見出し画像

日本ブリーフセラピー協会第12回学術会議参加レポート

年次大会はオンラインで開催されています!2020年11月8日まで!

https://www.senkyo.co.jp/nfbt2020/index.html

シンポジウム「情報処理と臨床心理学ー現在の到達点とこれから」

近年、情報処理技術は飛躍的な発展を遂げています。情報処理技術を臨床心理学的なアセスメントに応用することで、従来の方法では検出できなかったリスクの発見や、早い段階からの支援提供が可能となります。また、アセスメントへの応用のみならず、介入への応用についても検討が行われ始めています。しかし、現在の技術において、臨床心理学的な実践の全てを人工知能に置き換えることは現実的ではありません。その一方で、人工知能の強みを生かした適用場面や活用方法があります。そこで、今回のシンポジウムでは、遠い未来の話をするのではなく、現在の技術の到達点において活用が期待される場面や活用方法について紹介し、検討を行います。
話題提供:坂本真樹(東京電気通信大学大学院 情報理工学研究科 教授)
     横谷謙次(徳島大学大学院 社会産業理工学研究部 准教授)
     高木源(東北福祉大学 総合福祉学部 助教)
指定討論:花田里欧子(東京女子大学 現代教養学部 准教授)

「言語情報による心身のアセスメント」(坂本真樹先生)

1.自己紹介

・感性情報学
・人工知能先端研究センター

2.書籍


3.痛みの評価とオノマトペ(擬音語、擬態語)

・オノマトペによる心身の不調の数値化

①評価尺度と比喩候補の選定
②オノマトペの情報の定量化
③比喩の印象の定量化
④オノマトペと比喩の類似度算出

4.感性AI空間FUWAKIRA

「変化へ向かう言葉は問題賭博者の回復勾配を示す」(横谷謙次先生)

「目標のカテゴリー分類と具体性および実現可能性の機械的な評価」(高木源先生)

協力:加藤雄平氏(EYアドバイザリー・アンド・コンサルティング株式会社)

1.目標のクラスター解析

2.目標設定、ミラクル・クセスチョン、目標設定、例外探しに対する回答の評価

①教師データ:具体性と実現可能性の専門家による評価(2百数十名)
②機械学習:Google Cloud Auto MLのNatural Language


WS「ブリーフ・ペアレント・トレーニングことはじめ」(松本宏明先生)

※ペアトレはちゃんと勉強したことなかったので、参考になった。やっぱり、ブリーフ的配慮(by 菊池安希子先生)が重要か。

ブリーフ・ペアレント・トレーニング

導入:概要説明
ステップ1:3つの行動(好ましいい、好ましくない、危険)
ステップ2:好ましい行動を増やす→肯定的な注目
ステップ3:好ましくない行動を減らす→否定的な注目
ステップ4:危険な行動をやめさせる→指示
・現在行えている点を活用しつつ、小さな変化を目指す。無理に変われなくてもOK。大変なことはやらなくていい。

一般にはグループだが、BPTは個別面接

逆説的なエンパワ:続かなくて普通。やってみることに意味がある

ステップ3:無視をスルー力、褒める準備と位置づける

変化志向が悪循環を作り、保護者の方を苦しめる危険性がある。BPTでは、次の点がポイント:

①資料の簡素化
②課題を無理にしなくていい姿勢
③各ステップで、逆説的に抑える工夫



WS「最新のコミュニケーション研究とブリーフセラピー」(花田里欧子先生)

※コミュニケーション研究の概要がわかってとても勉強になった。

1.これまで行われてきたこと

・「家族心理学ハンドブック」「VIII-4 家族療法の理論・技法に関する研究」(長谷川・若島・平泉、2019)

・ヴィクトリア大学:人間コミュニケーションの語用論の実証研究
・2者関係のコミュニケーション:コミュニケーション論、情報論、システム論、ディスコミュニケーション、問題相互作用モデル、笑顔の自己制御的機能、相互作用の冗長性
・3者関係以上のコミュニケーション:情報回帰速度モデル、コミュニケーションパターンの関係性の類型と変化(シンメトリー、コンプリメンタリー、ハイダーのバランス理論)


・解決志向ブリーフセラピーハンドブック

・マスターセラピストのトレーニングビデオを用いた研究


2.現在の研究:感情推移観測システム EMO system

3.今後の研究

・音声ー加速度同時記録システムによる面接の計測評価(八木ら、2013)
・ノート仕様のインタラクションへの影響評価(井上ら、2020)
・スキーマ療法における感情評価の定量化(仁田ら、2019)

厚労省ウェブサイト

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/hattatsu/gaiyo.html


WS「組織で生かすブリーフセラピー 組織の中でのブリーフセラピーの事例から考える可能性(森川友晴先生)

