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詩『煩悩』

吐瀉物が通路の真ん中を流れていく。それは此方と彼方を分断する。吊り革につかまる少女の手首にリスカの線が流れる。そこもまた分断の跡であった。一年経つのはあっという間だねと言ったやつは夏に死んだ。年を分断したところで死人は出る。万人が平等に「良い年」を迎えるわけではない。

別れた女から無心の連絡がくる。それは煩悩のせいだ。タイムラインに「助けて」の言葉が並ぶ。それは煩悩のせいだ。フォロイーに殺すと言われる。それは煩悩のせいだ。ヘルメットを被った斜視の子供に指を指される。それは煩悩のせいだ。隣に座る女から血の臭いがする。それは煩悩のせいだ。車にはねられた猫の首が変な方向を向いている。それは煩悩のせいだ。抱き上げた犬の歯が全部抜けている。父親の眼が白く濁っている。浮気している妻と団欒を演出する。コロナが永遠に続いて欲しいと短冊に書き込む。飛び降りる練習をする。どれもこれも煩悩のせいだ。

良い年を迎える。
笑わせるな、それこそ煩悩以外の何物でもないだろ。

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