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【リース期間どう見積もる?】 借り手側が押さえるべき変更点

はじめに

前回の記事では、リース会計基準の全体像を説明しました。
特に借り手の観点から現行のリース会計基準と新リース会計基準(以下、新リース基準)における取り扱いの違い、そして新基準の適用が実務に与える影響を概観してきました。

そこでは代表的な例としてオフィスの賃借を挙げましたが、これはどの会社でもどの業種に属していたとしても新リース基準の適用によって何かしらの影響を受け得るということを意味しています。

また、オフィス等の賃借に限らず、自前の事業用資産等をなるべく保有しないようにしている会社、つまり外部リソースの利用に大きく依存するような会社はより大きな影響を受ける可能性があります。

今回は、借り手としてのリース取引に焦点を絞り、その会計処理について新リース基準の主要な3つの論点を解説し、今後の適用に向けて注意すべき点を詳しく説明していきます。


使用権資産とは?その会計処理について

新リース基準の主要なポイントの1つは「使用権資産」です。
前回での記事でも説明した通り、現行のリース基準の下では実質的に割賦で購入したのと同じ効果を持つファイナンス・リース取引については、原則として該当する資産として計上するものとしています。

例えば機械をリースした場合、バランスシートの有形固定資産として資産計上を行い、耐用年数期間にわたって減価償却処理を行うことになります。

一方、新リース基準ではその考え方は取らず、リース物件を使用する権利を借り手が取得することを意味します。

このため、機械のように個別具体的な資産を計上するのではなく、あくまで「権利」を資産として計上することになります。
つまり、「使用権資産」というこれまでとは異なる資産を計上することが求められます。

そうすると今度はこのような「使用権資産」をいくらで計上するのかが問題になります。この点、この使用権資産の計上額は新リース基準によれば、リース期間における支払リース料総額に基づき計算されます。

リース期間を見積もる上では解約不能な期間はどれくらいになるのかを検討することが最初の出発点になります。
例えば、月々10万円のリース料を支払い、当初のリース契約期間が3年間でその間は解約不能とした場合はどうでしょうか?
この場合のリース料総額は10万円/月×12ヶ月×3年=360万円となります。

普通に考えると、この金額が使用権資産の計上金額の基礎として考えても良さそうに感じます。
しかし、新リース基準上では必ずしもそうとは言えないのです。上記のように例え当初のリース契約期間が3年だったとしても、新リース基準上ではこれが直ちに「リース期間」にはならないのです。

つまり、使用権資産の計上額の算定においては契約上のリース期間に加えて、リース物件を何回更新するかの見積もりも併せて行う必要があるのです。

リース期間の設定が大変

それでは、このリースの更新に係る期間をどのように見積もればいいのでしょうか?
この点、新リース基準によれば、解約不能なリース期間だけではなく、例えば契約期間満了後に延長という選択肢を行使する可能性(延長オプション★)も考慮に入れる必要があります。

例えば、契約期間が3年で当該期間は解約不能な賃貸借契約のケースを考えます。
この契約を使用権資産として計上する場合、使用権資産の期間は、当初の契約期間である3年に加えて、契約更新する可能性を加味する必要があります。

もし1回だけ更新することが見込まれるのであれば、6年となり、2回更新するのであれば9年となります。
ただし、ここで問題となるのが、契約を何年更新するのか、そもそも契約を延長するのかどうかです。
この点、新リース基準では契約期間を延長する可能性が「合理的に確実」であることが必要であるとしています。
この「合理的に確実」とは具体的にどのくらいの確度なのか判断は非常に難しいのですが、新リース基準では、「蓋然性が非常に高いこと」としています。

ちなみに、同基準では「合理的に確実」であることを判断する上で、例えば
(1)延長オプションの対象期間に係る契約条件(リース料、違約金、残価保証、購入オプションなど)
(2)大幅な賃借設備の改良の有無
(3)企業の事業内容に照らした原資産の重要性
(4)延長オプションの行使条件
といった要因を考慮するとしています。

例えばオフィスの賃借契約を使用権資産として計上する場合
①契約更新後の賃借料水準や違約金の条件
②賃借物件設備は大幅な改善が見込めるのか
③企業経営に占める当該設備の重要性等
などを考慮して「合理的に確実」か否かを判断することになります。