チェリッシュグロウ株式会社

目指すこと:
・全ての仕事をする人が、心理学や心理療法を当たり前の知識として身につけており、セルフケア、部下育成、管理職のマネジメント、社外対応など、様々な仕事や生活の場面において、より楽に軽々と行動することができている状態を作る
・コミュニケーションスキルの常識を1段上げていきたい

1.ブリーフセラピーの組織内活用

・面談、面接
・面談外での、考え方、スキルの活用

<事例1>

・完璧主義的な人の職場復帰のサポート

<事例2>

・女性管理職比率を上げるためにブリーフの活用

ー解決志向:今後期待できそうな人は?目標は適切か?
ー情報伝達の仕方は?施策が「がんばれ!」というメッセージを伝達していないか?

・「正しいが効果がない」に目を向ける

ー正しいし効果がある
ー正しくないが効果がある
ー正しくないし効果がない
ー正しいが効果がない

2.様々な活用場面

・問題行動への対応:パワハラ等
・育成場面
・商品開発
・組織構造の構築
・組織開発のファシリテータ


WS「企業とのコラボレーションとブリーフセラピー」(椎野睦先生)

複写禁止とのことなので、キーワード的に。

1.ブリーフセラピーとは

相互作用の循環への介入、二重記述モデル(例外あり→解決志向、例外なし→パラドックス介入)、ベイトソン(システム視点)、ミルトン・エリクソン(活用、ユーティライゼーション)

2.カンブリアナイト https://www.cambriannight.com/

・カンブリアサイクル:見える→わかる→できる→変わる→見える

※私の場合は…「心理尺度、心理状態、コーチングとコンサルティング、組織開発とWell-beingの促進」かな。

3.A4 Cycle: Assessment→Analysis→Action→Adjust

"エンジンの速さは2つの方法で変化する。1つはアクセルの操作、1つはクラッチである" P.Watzlawick, J.H. Weakland & R. Fisch

4. WINFrontier Co. https://www.winfrontier.com/

・Lifescore Quick:心のバランスチェック、ウェアラブルデバイス

・CoCoLoLo:健康管理アプリ

スマホカメラに約30秒指先を当てて、皮ふの色変化から心拍のゆらぎを検出し、8タイプのキモチ(ストレス・リラックスの傾向、お疲れ具合等)を簡単に「見える化」します。

5.メンタルヘルス・ツーリズム

6.課題

①A4CycleのAnalysisにブリーフセラピーの理論を応用したらどんなAssessment、Action、Adjustが考えられるか
②メンタルヘルスがAssessmentできるデバイスを活用してどのようなA4Cycleが描けるか

※私の回答

①:求職者が運搬業を避ける理由の見える化→ブリーフ(悪循環、ソリューション、活用)→問題解決→運搬従事者求人への応募促進

COVID-19感染拡大の影響で倒産する企業が今後益々増えることが予想される。一方で、企業の業績悪化で、多くの企業で採用が抑制され、医療福祉、運輸、生活必需品の小売、IT関連、建設業など、特定の業種に雇用が集中している。結果として失業率が上がれば、益々経済が悪化する可能性がある。

運輸業の人手不足の原因として、トラックの積載効率の悪さや再配達等ライストマイルの問題が考えられるが、これらについては、積載物のサイズの一律化や起き配の促進等対策が進んでいる。一方で、ドライバーや運搬行従事者の高齢化や労働環境の悪さへの対策は不十分といえる。対策として提案されているのは、柔軟な働き方の促進である。例えば、多様な就労形態(パートタイム、シフト制、短時間勤務等)、副業解禁、未経験者、女性、高齢者、障害者の雇用促進、定年引上げ、ドライバー、作業員、事務職間の職種転換の柔軟化が推奨されている。

こうした労働環境の改善が進むことで、既存の労働者の離職が低下するだけでなく、新規労働者の獲得につながると考えられる。

そこで、Adjustとしては、運搬従事者求人への応募促進とし、ブリーフ(Analysis)で何かしらの問題解決(Action)を図ることを考えた。Assessmentとしては、求職者にとってのトラックドライバーの魅力と欠点の調査が考えられる。

求職者は大きく分けて3パターン。新卒と転職と、休職者や高齢者の再就職。あまり現実的でない気もするけど、無難に新卒で分析を進める。ドライバーも短距離と近距離があるが、今回は近距離について考える。

Assessmentの結果として想定される、休職者が近距離ドライバーを避ける理由としては、長時間労働、低賃金、駐車違反、交通事故リスク、車離れ、コンプライアンス強化、賞与少ない、休日が少ない、退職金が少ない、ドライバーにしわ寄せ(クレーム等)、休日出勤、荷役作業がきつい、イメージが暗い、キャリアラダーの未整備等が考えられる。

