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Milky Way

〈あらすじ〉

「とにかくこの場所から逃げ出したかった 。あの夢をみるようになってからそのおもいは日に日に増していった。
違う 僕のいるべき場所はここじゃないと 強く思いだした。」

ある青年が自分の存在に違和感を持ち自分探しの旅に出る。
途中で出会ったのは、全身みどり色の女の子、不思議な猫、そして庵寺の住職。そして行き着いた土地に言い伝えられた伝説に深く関わることになる青年の結末は?
過去と現在が夢という繋がりで結びついていく不思議な話


chapter1スケッチブック(p1〜p9)


p1
すべての日常に 嫌気がさして 家を出た。
わずかばかりの身につけるものと 気に入った
CD。
何度も夢にでてくる不思議な光景を殴り書きしたスケッチブック。
色鉛筆、金はほんの一握り。  

とにかくこの場所から逃げ出したかった。  

あの夢をみるようになってからそのおもいは日に日に増していった。  

違う、僕のいるべき場所はここじゃないと 強く思い出した。  

実際僕は、両親の子じゃなく かといって、 かわいそうな生い立ちでもなく、それなりの愛情や環境に囲まれていて普通に暮らしてきた。  

ただ何か、ずっと違和感があって 何か大切なものが 胸の奥のくらい部屋からなくなっているような 気がずっとしていた。  

あの夢は それを強くさせるものだった。  

とりあえず南に行く列車の片道切符を買い、着いたばかりの列車に飛び乗った。  

何処へいくあてもなく
ただ ナニカに突き動かされている。  

それに身をまかせてみようと想った。  

あんなことになるとはその時は、感じるすべも予兆もなかった。  

季節は初夏に向かおうとする若葉がむせかえるように 青い世界だった。


p2

住み慣れた町の景色が 僕の頭の中から消えていくように 窓の外でどんどん後ろに流れていった。

僕は少しだけ窓を開けて 初夏の風を嗅いでみた。

今までは気にも留めなかったが もしかしたら もう二度と戻らないかもしれないと思うと肺いっぱいに吸い込んでみた。

僕の細胞に刻み付けるみたいに、むせかえるまで吸ってみた。
いつか戻れるようにそうしたかったのかもしれない。

列車のリズムに身を任せているといつの間にか 眠りこんでいた。

そして、また、あの夢の中にいた。

何度も何度も見てしまうあの夢
僕を突き動かす あの夢だった。  

 目の前には しろいもやもやした 煙なのか霧なのか とにかくよく見えない。
ただ目をこらすと 薄らぼんやり 誰かがいるようだ。

白いもやもやのなかなのか あちら側なのかとにかく 輪郭が薄くわかるくらいの 何かが そこにいた。

かばんの中のスケッチブックとは ちがう情景だが 同じ感覚がずっと続いているのは間違いなかった。

列車がカーブを曲がって ガタンと揺れた瞬間 僕は 目が覚めた。

外はもう 知らない景色になっていた。      

p3
 やはり消えてない。いつか見なくなるんじゃないかと スケッチブックに書き留めたり その事ばかり考えようとしたりしてきた。  

僕は間違ってない。  

この時だけは 強くそう想った。  

この夢は僕に何か教えようとしてるんだ。  

窓の外の流れる景色を見ていたら 何番めかの駅に着き何人か乗り込んできた。  

荷物を両手に抱えた腰の曲がったおばあさん サボリなのか今時いるはずのない学生、こども連れの親子。  

最後に乗ってきたのが 彼女だった。  

一際めだっていたから ハッと見直してしまった。
彼女の周りがスーッとモノクロのグラフィックのようにはっきりとしていた。  

彼女を引き立たせるようにそう見えたような気がした。  

彼女は 木村カエラばりの前髪で 大きな目ギリギリに髪を切っていた。  

夏も近いのに 緑色のニット帽と チェックのコートを着ていた。  

背中にはリュックをしょっていた。  

とにかく 不思議な 雰囲気の女の子だった。

p4
乗り込んできた彼女は あたりをキョロキョロ見渡して 空いている席から 僕の反対側の席を選んで すわってきた。  

そう、選んで座ったと思いたかった。  

何気なく装って 窓の外を見ていたが、僕の視野の端っこには確実に彼女の姿がとらえてあった。
むしろそちらに視神経を研ぎ澄ますくらいだった。  

彼女は 大きな、これもまた鮮やかなグリーンのリュックサックを上の網棚にのせてこれからの長旅に向けて居心地のよくなるよう いろいろ揃えて自分の向かい側の座席に置いて座っていた。  

