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Silver Story #48

首からかけたカメラの重さが日本での毎日を私に思い出させていた。
確かにここにお世話になって、いや、あの穴みたいなのに落ちてからアレヨアレヨと色んなことが起こっていたから、ホテルに連絡するなど頭の隅にも浮かばなかった。
しかも、持ってきた携帯は、落ちた衝撃で見事に壊れているときたから連絡のしようがない。

ユキさんたちに頼めばよかったがさっきも言ったけどあまりにも事の展開がすごすぎて脳が通常通りの段取りを思い出しもしなかった。

非日常へ連れ去られる。

そうさせてしまうのがバリ島なのかもしれない。
バリ島の風土の湿気と熱気でボーッとなるだけじゃなく、神々の国と言われるようにやはり目に見えない力を見事に受けている、そんな感じだ。

日本にいる彼らのまぼろしを見たことで少しずつ日本の生活感を取り戻すようになってきた。
大使館に行って、光一さんに連絡することにしよう。その時のお母様の様子を伺いながら光一さんへの対応を考えよう。

まあ、お母様はきっと嫌がるだろうが光一さんにその存在を伝えることだけは了承してもらいたい。そうすることが私の使命のような気がするから、バリの神様に導かれていろいろ不思議な出来事を目の当たりにした意味がそれだと思うから。

あ!そうか!
あの夢の中で聞いた 「トキハナテ …」という言葉は、きっとこの二人の深い絆に関係する言葉だったんだ。
今、本当に確信した。

お母様は、いつものように変わらずに優しい微笑みで過ごしているが、その内心はきっと複雑なんだろうと思う。

どう切り出せば良いのだろうか?

言葉を選ばなくてはいけない。

その前に、ユキさんにも相談してみないといけない。
ユキさんは、本当の父親に今でも会いたいのだろうか?
私と知り合ったことで、お母様と光一さんの出会いや思い出、そして別れ、つまり村長さんが光一さんとお母様を引き離したことや、何よりも自分の本当の父親の存在が、ハッキリしたことをいきなりいっぺんに知らされて、すんなり受け入れることができたのだろうか?

サリナちゃんの祀りの事もあってゆっくりそのことについて話し合うことも出来なかったからユキさんは、今までどんな心境で過ごしていたのだろう。
私をココに連れて来たことを後悔していないのだろうか?

大使館に行くことになりユキさんへの疑問がどんどん顔を出してきた。お母様には聞かれたくないかもしれないし、お母様も耳に入れたくないかもしれない。
だから、なんとかユキさんと二人だけになる機会がないかと強く思ってきた。

病院か、大使館かとにかく日本へ連絡する前にちゃんとユキさんに聞いてみよう。それから、お母樣にも。

それをすることは、つまりは、いよいよこの家から、このバリからサヨナラする時間が近づいてきているのだとみんなが悟るきっかけになるのだろう。

#小説 #バリ島 #バリの話 #カメラマン #一人旅

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