詩『変なおじさん』
暮れも押し迫ったある日の夕方、友人夫婦の家を訪れる。団欒に加わり、夕餉を共に取りながら、テレビを見ていると、ふと我に帰る瞬間がある。
「そうです、私が変なおじさんです」
人生の折り返しに至り、来し方を振り返る。記憶は走馬灯のように儚い幻影となって回転し始める。回転は次第に速度を早め、軋み、つんざき、火花を散らし、絡まり合った不協和音が脳髄の中心で膨張していく。記憶から属性のタグが剥がれ落ち、父が娘となり、母が夫となり、死んだ夫が私となる。
「変なおじさんたら変なおじさん」
私はローテーブルの上で踊る。僅かに腰を屈め、糸を繰るように腹の前で手を回す。全てが反転し内側にある臓物の全てを曝け出すような羞恥とともに、私の表情は意味を失い、得体の知れないおじさんの顔に変わる。
「変なおじさんたら変なおじさん」
これは終わりでも始まりでもない。逃避するには何もかもが手遅れだった。友人に肩を叩かれ、答え合わせの時間だと告げられる。受け取ったペティナイフでゆっくりと顔の皮を剥ぎ取っていく。私の中に隠れた他人の顔を暴き出すために。剥がし切った瞬間、それが弾け飛ぶ。
「だっふんだ!」
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