見出し画像

REBT(論理療法)の特徴と認知行動療法との違い

REBTとは、アルバート・エリスの認知行動療法であり、論理療法という名前でも知られています。

「アルバート・エリスの認知行動療法」と言っているように、大きな意味では、REBTは認知行動療法の一種です。特に、アーロン・ベックの認知療法と同じ、第2世代、認知的アプローチの認知行動療法と言われています。

しかし、REBTには、REBT独自の特徴があり、それは、パフォーマンスの促進や自己実現(目標達成)を目指す、教育的・コーチング的な文脈で特に効果を発揮します。

この note では、そんなREBTの特徴について次の3つの観点から説明します。

1.行動的技法が認知(ビリーフ、信念)を変えるという姿勢

次に示す植物園で女性に声をかけたというエピソードにも表れているように、エリスは行動的技法の重要性を強調していました。

【植物園で100人の女性に声をかけた話】
 女性が苦手だったエリス少年は、行動療法を使って自分の女性恐怖を克服しようとしました。そこで、植物園で100人の女性をデートに誘うことにしました。
 女性恐怖のエリスは、当初、自分が声をかければ誰もが恐がって逃げ出すだろうと想像していました。しかし、実際に女性に声をかけてみると、意外にもきちんと話を聞いてくれる人が多く、苦手意識は徐々に薄れてきました。これがこの取り組みを通してエリスが学んだことの1つ目です。
 100人の女性に声を掛けましたが、残念ながら、ほとんどの女性は見ず知らずのエリスの誘いを受けることはありませんでした。そんな中、100人中1人だけが、エリスの誘いを受けてくれたのです。
 約束の日、エリスは、緊張しつつも、ウキウキ気分で待ち合わせの場所に行きました。しかし、約束の時間になっても女性は現れません。しばらく待ちましたが、結局女性が現れることはありませんでした。エリスは、100人中唯一誘いを受けてくれた女性からも、実は、拒絶されていたのです。
 その結果、エリスはもう1つのことを学びました。それは、こんなにもひどい経験をしたあとでさえ、エリス自身と世界は、普段とは何一つ変わらず、そこに存在していたということです。つまり、こうであるべきという確実なことは存在しない。あって欲しくない出来事が起こってしまったとしても、その人の価値に何ら変わりはなし、その人が消えて無くなるわけでもない。嫌なことも経験してみれば、この世の終わりのような最悪なことではないということです。

この経験の影響もあり、エリスは、のちにREBT(論理療法)を確立することになります。 

REBTとはRational Emotive Behavior Therapy(論理感情行動療法)の頭文字を取った名前です。当初はRational Therapy(論理療法)と呼んでいましたが、感情に目を向けない、行動を見ないといった誤解から、Emotional(感情)とBehavior(行動)の文字が入ることになりました。

REBTで行われる行動的技法としては、「行動実験」と「恥かき訓練(シェイムアタッキングエクササイズ)」があります。

行動実験は認知行動療法全般によく用いられると思います。エリスが女性に声をかけたように、実際に行動してみることで、「見ず知らずの自分に話しかけられたら、すべての女性は拒絶する」「100人もの女性に拒絶されたら、自分は耐えられない。この世の終わりだ」という推論の正しさを検証します。

恥かき訓練は、「恥ずかしさ」に着目した行動実験です。あえて恥ずかしいことをして、「そんなことしたら恥ずか死ぬ!」という信念や、「皆にジロジロ見られてヤバい」という推論への確信を弱め、「恥ずかしくて死ぬことはそうそうない」「意外と頑張ってもみんな見てくれない」という認識を強めていきます。

恥かき訓練についてのブログ:シェイム・アタッキング・エクササイズの効用~40年の経験から(R・ディジサッピ氏 ブログ紹介)

行動実験をする際には、事前にどうなるかを予測し、そのひどさを点数化しておく必要があります。できれば、非機能的な信念(イラショナル・ビリーフ)と機能的な信念(ラショナル・ビリーフ)も明確にしておき、その確信度がどのように変化するかを確認すると良いと思います。

