ネタバレ感想「おらおらでひとりいぐも」
別記事でも書いたように、映画「おらおらでひとりいぐも」を見てきました。
その盛大なネタバレを含む感想を書きたいと思います。
公式サイトはこちら
予告動画はYouTubeで
芥川賞、文藝賞をダブル受賞した小説を映画化した作品なのですが、映画公式サイトによると
原作は、55歳で夫を亡くした後、主婦業の傍ら執筆し63歳で作家デビューした若竹千佐子の同名小説。本作を発表するやいなや「これは“私の物語”だ」と絶賛を浴び
だそうで。
長年主婦をされていた若竹千佐子さんが、お子さんの勧めで小説家講座に通い、63歳でデビュー。文藝賞を受賞した、という遅咲きのシンデレラストーリーに、人生の希望を貰った読者も少なくないのではないでしょうか。
自分は原作は読んでいませんが、映画を見た後ではあるもののぜひ読みたいなと思っています。
で、そんな小説を田中裕子さん主演で映像化。
一言でいうと「75歳の独居老人の日常と孤独を淡々と描いた作品」でした。
目玉焼きとトーストという代わり映えのない朝ごはんを食べながらニュースを見て、背中の難しい部分に1人で湿布を貼り、込み合う病院でうたたねしながら順番を待つ。長時間待っても診察は一瞬で、たまに訪ねてきた娘は金の無心をしていく。
この映画、こうした共感できる、理解できる日常の風景が繰り返されてはいますが、正直何のオチも、大きな事件も起きません。
でも、すごく面白いんです。
まずキャスト。
主人公の「桃子さん」は1人で暮らしており、誰とも口を利かない日もあります。
そんな桃子さんの「寂しさ」が、この映画では具現化され「寂しさ1,2,3」というキャラとして登場します。
ちなみに朝起きた時の心の声も「どうせ」というキャラとして登場。六角精児さん、最高でした。
そして日常の中でのこうした思いの具現化のほか、桃子さんの空想や過去の回想が、様々な演出で、エンターテインメントとして散りばめられています。
絵から飛び出すマンモス、原始人になってしまった先生、視線の先にいる若かりし頃の自分と亡き夫、寂しさを歌に込めた「クソ周造」。
1人の老女の孤独と日常が主軸なのに、悲しくならない、寂しくならない、むしろクスクスと笑えるシーンがたくさんで、暗い気持ちにならない、そんな作品にまとめられています。
とはいえ途中途中、桃子さんの寂しさが、現実的にも空想的にも辛く描かれている場面もありました。
亡くなった祖母(ばっちゃ)と話すシーン
娘が訪ねてきて傷ついた桃子さんが冷蔵庫からビールを出して一気飲みするシーン
しゃがみこんだ桃子さんに、亡き夫が手を差し伸べ、2人で歩くシーン
胸がギュっと苦しくなり、涙が2筋ほど静かに流れる、そんな寂しさや辛さがちょっとしたスパイスとなり、エンタメ要素をより盛り上げてくれていたように感じます。
そうして夏だったり雪が降ったり、春が来たりと孤独な桃子さんの日常は作中でどんどん過ぎていき、「どういうオチなのか」「桃子さんもしかして最後死ぬの?」と思ったりもしましたが…。
最後は希望的な場面で上手にまとめてありました。
何に誘われても「私はいいわ」と言っていた桃子さんが、卓球に行ってみようかしらと前向きな姿を見せ、
寂しさとどんちゃんやっているところに突如孫が1人で訪ねてきて、
娘が桃子さんの故郷の言葉で話すことがあると知って嬉しくなり、
人形の洋服を作ろう、と孫と約束をして。
個人的には蒸発した息子でも出てくるのかな、とちょっと思ったりもしましたが、そういうわざとらしいエンディングを迎えず、何気ない日常の延長の中に、「1人で寂しいばかりじゃない。年をとっても人生捨てたもんじゃないな」と希望を見せてくれる終わり方でした。
最後の最後は桃子さんのルーティン的な朝の目玉焼きを焼く音で締めくくられ、まだまだ彼女の物語が続いていく感じも良かったです。
作品の主題歌はハナレグミの「賑やかな日々」。
沖田監督が作詞を手掛けたそうで、映画の中のストーリーが盛り込まれた優しく素敵な曲です。
だってこの家は
寂しさで 賑やかだ
おおぜいのおらで 賑やかだ
ここにすべてが集約されているように思いました。
胸が大きく揺さぶられるような感動や衝撃はありませんでしたが、たくさん笑ってちょっと泣いて、将来の自分をそこに重ね合わせたりして。
長いけど面白かったのと、田中裕子さんを始めとするキャストの皆さんの演技に引き込まれ、最後まで飽きずに楽しめました。
桃子さんは数十年後の自分。
だけど寂しさに飲み込まれないよう、桃子さんのように、新しい世界を見つけたいなと思いました。
多くの人にこの作品が届き、賑やかな日々を送れますように。
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