見出し画像

忘れじのあなたとワルツを

夢の通ひ路 人目よくらむ

見覚えのない、単線の電車にゆらゆら揺られていく。
日頃乗っているすし詰めの通勤電車とは趣の異なる、貸切状態の電車。
窓の向こうは、そぼ降る雨が流線のように流れていく。

背中を押されるように、木造の小さな駅に降り立った。
今時なかなか珍しい、無人駅。
まだ小糠雨はあがらず、視界はしっとりと濡れている。
A4ファイルを頭上にかざしながら、駅を出ると向こうに一本道の畦道がすっと通っている。

そこに、貴方はいた。
何の変哲もないビニール傘を差し、手には水色の傘を持って。
雨具を持っていない私を心配して、迎えに来てくれたらしい。

無事に傘を手に入れ、並んで歩く。
ひとつの傘に一緒に入る関係ではない、貴方と私。
傘に顔が隠れ、貴方から私の表情が見えないのは好都合だ。
1、2、3。1、2、3。
歩調を合わせ、踊るように歩く。
この雨が、ずっと降り止まなければいいのに。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?