させていただきありがとうございました。お詫びに今度東京にいらした際にはもつ焼きをご馳走しますね。その街ごとのベストなもつ焼き屋さんをリサーチしていいるので、どこの街にも駆けつけますー!
小説が読めない
さて、今回はようやく(?)書籍の話です。そういえばこのnoteのきっかけのひとつに読書がありました。おそらく大澤さんは色々と本も読んでいると思いますが、僕も読みたい!読まなきゃ!と思いながら日々積読に励み、現世での徳を積みあげる毎日です。
書店兼ギャラリーを始めてしまうくらいなので、当然本は好きなのですが、毎日の仕事の中で少しづつ読む時間をなくしてしまい、最近はまとまった時間が取れずに歯痒い気持ち。あっ、もちろん全く読んでいないというわけではなく、ペースが落ちてしまっているということです。
そんな中でも割と早い段階で読むのを諦めてしまったジャンルに小説があります。元々小説はそこまで多く読んでいたわけではないのですが、ここ最近はもう何年も小説は読んでいませんでした。時間が取れないというのはもちろんなのですが、自分の事業の学びや役に立つような本(自己啓発ではない)ばかりを選んでしまっていました…。ちょっと近視眼的になりすぎていることを反省しないとですね。
展示をきっかけに何年かぶりの小説を
自分との距離がやや離れてしまった小説は、タイトルを選ぶ能力も格段に落ちてしまっておりなかなか難しい。そんな中ですが、幸運にも弊社で運営しているスペースのmuseum shop Tで、作家/小説家の清水裕貴さんの展示をしていただく機会に恵まれました。さらに展示の内容はKADOKAWAから出版された同タイトルの小説に関連する展示。
これで読まない選択肢はありえない!と思い、何年かぶりに小説を手に取りました。本当に久しぶりなので、読みながら頭の中でイメージが描けるのかと、やや心配をしていました。しかしそんな心配とは裏腹に、清水さんの情緒的で耽美な文章にグイグイと引き込まれて、あっという間に読了。
小説は主人公が千葉市美術館の学芸員という設定でミステリー仕立てのストーリーで、一枚の絵画を巡って展開する花街の戦前から今につながる物語と、現代に生きる主人公がその絵にまつわる秘められた歴史をリサーチをしていく物語。
それぞれが交互に展開していくのですが、頭の中に映像がはっきりとイメージでき、実際の千葉の歴史なども入り混じることで、小説とは思えないような世界にのめり込みました。加えて清水さんのその美しい表現は、美術家としての独特の文章になっています。絵画の描写や作品自体を文章で表現する。これはとても難しいことだと思うので、こんな文章が書けるって本当にすごい(←語彙力)…。
小説を通して歴史を知ることで街の解像度が変わった
小説内には「千葉市美術館」はもちろん、「旧神谷傳兵衛稲毛別荘」や「千葉市民ギャラリー・いなげ」「千葉市ゆかりの家・いなげ(愛新覚羅溥傑氏仮寓)」など、千葉市にある歴史的旧所もたくさん出てきます。
2021年に開催されたCHIBA FOTO(後述)で各スペースを回った時も千葉市にこんな場所があるとは露知らず、どれもすごくいい場所だなと思いながら展示を拝見していました。
そして、千葉市美術館の周りの「蓮池」いう場所の話も重要なストーリーの一部に。
この小説の中にも出てくる「蓮池」という場所は千葉市美術館の目と鼻の先にあり、地名は「中央」に変わっているのですが「蓮池通り」という提灯が出ていて、なんだか風情があるような少し寂れているような、不思議な場所だなといつも通るたびに思っていました。*ご存知の方がどれだけいるのかわからないのですが、弊社では千葉市美術館のミュージアムショップの運営もしており、美術館にも当然よく行くわけです。
実はここにかつては一大花街があったそうで、物語を通して千葉の歴史を知ったことで、街の解像度が全く変わりました…。なるほど。だから近くに千葉神社があったり、古くからある蕎麦屋や寿司屋があったりするのか。なんだか花街があった場所って怪しげで艶っぽいような不思議な街の魅力を感じますよね。個人的にも気になっていた古くからあるお寿司屋さんがあったのですが、行ってみるのがより楽しみになりました。
museum shop Tの展示では
この小説を彼女が書くにあたってのきっかけになった展示がいくつかあり、その中に「CHIBA FOTO」や「とある美術館の夏休み」があるのですが、今回のmuseum shop Tの展示では、その展示を制作する際に彼女がフィールドワークをしていく最中の、私的な日記のようなフィールドノートのようなテキストも一緒に展示されています。
また2022年に千葉市美術館で開催された「とある美術館の夏休み」という展示と、小説の内容が期せずして一致していくテキストを読んだ時には、虚実入り混じる小説の世界からさらにいまの現実が一致することでより一層メタな世界が現れ、もはや物語なのか現実の話をしているのかわからないような面白さです。
美術が好きな方はもちろん、千葉の歴史を知ってみたい方、そして小説が好きな方。清水さんの文体は美術を背景とした設定にこれほどに無いくらいはまっており、どなたでも楽しむことができると思います。特に美術が好きな人にはぜひお勧めしたいです。
また小説と合わせて、展示も楽しんでいただけたら嬉しいです。
オススメの小説を教えて欲しい、丸山より
丸山晶崇(株式会社と)
東京都生まれ。デザインディレクター/グラフィックデザイナー。2017年に株式会社と を設立。地域の文化と本のあるお店『museum shop T』や、千葉市美術館ミュージアムショップ『BATICA』など、ショップの企画・運営もしている。アート関係の仕事や地域の仕事を進めると共に、公開制作・展示・アーティストとの共同企画など幅広い活動を続ける。「デザイナーとは職業ではなく生き方である」をモットーに、デザインを軸にしたその周りの仕事を進めている。長岡造形大学非常勤講師。
大澤夏美(ミュージアムグッズ愛好家)
1987年生まれ。札幌市立大学でメディアデザインを学ぶ。在学中に博物館学に興味を持ち、卒業制作もミュージアムグッズがテーマ。北海道大学大学院文学研究科(当時)に進学し、博物館経営論の観点からミュージアムグッズを研究し修士課程を修了。会社員を経てミュージアムグッズ愛好家としての活動を始める。現在も「博物館体験」「博物館活動」の観点から、ミュージアムグッズの役割を広めている。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?