また、注意点として、社交不安の強い方の場合、単に行動実験をやっただけでは、偏った認識を強めるだけになってしまう可能性があるということがあります。そのような場合には、ビデオ撮影をして、周りの人の視線を後から客観的に確認できるようにする必要があります。なぜなら、行動実験をしている最中には、周りの人から見られている「気がしてしまう」からです。それを、事後的にビデオで確認してみて、実際にはあまり見られていないということを確認する必要があります。

論理療法トレーニング―論理療法士になるために」(https://amzn.to/2u8wtK0)には、REBTの技法が「認知的技法」「行動的技法」「イメージ技法」として説明されており、行動療法の説明にも大部分が充てられています。原著の一部しか翻訳されていのは残念です…

2.推論(自動思考、捉え方)ではなく信念(ビリーフ、人生哲学)を変える姿勢

REBTのもう1つの特徴は、最悪の事態を想定し、その場面をエンジョイ&サバイブするための信念を身につける事を目指すという点です。

認知療法的に言えばスキーマやコアビリーフへのアプローチと言えるかと思います。

例えば、不登校で教室に行きたくてもいけないという場合、「教室に行ったらみんなに白い目で見られる」という推論が考えられるかと思います。それに対して、より認知療法的には本当にそうか検証してみようというアプローチで、「白い目で見る人もいるし、そうでない人もいるだろう」という推論に修正していくことになります。

それに対して、REBTでは、基本は、「白い目で見られたとして、それはあなたにとってどんな意味があるの?」と、いわゆる「下向き矢印法」を使っていきます。

そして、最終的には

「~でなければならない。もし~でなければ 私は(○○は)ダメ人間だ / そんなの最悪(この世の終わりだ)/ そんなの耐えられない」

という形式からなるイラショナル・ビリーフを同定します。

例えば、先の例でいえば、「皆に白い目で見られたら不安で不安でどうしようもなくなる」という推論や、「私は不安になって動悸がするような体験は絶対に避けるべきだ。そんな体験耐えられない」というイラショナル・ビリーフが考えられます。

その後の展開は認知療法とあまり変わりません。イラショナル・ビリーフを認知再構成していくことになります。

コラム法を使ってもいいと思いますし、行動実験をすることも可能です。ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)的に、メタファーやストーリーを使うことは、エリスも好んでいました。例えば、

「あなたの親友が同じように教室に来られなくて困っているとします…あなたはなんとアドバイスしますか?」
「皆から白い目で見られるのはとても辛いことですよね。仮にテロリストがあなたの大切な両親を拉致したとして、あなたが教室に行ったら解放してあげると言ったとしても、そうそう要求には応じられませんね…」

などの話がよく使われます。

イラショナル・ビリーフの非現実性、非柔軟性(絶対的)、非有用性についてディスカッションしたり、あるいは、論理的に説得したりする「論駁(Questioning)」が、REBTの特徴と誤解されていますが、それはあくまでエリスのスタイルであって、必ずしもREBTの特徴ではありません。

この点は、ニューヨークにあるアルバート・エリス研究所の公式 YouTube チャンネルの動画を見るとよく理解できると思いますが、の今のエリス研究所のセラピストのセッションを見るとわかるのですが、今のところ和訳がないのが残念です…

なぜエリスが強めの論駁を積極的に使ったかというと、2つの理由があると思います。1つは、ユーモアです。

「耐えられないってことはつまり、あなたは人から白い目で見られると死んでしまう病気か何かに罹ってるんですね!それは大変だ!」
「不安になってはならないってことは、あなたの心臓は像から移植したとかですか!」
「つまり…不安にならないように、不安にならないようにって、不安になってるんですね!」

これらの指摘を、特にエリスはよく使いました。このような指摘を受けると、クライアントもクスッと笑うことを狙っています。このジョークは日本では通用しないことが多いですね…

