国際コーチング心理学会2020参加レポート
参加レポートといっても、参加したのは、マスタークラスの「Accentuate the Positive in Family Life: A Positive and Coaching Psychology Approach/家族の生活のポジティブを促進するーポジティブ・コーチング心理学アプローチ」だけですが…
Slackを作ったので、関心のある方は情報共有しましょう!
"ファミリー・ライフ・コーチング・プラクティス" https://join.slack.com/t/flcp2020/shared_invite/zt-iaauw16s-U9PIbukMMYAq6940exQyEg
(11月13日まで有効それ以降はご連絡ください)
講師はDr.Kimberly Allen
見るだけでポジティブ心理学が専門だとわかるとても雰囲気の良い方でした。
内容は、一言で言えば、ファミリー・ライフ・コーチングのお話。
ファミリー・ライフ・コーチングとは
ファミリー・ライフ・コーチングとは、家族教育とライフ・コーチングを足したものこと!とはいえ、日本人にはどちらも馴染みが無いのでイメージがつかないかもしれませんね。わからないかもしれませんね。
Myers-Walls, J. A., Ballard, S. M., Darling, C. A., & Myers-Bowman, K. S. (2011). Reconceptualizing the domain and boundaries of family life education. Family Relations, 60(4), 357-372.
こちらの論文によると、家族実践に含まれるのは次の3つ。
1.family life education (FLE) / 家族ライフ教育
2.family therapy (FT) / 家族療法
3.family case management (FCM) / 家族ケースマネジメント
2は比較的イメージしやすいですかね。典型的なのは、不登校など、困っている家族成員を抱える家族が、カウンセラーに会って、協力して問題解決に取り組むことです。
3はもう少し福祉寄りで、例えば、一人親家庭なんかで、困ったことがあった場合で、ソーシャル・ワーカーに会って、家族療法を含めて、色々な制度の利用について相談することです。
ファミリー・ライフ・コーチング学会
https://www.flcassociation.org/
Kim先生も共同設立者の一人である、国際団体とのことです。日本にもこの学会欲しいですね。
日本に「家族教育」ってある?
1は、日本ではやられていないですね。様々なライフステージに応じて、断続的に行われているといってもいいかもしれません。妊娠出産からいくと、市役所や病院で、子育てについて資料をもらいますね。パパ・ママ教室もあるかもしれません。未就学の段階では、健診が主な教育の機会になりますかね。民間では「マタニティ~」とか「習い事」とかいろいろありますが…
小中高校生の子供を持つ親への教育は、皆無ですね…発達障害や不登校など、特別なことがあった親だけ、色々と教育を受けますかね。特にこういう部分で、欧米では、ペアレントトレーニングやペアレント・コーチングが行われているわけですね。子供の発達についての親教育も含まれます。性教育も含まれますよね。
子供が大きくなって、独立したら…独立した子供との関係の保ち方や、夫婦での家族の在り方、ライフ・プランニングや、ファイナンシャル・プランニングが問題になります。この辺りも家族教育ですよね。さらに、老後に向けて、介護の受け方や死に方なんかも学ぶ必要があるかと思います。ここは完全にマスコミだよりですね…
子供に目を移して、青年期、性教育や、恋人との関係の作り方は、家族教育やカップルセラピー、家族療法の領域です。この辺りは、婚活カウンセラーさんが頑張ってますね。心理学の専門家は出遅れている所かと思います。
結婚して、夫婦関係の築き方について学ぶ必要が出てきますね。不妊治療であれば不妊のカウンセラーが出てくるし、離婚問題であれば、弁護士さんが出てきたりします。
全般的な夫婦や家族の問題を扱うのが、家族療法、家族のカウンセラーです。一方で、健全な家族の発達を支援するのが、ファミリー・コーチですね。ファミリー・コーチは、当然ながら、家族の発達の経過に沿って、特に、移行期(恋愛、結婚、出産、子育て、この独立、引退、老後…)を上手く乗り越えるサポートをするわけです。
ファミリー・ライフ・コーチングのポジティブ心理学ワーク
ワークショップでめちゃ良かったのは、エクササイズです。家族のポジティブな側面について語るわけです。
ワーク1:ビジョニング
目をつぶって、リラックスして、ボディスキャンして…というグラウンディング(マインドフルネスの基本です)から入ります。目の前のキャンバスに絵を描くように、家族の穏やかで平和で良好な場面をイメージします。
ワーク:WWW(What Went Well / 上手くいっていることは?)
家族がいい感じに出来れいること、良いニュースなどを3つ挙げます。
こんな感じで自分の家族のポジティブな部分について、グループで共有します。こんな機会ありますか?
