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少し専門的な電磁気学の話


本稿では電磁気学について話を進めます。

ただし電磁気学の理論については、既に解説記事が多く今更扱う内容ではありません。そこで今回は、筆者が思う電磁気学の1番の特徴について説明します。


電磁気学のイメージ

皆さんは電磁気学にどのようなイメージをお持ちでしょうか?

(完全に私見ですが)電磁気学は「座標や方向」が重視された学問だと思います。例えばgrad、rot、divといったベクトル解析の記号が出てきます。gradは勾配、rotは回転、divは発散です。

例) 勾配grad

また電磁気学には4つの基本法則がありますが、その内2つは「電場と磁場の回転方向関係」を表しています。これについては後で詳説します。

ではなぜこれ程「座標・方向の概念」が絡んでくるのでしょうか。この問いを扱った記事はまだなかったため、本稿ではここを重点に解説します。

なお便宜上、まずは電磁気学の歴史から掘り下げていきます。その方が分かりやすいからです。歴史に触れながら理論確立の背景・裏側についても学んでいただけたればと思います。

では早速19世紀の物理学まで遡ってみます。

歴史1- ニュートン力学

19世紀では「ニュートン力学」が絶対視されていました。

ニュートン力学とは物体を「重心に全質量が集中し大きさをもたない質点」とみなし、その質点の運動に関する性質を法則化したものです。次の3つが3大法則です。
 ・慣性の法則
    ・ma=F
    ・作用反作用の法則

これらニュートン力学は慣性系において成立します。慣性系とは慣性の法則が成り立つ座標系のことです。慣性系の中では全てが相対的で、どの慣性系が基準であるということはありません。

慣性系


便宜上、系Kを「静止系」系K’を「移動系」と呼びますが、視点をどこに置くかによって静止か移動かはいかようにも変わります。

ニュートン力学では物理法則は慣性系に対して不変であるとされています。(=共通の式で表されること=共変性)

そのため慣性系は無数に存在し、すべての慣性系においてニュートンの運動の法則が成り立ちます。これをガリレイの相対性原理といいます。

言い換えるとガリレイの相対性原理とは、
「ある慣性系からガリレイ変換という座標変換によって他の慣性系に移るときニュートンの運動の法則がその形を変えない、つまり慣性系に対して不変」ということです。

19世紀ではこのようなニュートン力学が絶対視され、あらゆる事象を説明すると考えられていました。







歴史2- ニュートン力学の不完全性

一方、電磁気学では現象が目に見えず扱いが困難なため、ニュートン力学よりも発展が遅れていました。

特に当時は「波動説」が普及し、今では信じられませんが「光はエーテルという仮想的な媒質中を伝搬する波動」と考えられていました。光が伝播するには、エーテルという媒質が必要だということです。

高校物理を選択した方なら、次の実験図を見たことあるかと思います。

エーテル検出実験


しかしエーテルを基準とした慣性系の理論では色々と不都合が生じてしまいます。実際に実験を通して確かめても望ましい結果は得られませんでした。

そして結局「光の伝播という電磁現象に対しては、ガリレイ変換では成り立たない」ということが明らかになりました。このようにしてガリレイ変換はエーテルと共に放棄せざるを得なくなりました。


歴史3-マクスウェルの基本方程式

そのような中1864年、マクスウェルが電磁現象を記述する基本方程式を打ち立てました。

マクスウェルはこの基本方程式から、光も一定速度c=3×10^8m/sで伝搬する「電磁波の一種」であると示しました。

以降の19世紀後半においては、このマクスウェルの方程式がいかなる座標系においても正しく成り立つか、という問題が物理学における最も重要な問題となりました。


歴史4-特殊相対性理論

1905年アインシュタインが考案した特殊相対性理論によって上記の問題は見事に克服されました。

アイシュタインは二つの原理から特殊相対性理論を創り上げました。
 ・特殊相対性原理
   ・光速度不変の原理

特殊相対性原理とは「すべての基本的や物理法則は、あらゆる慣性系において同じ形に書き表わされるべきである」というものです。

一方、光速度不変の原理とは「真空中に設けられた任意の慣性系において、光は常に一定速度cで伝搬する」というものです。

光速度不変の原理によると、ある座標系が慣性系であるかどうかを判定するには、その座標系における真空中の光速度を測定すれば良いとされています。

アインシュタインはこの二つの原理から、二つの慣性系を結びつけるガリレイ変換に代る新しい座標変換式を導き出しました。

特殊相対性理論の出現により、ニュートン力学は修正されることになりましたが、以前から提唱されてきたマクスウェルの電磁界方程式は何ら修正を必要とされず、そのまま生き残ることができました。 