iPod

水筒
マーブルチョコレート
色鉛筆
そして スケッチブック  

『ああっ』  

僕は思わず声をあげてしまった。  

『えっ 何』  

彼女は僕の方を驚いた顔で振り向いた。  

その瞳は 薄い茶色でどこかで見たような色だった。  

『どうかしたの』  

『いや ごめん びっくりさせて ただ 僕も持ってるんで スケッチブック…』  

それが彼女との 初めての会話だった。  

何処まできたんだろう。
列車は町の景色から緑が多く まるで緑のトンネルをくぐっていくようなところを走っていた。  

始まりの入り口かもしれない。
彼女に会って そう思った 。  

p5

 彼女と話すきっかけにはなったが それがまさか スケッチブックだなんてとっさに出た声を押し戻したかったが もう遅かった。  

僕は 覚悟を決めて 切り出した。  

『僕も 絵 描くの 好きで いつも持ち歩くんだ スケッチブック。キミもなの?』  

ありきたりの言葉しか出せない自分がなさけなかったがその時は精一杯の言葉だった。  

『これ 私なの』  

意味がわからなかった。
すぐさま続けて彼女は話しだした。  

『私 すぐに 記憶が消えてしまうみたいなの だから 大切な事とか 場所 建物 人とかを 描いておくのだから これ 私自身なの』  

彼女は人から そう言われて 医者にはまだ行ってないがどうも 記憶がなくなるらしいので 大切な事 気に入ったことを その時にスケッチブックに描き残していると 僕に話してくれた。  

『見る?』  

『え! いいの?』  

僕は 彼女の席に近づいて スケッチブックを 受け取った。  

かすかにオレンジのような柑橘系の香りがした。

p6

彼女から受け取ったスケッチブックを手にとると かなり使い込んだんだろう 角が丸くなっていて 手になじむ感じがした。  

ゆっくりと 表紙をめくってみた。  

そこには柔らかな色使いで ただ輪郭はハッキリと人の顔がいくつか描かれていた その近くには名前とセリフのようなコメントが書きこまれていた。  

『あ それ その人が言った言葉 すぐ忘れちゃうからさあ』  

そういうと 一人ひとり説明をしだした。
すべて忘れる訳じゃないみたいだった。  

きっかけがあれば 頭の引き出しから引っ張ってこれるんだ。
その引き出しのカギがこのスケッチブックにあるんだ。  

しゃべる彼女を見てそう理解した。
僕のことも ここに載るのかな ふと そう思うと おかしくなった。  

そのあともめくる度に彼女は 『あ それは…』と 右の人差し指で こめかみをトントンと 押しながら思い出しの作業をやっていた。  

そう、作業なんだろう 彼女にとっては。  

『ああ、疲れた。いっぱい考えたからね それに、朝早かったからね。 ちょっと寝るね。適当に見てていいよ』と 言って椅子に足を曲げて乗せ丸まって猫のように寝てしまった。  

不思議な子だ。  

でも なぜか暖かい。心が ゆっくりと温められていく気がする。
そんな不思議な雰囲気を持っている子だ。  

よほど疲れたんだろう スーッと寝息をたてて彼女はほんとに寝てしまった。  

僕は彼女のチェックのコートを網棚から下ろして掛けてあげた。
彼女の横顔は、 長いまつげが印象的であの茶色の瞳によく似合うカーブと長さだと思った。
彼女は化粧をしてなく それでも頬はうっすらピンク色をしていた透き通るくらいの白い肌が またあの茶色の瞳を引き立たせるような白いキャンパスのようだ。  

席に戻ると僕はまた『彼女自身』を見つめはじめた。
色鉛筆で 丁寧にいくつかの 色を重ねてあるが 全体的に緑色をしていた。  

『よほど緑が好きなんだろう』思わず笑ってしまった。  

しかし その笑いも次の瞬間 かき消されてしまった。  

そのページをみた瞬間 固まってしまった そこには あの景色が描かれてあった。
僕がいつも夢で見る ここに居るきっかけとなった あの夢の景色が 描かれてあった。  

緑色は使われてなかった。

『なんで どうして』心で叫びまくった。
声になりそうなのを必死でこらえた。

彼女を起こさないように 僕はスケッチブックを見つめたまま 彼女の目が覚めるのを待つしかなかった。

p7

彼女の体は列車のリズムに合わせてゆれていた
まるで ゆりかごに乗っているようだった。  

そのページは ほかのと違って 鉛筆で スケッチされていた 。
ただ、人であろう その輪郭だけは やはり緑色で描かれて
あとはそのまわりをぐるぐると雲のようなモヤモヤを表そうとした線が幾重にもかさねて描いてあった。  

白というより グレーになっていた。  

何なんだろう?  

