少し専門的な誤差の話3
誤差には色々あります。
・測定で生じる「測定誤差」
・デジタル変換に伴う「量子化誤差」
・計算に生じる「計算誤差」
・データ選択で生じる「選択誤差(バイアス)」
・主観で生じる「認識誤差(バイアス)」
前々回は、測定誤差について
前回は、量子化誤差と計算誤差について
今回は、それ以外のバイアスについて解説します。
バイアスとは
バイアスとは、データの収集方法によってデータが真の分布から一定の方向へずれてしまうことです。
系統誤差とも呼ばれ、研究過程で生じる偶然ではない誤差のことを指します。
人を対象にした実験や調査で頻繁に起こり、医学、社会学、心理学などではバイアス自体が研究テーマとなっています。
バイアスの種類
バイアスは様々ありますが、本稿では次のバイアスについて解説します。
・選択バイアス
・認知バイアス
・自動化バイアス
・報告、出版バイアス
・無意識バイアス
・回答バイアス
選択バイアス
選択バイアスは、データを選ぶ際に生じるバイアスです。 選択バイアスがあると全体の様子を正しく反映していないことになります。
研究対象者、研究場所、研究手段など様々な場面で生じえます。以下に代表例を示します。
標本抽出のバイアス
母集団または調査対象の全構成から無作為に標本を選ばないときに生じるバイアスです。
自己選択バイアス
研究対象として自発的に参加したものと、そうでないものの特性の差によるバイアスです。
脱落バイアス
研究対象者の中に研究途中で辞めた者がいるものの、それを無視して研究を継続した結果生じるバイアスです。
時間差によるバイアス
集団同士を比較するとき、両集団が時間に関して厳密には比較不可な状態であったために生じるバイアスです。
所属集団によるバイアス
研究対象が一般とは違うことによるバイアスです。例えば健康度・所得・生活レベルなどです。
認知バイアス
認知バイアスとは、思い込みや偏見など主観による思考の偏りです。人間誰しもが持っているもので身近に溢れています。以下に代表例を示します。
アンカリング効果
最初に受け取った情報や数字が判断に影響することです。
例えば広告でよくある「特売セールで5000円が2000円」というフレーズは、最初の提示価格よりも安い数字を表示させ消費者の購買意欲を刺激しています。
確証バイアス
自分の見解や仮説を証明したいがために偏った情報を優先してしまうことです。研究結果に偏りが出ないよう研究対象を限定しないこと、複数人体制で研究をすることが重要です。
内集団バイアス
人が持つ帰属意識がもたらすバイアスです。自分が所属している集団や組織、またはかつて所属していた集団を他の集団よりも高く評価します。
後知恵バイアス
事前に予想していなかったにも関わらず何かが起こった後で「そうなると思った」「予測できていた」とする心理です。
後知恵バイアスが働くと研究データ収集後、考察・分析がうまくできなくなります。
ピーク・エンドの法則
ある出来事についての印象が「ピーク(最も盛り上がる場面)」「エンド(最後の場面)」で決められるというバイアスです。最後が良ければその事象全体に対する印象が良くなります。
アポフェニア
少ないサンプルや一部の意見と結果に規則性を見出してしまう作用です。例えば学業で立派な成績を残した親の子育て論や、1~2例程度を根拠にした極端なビジネス論などがあります。
因果関係と相関関係の混同
複数の要素に因果関係があると思いこむ認知バイアスです。
・因果関係「原因とそれに伴う結果との関係」
・相関関係「一方が変化すると他方も変化する2つの関係」
つまり因果関係は相関関係の一部です。相関関係だからといって因果関係とは限りません。
全く関係がなく異なった原因であっても関連しているように見えることもあるので、これら2つの混同は要注意です。
報告バイアス
研究者が結果の全てではなく一部のみを報告した場合に生じるバイアスです。
人がデータとして記録するのは特殊な出来事や記憶に残る出来事となる傾向があることから、データセットが、現実の世界を反映していないことになります。
出版バイアス
出版バイアスとは、ネガティブな研究結果よりもポジティブな結果の方が受理されやすい現象です。
その結果、ネガティブではあるが重要度の高い結果 (例: 既存の医薬品に欠陥があった等) が世間に届かなくなります。
以下に出版バイアスの代表例を示します。
タイムラグバイアス
ポジティブな研究結果はネガティブな研究結果よりも早く出版される恐れがあることです。
ロケーションバイアス
ポジティブな結果程、影響力が強く広範囲に配付されるジャーナルに掲載される可能性が高いことです。
引用バイアス
ネガティブな研究結果よりもポジティブな研究結果の方が引用されやすいことです。
言語バイアス
研究結果を出版したときに使用される言語が、研究結果のポジティブ性・ネガティブ性に依存することです。ポジティブな程、英語のジャーナルに出版されます。
結果報告バイアス
ある研究でネガティブ・ポジティブ含め様々な成果が現れた場合、ネガティブな成果よりポジティブな成果を報告する傾向が高いことです。
確証バイアス
「認知バイアス」で既に説明しましたが、自分の見解や仮説を証明したいがために偏った情報を優先してしまうことです。
そのため研究の査読や出版を申し込む際、査読者やジャーナル編集者の意見や仮説に順ずる研究結果であれば、出版される可能性が高まります。
出資バイアス
研究の結論はスポンサーの製品に有利なように偏ることです。そのためスポンサーの利益に反する研究結果は出版されることは少ないです。
自動化バイアス
自動化システムに過度に依存することにより生じるバイアスです。機械の方が人間より正しいと思い込みすぎると、自動化されていない結果を信じなくなります。
例えば、電卓で求めた結果と手計算で求めた結果が異なる場合、私達は必ず電卓の方を真だと思ってしまいます。
無意識バイアス
その人の過去や経験、知識、価値観、信念をベースに形づくられた無意識のバイアスです。
例えば血液型で性格を想像するなどがあります。人は多くの無意識バイアスを持っていますが、無意識のため滅多に気付きません。対策としては多様なメンバーと交流するなどがあります。
観測バイアス
見られていると意識したときに行動が変化するバイアスです。観察者効果ともいいます。
ピグマリオン効果 (教師期待効果)
他者に対してある期待をすると、 期待する人の態度がそれに沿って変容し、期待された人も、その方向に行動をとるようになる効果です。
例えば教師が期待を持つほど生徒の成績が上
がることがあります。
ホーソン効果
ホーソン効果とは、 患者が信頼する医師に期待されていると感じることで、行動の変化を起すなどして、結果的に病気が良くなる(良くなったように感じる、 良くなったと治療者に告げる) 現象です。プラセボ効果の一種です。
回答バイアス
被験者が回答するときに生じるバイアスです。以下に代表例を示します。
中心化傾向
ある対象の属性について判断、評価を行う時に、その尺度上の中央に回答が集まる傾向です。
例えば「どちらでもない」 の選択が多くなるという傾向があります。
黙従傾向
質問に対し内容に関係なく考えずに肯定してしまう傾向です。難解や不明瞭な質問に対してよく起こります。
キャリーオーバー効果
ある質問内容によって、 それ以降の質問に対する回答にゆがみが生じることです。
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