逆に、魅力としては、一人仕事である点と、車が運転できる点、転勤が少なく、安定していて、将来性がある点だろうか。

マイナビによると、学生が行きたい会社は「安定している」「やりたい仕事ができる」「給料がいい」「これから伸びそう」「勤務制度や福利厚生がいい」「休日、休暇が多い」「働きがいがある」「社風がよい」だそうだ。一方、行きたくない会社は「ノルマがきつい」「雰囲気が暗い」「休日が少ない」「転勤が多い」「仕事が面白くない」「残業が多い」「給料が安い」「体質が古い」「差別がありそう」「財務内容が悪い」となっている。

こういったAssessmentを基に、解決像の構築「新卒者に人気の職業になったとしたら、今と何が変わっているか?」、悪循環の分析「現在起こっている問題と偽解決の連鎖は?」、資源の整理「問題の解消と望む未来像の実現のために活用できそうな資源や強みは?」をAnalysisで行い、実行に移すことが考えらえる(Action)。


②:メンタルヘルス→わかる→できる→企業の生産性向上

交感神経と副交感神経の働きから、心の健康状態を把握するのはとても難しいと思う。可能性があるとすれば、夜間に十分副交感神経が亢進しているか、交感神経と副交感神経の更新状態の切り替えが柔軟にできているかといったところが指標になりうるか...とはいえ、集中しているときは交感神経が亢進して欲しいし、一方で、それがずっと続いて、休みたいのに副交感神経が亢進しないと困る。自律神経の適切なバランスは、常に、そのとき何をしているかによって決まるので、切り替えが適切かどうかをどう判断するかは悩ましい。副交感神経の亢進状態を休息と定義し、休息の割合を基に、疲労度を判定してもいいかもしれない。

とはいえ、心の健康状態がモニターできるデバイスが開発されたら、どんなビジネス応用が考えられるか。A4Cycle で考えてみる。

精神疲労の蓄積度を評価し、その日どの程度頑張ったらいいかを、機械が提案してくれるようなシステムができるといいと思う。さらに、実際の活動のモニターから、その日の頑張り度をフィードバックできるといい。それにより、持続可能で最適な働き方の実現をサポートする。

Assessment:精神疲労の蓄積度と1日の頑張り度の評価
Analysis:ストレスとリカバリー経験に関する理論
Action:①精神疲労の蓄積度の評価から最適な頑張り度を提案する、②1日の活動をモニターし、頑張り度をフィードバックする
Adjust:持続可能で最適な働き方の実現

Assessmentとして必要なのは、自律神経の活動パターンから、精神疲労の蓄積度と、1日の頑張り度を評価するデバイスである。

Analysisにあるように、基礎理論として、ストレスとリカバリー経験に関する理論を採用する。この理論では、ストレスが蓄積し、メンタルヘルス不調に至るのは、仕事以外の時間に十分なリカバリー経験(休息)が得られていないからであると考える。さらに、本4A Cycleでは、仕事外の時間の休息だけではなく、仕事中のエネルギー消費についての考慮する。

つまり、精神疲労が蓄積していない状態であれば、80%~100%の頑張り度(エネルギー消費)が最適であると考え、精神疲労が蓄積しているようであれば、蓄積度に応じて80%よりも頑張り度を下げて、精神疲労の蓄積を抑え、リカバリーを助ける必要があると考えるということだ。

頑張り度の評価は、交感神経の亢進割合から、0%~150%位で算出されるようにする。AssessmentやAnalysisの段階で、疲労蓄積度の評価アルゴリズムと、最適な頑張り度の提案アルゴリズムの開発が必要となる。

Assessment技術が開発され、Analysisの結果から、精神疲労の蓄積度を評価し、最適な頑張り度を提案するシステムが開発されたら、Actionの段階で、実際に運用を行う。

Adjustの段階では、活用度や提案に対するコンプライアンス、結果としてのウェルビーイングや生産性を評価する。


ちなみに、労働安全衛生総合研究所もこんなの出してます。

疲労測定アプリ「疲労Checker」

・ビジランス課題(PVT)を応用した疲労測定アプリ


WS「産業分野におけるブリーフセラピーの活用」(野口修司先生)

医学部臨床心理学科ってかっこいい!そして、産業臨床の話って。最高じゃないか。

1.産業分野におけるストレス要因

・業務に関する負担:量が多い、内容が難しい、思い通りにならない
・人間関係に関する負担:上司、同僚、部下と合わない
・その他の負担:家庭、体調、金銭の悩み等

・慢性的なストレスの結果:無力感、自責感、不安感、絶望感、怒り・憤り、無気力、不眠、動悸、非現実感、感情の麻痺、体調不良、他人との会話や関係が億劫になる≒うつ症状

