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スティーブン・キング「書くことについて」 - 意外と笑える執筆指南書

本書が短いのは、世の文章読本のほとんどが戯言を詰めこみすぎているからである。

前書き その二

ですよね、巨匠。

巨匠! 文章の書き方、教えてください

スティーブン・キングといえばもう、押しも押されぬ "巨匠" ですよ。
代表作で言えば『シャイニング』とか『IT』とか『ミザリー』とか。
『スタンド・バイ・ミー』や『ショーシャンクの空に』だって、みんなスティーブン・キング原作の映画。

本書はそんな誰もが認める巨匠が書いた「書くことについて」の本。そりゃ文章書く人みんな読みたいでしょ。

という気持ちはずっと前からあったんだけど、なかなか手が出せずにいました。なんかちょっと難しそうで。
だって「スティーブン・キング」ですよ。そりゃハードルも上がるってもんです。

でもいざ読み始めると「思ってたのと全然違う」というのが第一印象。
翻訳本あるあるで固有名詞はかなり多く出てきますが、それ以外は特に読みにくいとは感じませんでした。

前半は巨匠の半生

この本は大きく前半と後半に分かれていて、前半100ページ程度はスティーブン・キングの半生というか、思い出話が語られます。

もうなんか、その時点でちょっと重そうに聞こえませんか? なんせスティーブン・キングだし。
でもこれが全然違う。むしろ「すべらない話」に近い感覚もあって、ついつい笑ってしまうエピソードが満載なんです。
一体どんなエピソードなのか。そのいくつかを超要約してご紹介しましょう。

規格外のベビーシッターの話

うちは母親が働いていて、ベビーシッターに来てもらっていた。
人は何度も変わったんだけど、その中ではっきり覚えているのは、名前が確かユーラだったかビューラだったか……とにかく体のでかいティーンエイジの娘だ。
そいつの何がすごいって、屁よ。
音もでかいし臭いもすごい。
それをさ、俺の顔の前でコキやがんの。
もう洒落になんねえ臭さだったわ。あれはひどかった。

履歴書 (超要約)

巨匠、僕がききたいの、そういう話じゃないんすよ……。

鼓膜を刺してきたヤブ医者の話

昔は体が弱くて、よく病気した。
ある日、耳が痛くて病院に連れて行かれたんだけど、そのときの医者が長い針で俺の鼓膜を突き破りやがったんだ。まぁー痛いのなんのって!
あのヤブ医者、絶対許さねえ。

履歴書 (超要約)

何十年根に持ってるんすか巨匠……。

手と尻が終わった話

俺には兄がいて、子供の頃はよく一緒に遊んだんだ。
ある夏の日にちょっと家から離れた場所で遊んでたら、急に腹が痛くなってきてさ……どうしようもないから草陰でしたのよ。
で、紙が無いからその辺の草で拭くじゃん。
二日後には手がミッキーマウスみたいに膨れ上がってやんの。肛門も肋骨も酷い有様さ! (ちなみに、棒は大丈夫だったけど袋はやられた)
ウルシで尻は拭くもんじゃねえな!

履歴書 (超要約)

巨匠、ただのおっちょこちょいのガキじゃないすか……。

巨匠! 文章の書き方は!?

かなり要約・意訳してますが、前半は大体こんな感じ。
じゃあ肝心の「書くことについて」は?
ご安心ください。ちゃんと教えてくれます。というか、想像以上に細かく書かれていました。

話は執筆活動の土台となる基礎的な「道具」から始まります。

  • 書くこととは (執筆心得)

  • 書くために必要な道具箱の中身

    • 語彙と文法 (受動態や副詞について)

    • 文章作法 (パラグラフの力)

 ものを書くとき、自分の力を最大限に発揮するためには、自分専用の道具箱をつくって、それを持ち運ぶための筋肉を鍛えることである。そうすれば、何があっても、あわてふためくことなく、いつでもしかるべき道具を手にとって、ただちに仕事にとりかかれる。

(道具箱)

日本語で言えば "文章術" にあたるのが「道具箱」の章で、実際に書く段階の話がその後に続くという構成ですね。
非常に理路整然と並べられている印象を受けました。

  • 書くことについて

    • 文体

    • 書き方、環境づくり

    • 何を書くか

    • ストーリーとプロット

    • 描写と叙述

    • 会話文

    • etc…

会話文までが約100ページ。この後もまだまだ続きます。
といっても講義的な記述というのはそこまで多くなく、自身のエピソードや他の作家が書いた作品についての言及、過去作の裏話なども挟みつつなので、人によってはそこが冗長だと感じられるかもしれません。

ただ僕としては、数学の公式を淡々と読み上げるような講義は退屈だし、眠くなってしまうタチなので、むしろありがたかったですね。
講義の合間にノンフィクションのショート・ショートを読んでいるような感覚。

小説を書いている人、プロの作家を目指している人はもちろんのこと、何かしら文章を書く人なら、心に刺さる教えがたくさんあるんじゃないかと思います。
逆にたくさんありすぎて、一読しただけではとても把握しきれないというのが辛いところではありますが。

そして終盤は「生きることについて」。
本書を執筆中に遭遇した大事故を振り返り、そこから書くことについて改めて考えるという内容。
ラストにはスティーブン・キングおすすめ本も約100冊掲載されています。

想像以上に読みやすい名著

総合すると、書くことについてはもちろん、スティーブン・キングの人となりまで見えてくる超お得な本でした。想像以上に読みやすいのも嬉しいポイント。

文章を書くなら、何度も読み返す本として手元に置いておきたい、期待以上の名著です。
ありがとう巨匠。さすがっすわ。


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