記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

2014年『MOZU Season1~百舌の叫ぶ夜~』感想

2014年『MOZU Season1~百舌の叫ぶ夜~』(監督/羽住英一郎)鑑賞。

あらすじ
白昼、街中で爆発事故が起こり、多くの人々が巻き込まれる。その犠牲者の中には公安に所属する倉木尚武の妻、千尋がいた。倉木はこの爆発が事故なのかテロによる事件なのか独自で捜査を始め、ノンキャリアの叩き上げ警部補、大杉も追う。更に事故当日、現場に特別任務中だったため居合わせた、明星巡査長とも合流し、三人でぶつかり合いながら捜査を進めて行く。

主演、倉木尚武に西島秀俊さん。爆発に巻き込まれ、死亡した妻、千尋に石田ゆり子さん。倉木と捜査を共にする大杉良太に香川照之さん。同じく捜査を共にする巡査長、明星美希に真木よう子さん。当初、爆弾犯だと思われていた新谷和彦役に池松壮亮さん。和彦は爆発事故の後、現場から離れた場所で発見されるが記憶喪失の状態だった。

和彦がセキュリティの大企業アドバイザー(実は犯罪エージェント)東和夫(長谷川博己さん)らに狙われていることから何らかの証拠を握っていると考えられている。実際、和彦の忘却している記憶には誰もが予期していない重大な真実があった。

その新谷役の池松さんが化け物級に凄い。
新谷和彦は一卵性双生児であり、弟・宏美は男性だが普段は女装をしている。そうとは知らず、東の指令で和彦の記憶を呼びさますため拷問にかけられ、結果的に宏美としての記憶も取り戻した和彦は、チンピラなど相手にならない格闘能力を駆使し、呆気なく虐殺。
宏美は殺人衝動が止められない子供だった。その衝動を殺し屋と言う闇の職業に転換させ、表で生き延びる方法を作ってくれたのが兄の和彦だ。実は明星が爆発事故当日追っていたのは和彦ではなく宏美だった。和彦は宏美に与えた仕事の時間に間に合わなかったため、口封じとして崖から落とされる。宏美もその場に赴き、助けようとするが一緒に落ちてしまう。そして見つけられたのが記憶喪失の宏美だった。

本当の犯人は倉木が信頼していた上司、室井(生瀬勝久さん)で、植物状態になった一人娘のため、日本の未来を変えてやると言う歪んだ正義感を持ち、すべての罪を宏美になすりつけようとしている。更に倉木の妻、千尋とは過去に交際していて、都合の悪い仕事をさせていた。宏美は室井との闘争で高所から落ち、オブジェに串刺しになってしまう。室井は来日しているサルドニア共和国の大統領一家に仕掛けた爆弾を発動させる。

この物語の登場人物は裏切りに裏切りを重ねて行くが、正義と悪の対比がしっかりと分かれている。真実を知るために自分の正義を貫こうとする倉木を始め、大杉や明星、そして宏美はまっすぐだ。決して横道に逸れず、許せない者を執念深く追う。
倉木でも倒すことのできなかった室井の前に、死んだと思った宏美が瀕死の状態で現れた。実際あの状態で生きているのは不可能だ。けれど宏美はただ室井を殺すことだけを指標にして動いているからくり人形のようだった。

宏美は室井に撃たれて起き上がれない倉木の横を通り抜け、まっすぐと室井に向かって歩き、躊躇せずアイスピックで頸動脈を一突きする。
目的を果たし、そのまま背中から倒れる宏美を受け止める倉木。秘密を抱えながら必死に生きて来た宏美の最期は倉木の腕の中だった。
最初は誤解から敵対する関係だったふたりだが、倉木は宏美を孤独にしなかった。幼さの残る宏美の安らかな死に顔を見守り、ボロボロになって、叫びのような、泣き声のような息を吐く倉木と宏美は、宗教画のように静謐で、哀しくも美しい終焉だった。

倉木は終始「俺は真実を知りたいだけだ」と言う。
その真実は倉木自身にとっても、辛いものにしかならないのに。すべてを知ってしまったその先に何が残ると言うのか。愛する人はもう帰って来ないのに。格好良くてアクションも迫力があって夢中で観たけれど、物語自体はとても残酷で非情だ。個人的にここで終わったら至高の作品だった気がする(すいません)けれど、作り手の野望は果てしないのでしょう。
いざ、Season2へ。

追伸
ただ、拷問の場面は新谷を取材しただけの親切なウェブライター、中島さん(有村架純さん)にまで及ぶ。新谷同様に受けるその仕打ちは暴力そのもののシーンは省かれてはいるものの、暴力後の痛々しい傷だらけの姿となり、トラウマになるくらい辛いのでここだけはどうしてもまともに観られませんでした……。だからこそ余計、新谷が奴らを虫けらのようにやっつけてくれて良かった。私はそれが正義だと思ってしまった。

そして、西島さんの傷だらけのはだけたシャツ姿と美しい筋肉こそ何よりの正義であった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?