もう1つの理由は、「承認欲求」を有害と考えたからです。これは次の健康観の「無条件の自己受容」と関連しています。

エリスはカウンセラーがクライアントに対して温かい態度で接することがクライアントの承認欲求を満たし、無条件の自己受容の妨げになると考えました。そのため、クライアントの依存を強めるような関りは一切しなかったんですね。

ちなみに、とはいえ、グロリアと3人のセラピストのエリスは最悪です。完全にすべってますよね…あれを翻訳したのは、ロジャーズを広めエリスを貶めるための策略ですね!(冗談です。)

英語だとエリスのセッション動画や音声が得られるのですが、なかなか翻訳されていませんね。むしろ翻訳された一般向けの良い本がどんどん絶版になっている状況です。

【絶版本】
あなたはあなたであるから素晴らしいー自分を絶対、否定するな!
きっと、「うつ」は治る
幸せなカップルになるために―エリス博士の7つのルール
エリスとワイルドの思春期カウンセリング―事例で読む論理療法

【復活本】
いつも楽に生きている人の考え方
現実は厳しい でも幸せにはなれる


最近のREBTカウンセラーは、承認欲求や依存は強めない方がいいというエリスの指摘も尊重しつつ、クライアントとの関係性の構築はきちんと行っています。

また、動機づけ面接の発展もあり、説得が反発を引き起こすということも理解しているので、エリス的な説得を使うことは少なくなっています。

むしろ、動機づけ面接を論駁(認知再構成)に応用しているREBTカウンセラーが多いのではないかと思います

3.健康(ポジティブ)志向

最後に健康志向という点です。私はCBTオーストラリアという機関で、ベックインスティチュートのスーパーバイザーからもトレーニングを受けた経験があります。(基礎と発展、8日間程度ですが…)

認知療法を専門にやられている方からすると反論もあるかもしれませんが、そこで習った違いは次のとおりです。理論的な違いについてお話していますが、実際のところは、実務では大差ないということはご理解ください。

その上でいうと、ベック、特にジュディス・ベックは、エリス以上に合理的です。それが、ベック派の認知療法がスキーマ発展を必要としている理由ではないかと想像しています。

つまり、目指すところは「うつ症状の除去」であり「非機能的な認知」を現実的なものに修正することであるということです。偏った推論を正しいものに直すという姿勢ですね。これがベックの健康観と言えるのではないでしょうか。

それに対して、エリスは、USA、UOA、ULAという健康のための指針を示しています。

それぞれ、無条件の自己受容(Unconditional Self-Acceptance)、無条件の他者受容(Unconditional Other-Acceptance)、無条件の人生の受容(Unconditional Life-Acceptance)の頭文字です。

それぞれ、「私は~であるに越したことはないけれど、現実的にはそうでないこともある。そうでなくてもOK。ダメ人間ではない」「他者は~であるに越したことはないけれど、現実的にはそうでないこともある。そうでなくてもOK。ダメ人間じゃない」「私の人生は~であるに越したことはないけれども、現実的にはそうでないこともある。そうでなくても最悪とは言い切れない。耐えられる」という、ラショナル・ビリーフに対応しています。

このような健康な価値観(人生哲学)を促進していくというのが、REBTの本来の目的です。

エリスは上記を含めて13の健康的な人生哲学を提唱しています。エリスはREBTを通して、これらの哲学を促進していくことが、人々の健康、人生をエンジョイしサバイブすることにつながると考えていたのです。

参考︰日本人生哲学感情心理学会「13の目標」

このように、認知療法が医学的なのに対して、REBTは教育的でコーチングに親和的なアプローチであるといえます。

このあたりの特徴は、第三世代の認知行動療法の1つ、ACTと似ているところです。


4.その他の情報

日本人生哲学感情心理学会

REBTセルフカウンセリング・フォーム

(同)実践サイコロジー研究所は、心理学サービスの国内での普及を目指しています! 『適切な支援をそれを求めるすべての人へ』