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君のいる景色 2

 お昼休み。景子は同僚の香織とランチに出た。
「いいお天気。気持ちがいいね。」
 東京はやっと夏の暑さから解放され、過ごしやすい季節を迎えていた。
「やっぱりコンビニで何か買って行かない?」
香織がいきなり景子をコンビニに引っ張り込んだ。何?景子の視界にヒロキの姿が一瞬写った。
 ヒロキは香織の彼氏で、最近香織とモメている。香織はヒロキに二股かけられていたのだ。

「彼、一人だった?」
香織が景子に確認する。
「一人だったよ。大丈夫。」
香織は浮かない顔でサンドイッチを選んでいた。最近、香織が一回り小さくなってしまったようで景子は心配でならない。
「今から休憩室行っても混んでていっぱいだから公園で食べない?」
二人並んで小さな公園のベンチに座った。

「私、ヒロキと別れようと思う。」
景子は香織を見つめた。
「今さら何を言われてもまたウソついてるんじゃないかって、どうしても信じられなくて。いちいち疑ってる自分が自分でイヤになってくる。もう、これ以上自分をキライになりたくないから。」
香織はさっぱりした表情で言った。
「そうだね。香織は十分がんばったと思うよ。もう、いいよ。無理しなくて。」
「ありがと。景子。」
香織のこんな笑顔を見たのは久しぶりのような気がする。
「ねぇ、今度買い物行かない?秋物、買い揃えなくちゃね。」
香織は季節がうつろうのにも気づいていなかったようだ。これはマズイ。早く香織を平常運転に戻さねば。
 景子は香織をどこに連れて行こうかと考えながらお昼を済ませた。

 次の日曜日、景子は香織と日比谷のショッピングモールに来ていた。
「ねえ、これどう?」
香織がハンガーにかかったブラウスを手にとった。少し青みがかったグリーンのブラウスは柔らかくて着心地がよさそうだった。
「いいね。グリーンのブラウスってなかなか無いよね。」
「これだったら下は茶色?秋ならチャコールグレーもいいかな?」
「これ!」
景子は少し長めのマスタードイエローのタイトスカートを差し出した。脇に入ったスリットがちょっとセクシーで大人の色気を醸し出している。香織には、できるだけ明るい色を身につけてほしかったのだ。
「これならキャメルのパンプスが合いそうだね。でも、自分じゃ絶対選ばない色だわ。マスタードなんて。」
香織が楽しそうに笑った。
「白のニットも合いそうね。」
「白ならオーバーサイズのニット持ってる。襟元がシンプルなやつ。」
「それいいね。黒のブーツで。」
二人のおしゃべりはつきない。

 レジで会計を済ませ、店を出ると
「あ、マサミちゃん。」
香織がちょうど通りがかった女性に声をかけた。
 どこかで見たことのある顔だと思ったら、いつも香織と同じ下のフロアにいる同僚だった。それよりマサミの隣の男性に景子は驚いた。景子と同じ部署の佐野だった。
「お疲れ様です。」
佐野は気恥ずかしそうにテレている。
「二人は同期なんだよね?」
香織が聞くと、佐野とマサミは顔を見合せてうなずいた。
「あら、知らなかったわ。」
景子がトボケてみせた。ひとしきり話が盛り上がると、佐野とマサミは挨拶して先に別れた。

「佐野くんか一。マサミちゃん見る目あるわぁ。」
「佐野くんは景子の後輩だったよね。」
「彼、新人の時から白黒ハッキリ言うタイプでね。会議で上司と堂々とやり合ったりするからハラハラしたりもしたんだけど、なんだか頼もしくって。将来こんな人が会社を背負って立つんなら、この会社も捨てたもんじゃないなって。」
「景子姉さんのお墨付きですか。」
「佐野くんにはよく助けてもらったりもしてるのよ。」
「それ、マサミちゃんに言っとくわ。」
「別に言わなくったっていいから。それより、何食べたい?」
「何にしようか?お腹すいたね。」
少し痩せて小さくなってしまった香織に何を食べてもらおうかと、景子はスマホを取り出して調べ始めた。
「景子、ありがとうね。」
「何が?」
「景子がそうやって私を受け止めてくれるから、自分を見失わずに済んだんだよ。私一人だったら、今頃どうしてたか……」
「誰か刺してたり?」
「あり得る。」
「ヤダ止めてよ!」
人通りの多い街の真ん中で、二人は声を上げて笑った。
「ねぇ。私、中華が食べたい。うんとニンニクが効いたやつ。」
「OK!中華ね。」
景子は中華料理店を探して歩き出した。その後ろについて歩きながら、香織は笑いすぎた涙目をそっとぬぐった。


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