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「編む、ほどく、編む」を日々考える。「人間の営み、自然災害、復興」「普門示現」「鉱物、マグマ」

1月1日に発生した能登半島地震から1ヶ月が経ちました。この度の震災において亡くなられた方々に心よりご冥福をお祈り致します。また、大切な方々を亡くされた方々に謹んでお悔やみを申し上げます。
そして、被災されました方々に心よりお見舞い申しあげます。不便な生活を強いられている方々が1日も早く日常の生活を取り戻されるよう…。私も微力ながら寄付をさせていただきました。

昨年3月まで東日本大震災の被災地、宮城県亘理町で新しいまちづくりの事業に参加していたこともあり、今防災グッズにもなり得る仏、その名も《ほどける仏たち》という作品を作っています。近年コロナ禍での制作やウクライナ侵攻に関するニュースに触れたこと、改めて編むという技術の特性などに目を向けるようになって「編む」だけでなく「ほどく」という行為まで作品のうちとするようになったこともこの作品の発想につながったのだと思います。

《ほどける仏》は一筆書きのように一本の糸で編まれた手のひらサイズの仏像。あみぐるみですね。普段は飾ったりかわいがったり。それが災害時には糸端からひっぱっれば糸に戻り色々と役立ち得ます。たとえばそのままロープにしたり、怪我の箇所に巻いて応急処置的に包帯のようになったり、再度編み直して避難所等の冷たく固い床面に敷くクッションになったり枕になったり防寒対策グッズになったりすると思います。編むという行為はヒーリング効果もあると言われているので、非常時の小さな癒しになるかもしれません。さらに仏が数体集まれば、それだけ長い糸になり、みんなで力を合わせて編んで担架のようなものにもなるかもしれません。だから、この作品はある地域の一家に一個という具合に置いておきたいと思っています。プロジェクトタイトルを《ほどける仏たち》と複数形にしているのはそんな想いもあってです。

編み図を残すことでほどけても再現可能。曼荼羅を思わせる

素材はポリエステル。災害時に使うという点で今回は素材を重要視しています。ポリエステルは強度があり熱や水に対する耐久性も優れた素材です。そして水に濡れてもすぐに乾きます。このことから、防災グッズやアウトドア用品によく使われる素材です。私はたまたまポリエステルの糸を持っていました。2016年に茨城県北芸術祭で展開した作品に使った糸です。街を編み包んだ糸をほどいて糸の状態に戻し、またの出番を夢見ながら倉庫に眠っていました。糸は細いのですが、ポリエステルだから丈夫。さらに私の場合はそれを筒状に編んで太い糸にしているので、強度は増強です。こうして素材を循環させるという点も制作の上で重視しています。

モチーフをなぜ仏にしたのかというと、お守り的な存在、祈りを捧げる存在だからです。それに江戸時代に全国を歩きながら仏を彫った僧侶であり仏師であった円空に憧れている気持ちもあります。仏様にもさまざまありますが、中でも観音菩薩は時と場所、相手に応じて姿を変えられる仏様ということです。この「普門示現(ふもんじげん)」という変化が、編むこととほどくこと、この作品のコンセプトとリンクしました。

ほどく糸端に目印としてつけるタグ。今後QR先に非常時の使用例をアップしていきます


もうひとつ最近研究していることは結晶。
コロナもいまだ終息しないし、自然災害、戦争、環境問題といった社会状況に生きる私たち。これからも予測不可能でしょう。
そしてこれも環境問題の一端ですが、残糸という現代人が生活用品をつくるために過剰に生み出してしまう余り糸の存在を、近年自分事として感じるようになり、地球に眠る新しい資源なのでは、と妄想します。そもそもこの世界の物質は繊維でできているという世界観ももっていて、糸はそこらじゅうにあるし、有り余るほどあります。
私は糸があればそれをこの手で編んでなんでもつくることができるから、どんな環境下でも生き延びていけるのではないだろうか。いざという時のために実験や研究をしている、という感覚で近年は制作をしています。
糸に向き合って長年制作していると素材や染色の原料なんかが気になり出して、しまいにはこの世界は何から始まったのかも想像するようになりました。突き詰めて行くと鉱物に辿り着きました。鉱物が集まって地球ができたように、地球に眠る糸を手繰り寄せ、自分で編んで世界を構築する。ほどいては編んでほどいては編んで、どんな環境下でも場所を作っていく。そんなイメージがいつも頭の中にあります。

鉱物は言い換えれば結晶だと私は思っているのですが、思えば編みものも結晶をつくることだな、と感じています。単に見かけやイメージだけでなく、構造的に。そんなわけで結晶の勉強をしながら編みものとの親和性も追求しているところです。私の糸で編まれたものはマスで固くて表面的にも本当に結晶みたい。それをほどくことはマグマになることで、再度編むことはそれが冷えて固まり新しい鉱物や岩石、つまりは場所が生まれる。そんなふうに言えるのではないだろうかとまたまた想像するのです。

「提供:東京都渋谷公園通りギャラリー 撮影:佐藤基」

それにしても結晶とは定義が難しいなと感じます。本を数冊読んでも数式とかちんぷんかんぷんで、講義などでちゃんと勉強したい分野です。どこかそんな場所、機会ないでしょうか。

長文になりましたが、それではまた。

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