カウンセリングの場面ならあります。特に、解決志向アプローチの家族療法では、当たり前のように行っています。ただ、それを、他の家族とシェアするようなことはあまりないと思います。多くの場合、集まってしゃべるとなると家族の愚痴になりますよね。
家族教育や、家族の良い部分について共有する会がもっと広まるといいと思いました。
John Gottoman
John Gottmanさんという方がこの領域で有名な方のようです。Johnさんは健康なファミリーライフの要素として、次の9つをあげています。
①愛、②好意の共有、③前向き、④ポジティブな視点、⑤不和への対処、⑥人生の夢の創造、⑦共有された意味の創造、⑧信頼、⑨コミットメント
日本語に翻訳された書籍は1冊しかないようですね。
アメリカの家族教育の資料
アメリカには、「The National Extension Relationship and Marriage Education Model / 国家関係促進結婚教育モデル」ってのがって、すでに膨大な資料と、家族支援の専門家向けのトレーニングが出来上がっているようです。
ウェブページ:https://www.fcs.uga.edu/nermen/nermem
そういうとこやぞって感じですね。ファミリー・ライフ・コーチングは、少子化、高齢化、若者の自殺、虐待、不妊、不登校、女性のキャリアの障害など、日本の抱える様々な問題に対処するために、不可欠の要素かと思います。
というより、こんなにたくさんの問題が起きていて、全然解決しないのは、家族教育やファミリー・ライフ・コーチングが無かったからではないかとさえ思えてきます。
ポジティブ比は5:1
ポジティブ比について、ロサダの法則といって、3:1が有名ですが、実はこれは、友人間での比らしいですね。つまり、友人間で良好な関係を保つためには、ネガティブなコミュニケーション1に対して、ポジティブなコミュニケーション3以上が必要とのこと。
これは、恋人間では5:1、家族間では12:1だったらしいです!
John Gottomanさんは、5:1を推奨していて、上級者は20:1を目指しましょうといっています。
関係性を終わらせてしまう "4つの騎手"
1.Crticism / 批判
2.Contempt / 軽蔑
3.Defensiveness / 防衛
4.Stonewalling / 壁
皆さん感じていることと思いますが、John Gottomanさんによると、こういう4つの特徴を持っていると、関係を終わらせてしまうとのことです。
子供の逆境経験からの保護要因
虐待や親の離婚などの、子供の頃の逆境経験(Adverse Childhood Experiences)が、大人になってからの心身の病気のなりやすさに関連しているかもしれないということが言われ始めています。その保護要因として、次の5つがあります。
① 養育者のレジリエンス
② 社会的なつながり
③ 効果的な養育技術と児童発達の知識
④ いざという時の具体的な支援と情緒的な支援
⑤ 社会的・情緒的能力
参考(英語):https://t.co/XKv5DzKuf5?amp=1
家族の教育とサポートがめちゃ重要じゃんという話ですね。
Dan Siegel: 蓋をひっくり返す(憤慨する)こと
Dan Siegal さんは、神経科学者で医師で、家族支援をしているそうです。アンガーマネジメントについて、神経科学の視点から語っています。
怒りは大脳辺縁系の暴走なので、脳に振り回されるのではなく、それを、前頭前野でコントロールしましょうということですね。
また、生活習慣が乱れていたり、時間に追われていると、大脳辺縁系が暴走しやすいということです。スローに過ごすことが重要です。
つまりは、「何を諦めるか」ということで、これは、コーチングでもよく話題になります。
なぜコーチングか?医学論文より
Rotheram-Borus, M. J., Swendeman, D., Rotheram-Fuller, E., & Youssef, M. K. (2018). Family Coaching as a delivery modality for evidence-based prevention programs. Clinical child psychology and psychiatry, 23(1), 96–109.
ファミリー・ライフ・コーチングを勧める医学論文が出たということです。
医学論文だからってなんてことは無いと思いますが、コーチング心理学やポジティブ心理学というと、学問的・科学的というよりは、哲学的なイメージを持たれがちですが、医学的にも重要性が指摘されているということですね。
<なぜファミリー・ライフ・コーチングか?>
1.総合的な予防プログラム
2.家族を基盤とした介入による広範かつ長期的な影響
3.スティグマのない「コーチング」
「コーチング」にスティグマが無いかというと、日本の場合は、スポーツコーチや、自己啓発のイメージが悪いので、必ずしもそうではないかもしれませんが、セラピーを受けるよりは心地いいかもしれませんね。
1は、私がメンタルヘルス対策としてコーチングをしている理由でもあります。予防するには早めに関わる必要があります。であれば、不調になるのを待つのではなく、調子のいいときから関わって、より良くなる、ウェルビーイングを高めるためにサポートした方が早いに決まっています。
今回のワークショップで、私がすごく感じたのは、2です。これまで、ファミリー・ライフ・コーチの説明でも、広範な内容が出てきました。家族機能が盤石なら、人は生涯を通じて安定していられるわけですね。
もちろん、毒親とか虐待など、原家族に期待できないということはあるかもしれませんが、家族は作ることができます。婚姻関係になくたって、仲間は家族だというのは、アニメでは定番の話です。独り身はもちろん、仲間とつるむのが好きではないという生き方も尊重されるべきだとは思いますが、社会インフラとしての家族の強化というのは、少なくとも今の10倍はお金をつぎ込むべき領域だと思います。
(同)実践サイコロジー研究所は、心理学サービスの国内での普及を目指しています! 『適切な支援をそれを求めるすべての人へ』