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貴志祐介「クリムゾンの迷宮」 - 究極のサバイバルゲーム

藤木芳彦は、この世のものとは思えない異様な光景のなかで目覚めた。視界一面を、深紅色に濡れ光る奇岩の連なりが覆っている。
ここはどこなんだ?
傍らに置かれた携帯用ゲーム機が、メッセージを映し出す。
「火星の迷宮へようこそ。ゲームは開始された……」
それは、血で血を洗う凄惨なゼロサム・ゲームの始まりだった。

Amazon商品ページより

ゲームのパートナー、若い女性になりがち。

「究極の選択」を迫られるサバイバル・ホラー

主人公は藤木芳彦よしひこ
失業し、人生の絶望を味わった彼が目を覚ますと、そこは深紅色クリムゾンに染まる異様な光景だったというオープニング。

携帯ゲーム機の案内に導かれ、最初のチェックポイントに集まった "ゲーム" のプレイヤーは合計9人。
この9人にまず迫られるのは、「これからどこに向かうか」という選択です。

サバイバルのためのアイテムを求める者は東へ、護身用のアイテムを求める者は西へ、食糧を求める者は南へ、情報を求める者は北へ進め。

クリムゾンの迷宮

どれだけ時間がかかるかわからない。
どんな動物や昆虫が潜んでいるかもわからない。
ここがどこかもわからない。
そんな状況では、どれも必要に思えます。

プレイヤーたちの出した結論は「4班に分かれ、その先にあるアイテムを取って一旦戻ってくる」というもの。

それぞれが獲得したアイテムをひとまず分配すれば、公平にゲームを進められるだろう。当然と言えば当然の帰結です。
ただ、ここからが "ゲーム" のゲームたる所以なんですが、

Q:戻ってきた人たちは全員、全てのアイテムを正直に申告するでしょうか?
A: するわけねぇじゃん

……面白くなってまいりました!

使えるサバイバル・テクニックが満載

と、ここまでが序盤のストーリー。
ここから9人は4班に分かれ、それぞれチェックポイントを目指していくわけですが、なんせ舞台がアメリカの「ザ・ウェーブ」のような砂岩地帯なので、必然的にサバイバルを強いられます。

本書の特徴は、その砂岩地帯で生き抜くためのサバイバル・テクニックが詳細に描写されているところ。序盤で言えば……

藤木は、腕時計をはずすと、太陽の方角に短針を向けた。短針と十二時の間を二等分した方向が、南になるはずだ。したがって、その逆方向が、進むべき北ということになる……。

クリムゾンの迷宮

他にも、

  • 移動した距離を測定する方法

  • 危険な植物、食べられる植物

  • トカゲを食うときのコツ

  • 生き物を捕まえる罠の作り方

などなど、「それ、いる!?」ってくらい細かく書かれているので、この本を読んでおけば明日遭難したとしても大丈夫。なんとか生き残れます。

ホラー小説に分類されるけれど

著者の貴志きし祐介さんは他にも『黒い家』や『青い炎』など、ホラー/ミステリ小説を中心に多くの作品を書かれています。
この小説もホラーに分類されることが多いんですが、僕の感想としては「そんなでもない」でした。
グロ要素も確かにあるんだけど、個人的には全然平気。

ただ本当にグロいのダメな人には、ちょっと厳しいかもしれません。
あと僕が「この本を既に読んでいる」ということはご承知おきください。(マジでキツかった)

『殺戮にいたる病』のグロ度が10だとすれば、せいぜい2か3くらいで収まるんじゃないでしょうか。

ゼロサム・ゲームやサバイバル好きにおすすめ

ゼロサム・ゲームならではの駆け引き、疑心暗鬼、そしてサバイバル。
極限状態で求められる究極の選択に、果たして正解はあるのか。

読み始めたら止まらない系のエンターテイメント小説でした。
砂漠で遭難してみたい方はぜひ。


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