を。のちょっとだけスケベな話

彼と出会ったのは夏の終わり頃だった。

新しい職場にも少しずつ慣れてきた私は、とある男性に目を奪われた。
すっと通った鼻筋、細く筋張った「男の人」の首、
そして細く、しなやかな手。

いわば、一目惚れというものだった。

彼はアルバイトだったが、出会う度に
社員の私への挨拶も欠かさずしてくれるマメな人で、
会話をするようになるのも時間はかからなかった。

そして同時に、私はそのしなやかな手で、
頬を撫でられることを幾度となく妄想した。

冬が来ると、彼は春から県外で働くのだと教えてくれた。

このまま一生会えなくなるのか、と考えると、
いてもたってもいられなかった私は、
『今日もお疲れ様でした。これ、私のLINEのIDです』
というメモ紙とお菓子を握りしめた。

どっちがメインなんだか、と心の中でツッコミながらも、
勇気を出して差し入れを彼の手に渡した。
「辞める前に飲みにでもいきましょう」そう言いながら。

しかし、飲み会は他の社員も交じえての送迎会となった。
「まぁ、こんなもんよね」落胆したような、
ほっとしたような、なんとも言えない気持ちだった。

それから彼とは連絡も取らず、季節は過ぎていった。

しかし、その次の冬、唐突にLINEが来たのだ。

「こんばんは。元気にしてますか?」
会話がとんとんと進んでいく。

いつしか一緒に飲もう、という話になる。

「でも交通費が今の私には出せないから、もう少し先かな」
落胆しながら私がそう答えると彼は、
「交通費は俺がもつから、こっちに遊びにおいでよ。
 家で良ければ泊まってもいいですし。」
そう答えた。

ここまで言われて、行かない手があるだろうか。

もう迷いはなかった。 

久しぶりの遠出。デート。お泊まり。
デートの前というのはわくわくと緊張が止まらない。
何度も何度も、鏡を覗き込む。

「こんばんは。久しぶりですね」

家に着くまでの車の中で色んな話をした。
今の私の状況、彼の仕事の大変さ、お互いの恋愛観、
あんなに濃い話を短時間でするのは久しぶりだった。

道中で夕飯を済ませ、家にお邪魔する。

随分おしゃれな、雰囲気のあるお部屋だった。
私の知っている、小学生の男子の部屋とは大違いだ。

「何か飲もうか、お酒作るよ」
自慢げに彼がカクテルを作り始める。

出されたのはロングアイランド・アイスティー。

なんてったってジン・テキーラ・ウォッカの入った
アルコール度数の高いカクテル。
酔わせにきているのがよくわかる。

「あぁ、これは"そういうこと"か」

手馴れてるもんだなぁとつい笑ってしまう。

ロングアイランド・アイスティーを飲み終え、
ほろ酔い気分の私を見て、
「そろそろ寝ようか。布団敷くけど、
 俺の部屋とリビングとどっちがいい?」

そんなの決まってるじゃないか。

「一緒の部屋がいいな」

ベッドの横に敷かれた敷布団に寝っ転がる。

「ね、こっち、おいで」
広げられた腕の中に抱かれ、
ずっと夢見ていたあの細い手で頬を撫でられる。

手馴れているものだと思っていた彼の心臓から、
鼓動がどくん、どくん、と聞こえてくる。

「あれ、もしかして緊張して─」

手馴れている、は撤回しよう。
そう思いながら、私は彼の腕に包まれた。

今回はみょーさん企画の 
#ちょっとだけコンテスト に参加させていただきました。

テーマは今までトライしたことのない、
「ちょっとだけスケベな話」。
ちょっとだけってどのくらいだろう...
こんな感じで良かったのかしら...(笑)

気になるよ〜って方は以下からぜひご覧くださいませ。


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