2.ブリーフセラピーの理念と「問題に応じた3段階の対処」

・理念

①上手くいっていないことは変え、上手くいっていることは続ける
②有効だと思われることは何でも利用する
③「深刻」にならず、「真剣」に
④「ユーモア」を大事に

・3段階の対処

①個人レベルの対処:個人内の問題、家庭やプライベートの問題、当事者のみの力で解決できる
②職場レベルの対処:職場に関連した問題かつ、当事者本人に解決するためのエネルギーが見込めない
③組織レベルの対処:個人レベルでも職場レベルでも対処が難しい。本人の疲弊かつ職場に余裕が無い場合など。人事の活用等。

※個人、職場、組織、それぞれのレベルへの対処の事例

・「ユーモア」を使って、問題に対して「どうでもいい」と思えるようなアプローチを行う

※第1段階がダメで(医療受診)、第2段階もダメで(上司に伝える)、第3段階(人事にだけ伝える)を提案すると、提案に乗ってもらいやすいかもな。

・「Cl-Clの所属長ー人事課」間のコーディネーターの役割を果たす

3.人間関係の持つ力

・どちらが良い?

a. 個人の業務量は少なく、みんなに余裕があるが、所属内の人間関係が良好ではなく、それぞれが黙々と自分の仕事をこなしていく職場
b. 個人の業務量は多くてそれぞれが仕事に追われているものの、所属内の人間関係は良く、お互いに忙しさを共有したり励まし合ったりしながら仕事をこなしていく職場

・人間関係が良ければ業務のストレス要因があってもある程度カバーできるのでは?そういう組織を作りたい。

※めっちゃいいな。「肯定的相互作用尺度(二層性解決志向コミュニケーション尺度)」とか使えそう。


WS「ブリーフセラピーの極意」(若島孔文先生)

合意=核心部、基本、自ら発見するもの

ヘイリー

洞察による変化の否定
過去の語りによる変化の否定
理性的な変化の否定

※過去と未来は観念的に固定される。現実は今で、常に変化している。【諸行無常】

森田正馬

・1919年に森田の心理療法は成立
・症状と一つになることで、症状が症状でなくなる『大乗起信論』の「真如の月」
・大乗起信論:一切の対象はこころの対象
・真如の月:月が雲に覆われて見えなくなるが、晴れれば姿を現す

1.臥辱:何もせずに横たわる
2.作業:考える代わり。制限を付けて何かする。気晴らしの禁止
(3.規則正しい生活:水浴、早寝、早起き、食事)

ブリーフセラピーの基本(Weakland Ray & Schlanger 2009)

1.ターゲットを明確化する
2.操作可能なターゲット
3.ターゲットとなる問題への解決努力
4.その解決努力をやめさせるための戦略的介入
5.システミックな視点(※個人レベルでは森田療法)

Erickson (1954)

・治療モデルを示さない
・質問よりも「観察」
・変化のために症状や問題を利用する
・間接指示(≒森田療法の臥辱)

短期療法を定義する

1.現在>過去
2.問題解決>原因追及
3.特徴を活かす>特徴を否定する
4.Heleyによる3つの視点

de Shazer (1985)

1.「例外」という考え方
2.最小の変化と波及効果
3.なにか、違うことをやれ

短期療法の統合モデル

・有効:拡張
・逆効果:やめる、代替行動、何違ったこと

Krepelin (1856-1926)

・呉秀三(1865-1932) によってもたらされたドイツ精神医学(その他、Pinel 1745-1826 以来の人道主義をフランスから持ち込む)
・クレペリン体系
・内因、外因、心因
・了解可ー了解不可

システミックな視点

1.相互作用
2.円環性(原因即結果、結果即原因)
3.勢力
4.境界線(情報の開示と隠匿、情報回帰速度の違い)

構成という視点

・情報を収集して事実を把握する
・情報を会話により構成していく

面接の開始

・逆説的問答→幅の広がり
・一番ひどかったときは?
・逆説的スケーリング
・現状の有意味さ(リフレーミング)

介入課題

・単なるアドバイスにならないこと
・シンプル(前提や場合をおかない)
・思いつかないならば出す必要はない
・異常から別の異常を媒介して正常な行動へ。例:寝ない(Haley)

<<事例は省略>>

最後に

・抽象的であることの良さ
・面接者の前提が大事
・0点をダメ人間とする(10点も問題)スケーリング→現状を肯定的に、有意義なこととして意味づけていく

(同)実践サイコロジー研究所は、心理学サービスの国内での普及を目指しています! 『適切な支援をそれを求めるすべての人へ』