つぎのページはさっきとちがって 鮮やかな緑色 。
ただ 彼女が好きでその色を使っているというよりも 規則かなにか決まっているように 使っていると 思えた 。
なんでだろうか そう感じた。  

エメラルドグリーン イエローグリーン
ビリジアン
パットグリーン
ボトルグリーン
色々な緑色で 描かれていた。  

ちょうど列車が走ってる窓の外の緑のトンネルのような絵だった。  

用紙いっぱいに丸くや四角や葉っぱの形をいろんな緑色で現していた。  

隣の席の彼女は 気持ちよさそうに寝息をたてていた 。
僕は待つしかなかった。  

列車のリズムに体を預けていたら いつの間にか僕も寝てしまっていた。

p8

夢の中にいた。  

見上げると 緑の木々が覆いかぶさっていた。色々な葉っぱの重なりの間から太陽の木漏れ日が キラキラと 光っていた。  

空気はとてもひんやりしていて 夢なのにそう感じていた。  

その緑のトンネルはずっと続いていて僕は先に進んでいった 。
すると 小さなお寺 いや 庵寺のような建物が見えてきた。  

低い垣根があって まるで時代劇のお屋敷のような たたずまいだ。  

胸くらいの押し戸を開けて
中に入ると左には 子どもを抱いた母親のようなお地蔵さんがいた。  

右側には 一本の梅の木が 綺麗に手入れされて立っていた。  

僕はその木に見覚えがあった たぶん赤い梅の花が咲くんだと思った。  

建物の扉に手をかけて開けようとした時、何かが僕に触ってきて目が覚めた。



彼女だった。  

『ねえ それ 変でしょう?
何のことだかわかんないのよ。
見たこともないけど覚えてないのかなと思ったけど とにかく書き留めて いたのよ。
その後何回も夢に出てきてさ、
夢ってわかった時は 笑ったけどね』  

『実は 僕も こんな絵を描いているんだ ちょっと待ってて』

僕は向かいの席のリュックの中からスケッチブックを取り出すとあのページをあけて見せた。

『へー 不思議だね ほんと 同じだ。 でもあなたの方が上手ね。 この人 誰なんだろうね。
同じ人かなあ。』  

彼女は 僕の隣に座ってスケッチブックを覗きこんでいた。  

やっぱりかすかに柑橘系の香りがした。



p9

僕たちは昔っからの知り合いのように そばに座っていた。
彼女は 僕と同じ18歳で 専門学校に通っているらしい。何の学校かは聞かなかった。
その格好からファッション系だろうと勝手に思った。  

名前は りさ。ひらがなで りさ らしい。
どうしてこの列車に乗ってきたのかは よくわからなかった。  

彼女もただなんとなくしか 言わなかったから。それにどうでもよかった。  

ここにいる。二人が出会った。それがすべて。今が すべてだから。心からそう感じた。
そして 心が温かくなってきた。
晴れた日に干してフカフカになった布団に 顔をうずめて眠る あの時のあのほっこりとした 温かく心地よい感じがした。  

僕は少し彼女に近づくように 体をずらした。腕がくっつくくらいに。 やっぱり心地よかった。  

彼女も嫌がるわけでもなく 頭をゆらゆら横に 列車の揺れに合わせて動かしていた。  

しばらく じっと列車に身を任せていると 突然 彼女が立ち上がった。
『あ! 次で降りなきゃ。』
慌てて 自分の席に戻ると網棚から荷物を降ろして色々なグッズをリュックに片付けていった。  

コートは着ずに リュックを背負い 膝の上に コートとスケッチブックをのせていた。僕も慌てて荷造りした。彼女と同じところで降りなきゃと思った。
言われたわけでもなく からだが自然に動いた。
彼女と同じように 膝にスケッチブックを置いていた。  

駅に着くと 彼女は僕の方に目をやって 『来る?』一言だけ言ってドアの前に行ってしまった。  

僕ななんの躊躇もなく 彼女の後をついていった。
後ろに立つと ちょうど僕の鼻の前に彼女の頭がくるかたちになる。  

彼女の柑橘系の香りは 髪の香りだった。  

着いた駅は 無人駅で周りはやはり 緑がさまざまな色を織り成していた。  

思いっきり緑を感じて深呼吸をすると 僕の細胞が一気に目覚めるように からだが軽くなった。  

今までのしがらみが抜け落ちたのかもしれない。  

新しく何かが 大きく変わる。  

そう感じたのは 僕だけではなかった。  

彼女も 大きく手を広げたり前でクロスさせたりして 大げさに深呼吸をしていた。
その仕草に思わず 笑ってしまった。  

空は 突き抜けるように 青かった。


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