(マクスウェルの方程式は最後に述べます)



歴史5-一般相対性原理


前節の特殊相対論では、物理現象を観測する座標系としては慣性系しか考えられていません。しかし慣性系というのは理想化された座標系であり、厳密にはこのような座標系は存在しません。

例えば、地球上に固定された座標系を考えると、地球は自転しているので、この座標系が慣性系とみなされるのは、地球の運動を等速直線運動と考えてよい十分短い時間の間のみです。

この例からもわかるように、物理現象を観測する座標系として慣性系のみしか考えないのは不合理であり、また実用上も極めて不便です。

そこで慣性系のみならず、任意の加速度運動を行なう座標系(非慣性系)においても物理法則を同じ形に書き表わすことができれば非常に都合がよくなります。

このような要求を満たすために、アインシュタインによって導入された原理が一般相対性原理です。

要するに慣性系だけでなく回転系も考慮したということです。


特殊相対性理論と一般相対性理論

アインシュタインが構築した相対性理論として次の2種類があります。

• 特殊相対性理論
光と時間・空間についての理論です。
任意の慣性系において物理法則は同じとする「特殊相対性原理」と「光速度一定の原理」に基づいて構築されます。

• 一般相対性理論
重力の理論です。
任意の座標系において物理法則は同じとする「一般相対性原理」に基づいて構築されます。



歴史の総括

おさらいです。
ニュートン力学が絶対視されていた19世紀、慣性系座標変換の規範となっていたガリレイ変換をマクスウェルの方程式に適用すると、厳密には成立しない問題がありました。

そのため電磁気学は、当時近似の理論と見なされていました。

アインシュタインはこの点に着目し、電磁気学の方に真実があることを見抜き、ニュートン力学を近似理論とする特殊相対性理論を作り上げました。



電磁気学の4つの法則

電磁気学はマクスウェルの4つの法則が大きな基盤となって理論体系を作り上げています。その4つの法則は次の通りです。

マクスウェルの基本方程式



上から順に
 1. 磁束保存の式
 2. ファラデーの電磁誘導の法則
 3. ガウスの法則
 4. アンペールの法則

と言います。1と3、2と4が対になっています。先立ってお伝えしますが、磁荷と電荷を混同しないよう注意が必要です。


1. 磁束保存の式「磁場が突然湧き出すことはない」

この世界に単一の磁荷は存在しないということを表しています。例えば、磁石では必ずN極とS極がペアになって存在し、N極だけの磁石やS極だけの磁石は絶対に存在しません。

※電荷は違います(法則3)


2. ファラデーの電磁誘導の法則「磁場が時間変化すると電場は回転を持つ」

電磁誘導とは磁石を動かすと電流が流れる現象です。この時の磁場と電場の方向関係を説明しています。

磁束密度(B)が時間的に変化(∂t)するとき、その変化を妨げる向きにうず状の電場(E)が生じるというものです。


3. ガウスの法則「電場は電荷があるところから湧く」

電荷(ρ)があると、その周りに発散(div)するように電場(電束密度D)が生じる、ということを表しています。

4. アンペールの法則「電場の時間変化と変位電流によって磁場は回転を持つ」

電場の時間変化∂D/∂tは「変位電流」と呼ばれます。これは実際に電流が流れているわけではなく、あたかも電流が流れているようにふるまっているだけです。

直接的に電流(密度i)が流れていなくても、その間の空間の電束密度(D)の時間的変化(∂t)は、まるで電流が流れているかのようにふるまい、そして右ねじの方向に(rot)磁場(H)を生じさせるということです。
 


あとがき

学問の特徴は、その学問が出来上がるまでのイザコザに左右されるものです。そのため、歴史から紐解くことでしか見えてこない特徴もあると思います。

今回は誰も持ったことのない着眼点から掘り下げました(多分)。いつもより時間がかかりました。

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