このように、リース期間の見積もりにあたっては会計基準上は定量的なルールはありません。このため、企業それぞれの実態に応じて個別具体的に見積もる必要があります。


★リース期間の見積もりにおける考慮要件については本文で示した「延長オプション」の他に、「解約オプション」もあります。「解約オプション」には借り手が契約期間の途中で解約する権利を有するケースがあります。この場合、借り手が解約オプションを行使しないことが合理的に確実な期間を見積もってリース期間に反映させる必要があります。
新リース基準での設例では普通借地契約に関する解約オプションが例示されています。


資産計上を検討すべき契約の例

それでは、新リース基準の適用にあたって具体的にどのような契約が使用権資産として、資産計上の対象になり得るのでしょうか?

この点、「使用権資産」とは何らかの資産を使用する権利を資産として計上するものですから、動産や不動産に限らず特定の資産に関して会社外部から賃借しているものは全て検討対象となり得ると考えるべきです。

例えば、現行のリース会計基準で「オペレーティング・リース」として費用処理してきた契約等は資産計上の可能性があります。
また、「ファイナンス・リース」の中でもリース資産の計上を行わずにそのリース料を費用として処理してきた契約についても同様に資産計上の可能性があります。
これまで何度か言及した
(1)オフィスや工場、土地などの不動産の賃借契約などはその代表例です。
また、
(2)機械設備や車両等の動産に係る賃借契約も同様です。
このような動産に関しては、現行リース基準において既にファイナンス・リースとして資産計上しているものもあるかもしれません。

しかし、これらも使用権資産として計上する場合にもリース期間の検討を改めて行う必要があるため、既にリース対応をしているからという理由で期間の再検討は不要ということにはならないことには留意が必要です。

これらはいずれも、どの企業においても何かしらの形で契約しているものばかりであるので、新リース基準の適用に当たっては真っ先に検討の対象となります。
これ以外にも、これまで一般にはリースとは捉えられていない契約等についてもリース契約として資産計上の可能性があるので注意が必要となります。

実際の新リース基準の運用に当たっては企業の契約関係や取引関係を幅広く見ながら個々の取引がリース契約に該当するかどうかをリースの定義に照らし合わせながら検討していくことが必要になります。

例えば、
(1)サーバーやネットワーク、データセンター等の会社外部に依存しているIT関連インフラの利用契約
(2)チャーター機やチャーター船のように特定の機械や設備等を一定期間利用できる契約
などは「リース契約」に該当するかどうかの検討が必要になるかもしれません。

この他、ライセンス契約についてもリース契約に該当するかの検討が必要と思われます。代表的なものとしてはソフトウエアに関するライセンス契約などが挙げられます。例えば近年、クラウド上で会計処理など様々なソフトウエアを提供するサービス(SaaS)を利用する企業が増えています。
このようなサービスも一定期間にたる所定の利用料を支払ってクラウド上の特定の機能を有するソフトウエアを利用するので、新リース基準に基づいて「リース契約」に該当するかどうかの検討を行う必要があります。

特に最近ではERPといった業務系のシステムもPCインストール型からクラウド型へと移行しつつあり、これら一連のライセンス関係については幅広く検討の対象とした方が無難かもしれません。

注意すべき会社・業種

以上の議論を踏まえると、新リース基準の適用上、特にどのような会社が注意をすべきなのでしょうか?

この点、新リース基準は特定の資産等に関する「使用権」に着目して資産計上を求めているので、会社の資産をあまり持たず経営資源を広く外部リソースに依存しているような会社は業種の有無を問わず注意が必要と思われます。
この場合、会社の契約関係をレビューし、取引が特定の資産に関する使用権を会社が取得しているようなものがないか、実態に即して検証していく必要があります。
特に、オフィス等の賃借については店舗数や営業所・支店数の多い企業の場合にはオフィスやテナント等の賃借契約の数もそれだけ多く、資産計上の余地も大きくなります。
このため、新リース基準の適用に当たってはその影響を慎重に見定める必要があると思われます。高額な本社のオフィス賃料を支払って入居している場合においても資産計上となった場合にはその資産計上額もそれだけ多額になると考えられるため同様に慎重な対応が必要となります。


終わりに

ここまで新リース基準において留意すべきポイントを主要な論点に絞って解説してきました。
次回は簡単な数値例を用いて、実際の会計処理はどうなるのかを具体的に見ていきます。お楽しみに!


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