を。のちょっとだけスケベな話
彼と出会ったのは夏の終わり頃だった。
新しい職場にも少しずつ慣れてきた私は、とある男性に目を奪われた。
すっと通った鼻筋、細く筋張った「男の人」の首、
そして細く、しなやかな手。
いわば、一目惚れというものだった。
彼はアルバイトだったが、出会う度に
社員の私への挨拶も欠かさずしてくれるマメな人で、
会話をするようになるのも時間はかからなかった。
そして同時に、私はそのしなやかな手で、
頬を撫でられることを幾度となく妄想した。
◇
冬が来ると、彼は春から県外で働くのだと教えてくれた。
このまま一生会えなくなるのか、と考えると、
いてもたってもいられなかった私は、
『今日もお疲れ様でした。これ、私のLINEのIDです』
というメモ紙とお菓子を握りしめた。
どっちがメインなんだか、と心の中でツッコミながらも、
勇気を出して差し入れを彼の手に渡した。
「辞める前に飲みにでもいきましょう」そう言いながら。
しかし、飲み会は他の社員も交じえての送迎会となった。
「まぁ、こんなもんよね」落胆したような、
ほっとしたような、なんとも言えない気持ちだった。
それから彼とは連絡も取らず、季節は過ぎていった。
しかし、その次の冬、唐突にLINEが来たのだ。
「こんばんは。元気にしてますか?」
会話がとんとんと進んでいく。
いつしか一緒に飲もう、という話になる。
「でも交通費が今の私には出せないから、もう少し先かな」
落胆しながら私がそう答えると彼は、
「交通費は俺がもつから、こっちに遊びにおいでよ。
家で良ければ泊まってもいいですし。」
そう答えた。
ここまで言われて、行かない手があるだろうか。
もう迷いはなかった。
久しぶりの遠出。デート。お泊まり。
デートの前というのはわくわくと緊張が止まらない。
何度も何度も、鏡を覗き込む。
「こんばんは。久しぶりですね」
家に着くまでの車の中で色んな話をした。
今の私の状況、彼の仕事の大変さ、お互いの恋愛観、
あんなに濃い話を短時間でするのは久しぶりだった。
道中で夕飯を済ませ、家にお邪魔する。
随分おしゃれな、雰囲気のあるお部屋だった。
私の知っている、小学生の男子の部屋とは大違いだ。
「何か飲もうか、お酒作るよ」
自慢げに彼がカクテルを作り始める。
出されたのはロングアイランド・アイスティー。
なんてったってジン・テキーラ・ウォッカの入った
アルコール度数の高いカクテル。
酔わせにきているのがよくわかる。
「あぁ、これは"そういうこと"か」
手馴れてるもんだなぁとつい笑ってしまう。
ロングアイランド・アイスティーを飲み終え、
ほろ酔い気分の私を見て、
「そろそろ寝ようか。布団敷くけど、
俺の部屋とリビングとどっちがいい?」
そんなの決まってるじゃないか。
「一緒の部屋がいいな」
ベッドの横に敷かれた敷布団に寝っ転がる。
「ね、こっち、おいで」
広げられた腕の中に抱かれ、
ずっと夢見ていたあの細い手で頬を撫でられる。
手馴れているものだと思っていた彼の心臓から、
鼓動がどくん、どくん、と聞こえてくる。
「あれ、もしかして緊張して─」
手馴れている、は撤回しよう。
そう思いながら、私は彼の腕に包まれた。
◇
今回はみょーさん企画の
#ちょっとだけコンテスト に参加させていただきました。
テーマは今までトライしたことのない、
「ちょっとだけスケベな話」。
ちょっとだけってどのくらいだろう...
こんな感じで良かったのかしら...(笑)
気になるよ〜って方は以下からぜひご覧くださいませ。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます! コメントもいつでもお待ちしております。