マガジンのカバー画像

ふんわり読書記録

15
読書記録としての感想文。
運営しているクリエイター

#小説

逸木裕「電気じかけのクジラは歌う」 - AIは人間を "創作" から駆逐するか

その日が来るのは20年後か、あるいは……。 設定が良い!「もし人工知能がどんな曲でも作れるようになったら、それでも人間が作曲する意味はあるか?」 この本はそんな現実に起こり得る世界を舞台とした近未来SF小説。 SFといっても頻繁に登場する独自の用語は、スマホをかざして音楽が聴けるシール状の記憶媒体 "カイバ" くらいのもの。自動運転が一般的に普及し始めているくらいで、ほぼほぼ現代と同じ世界観です。 それだけにリアリティがある。AIが世界を席巻する中、クリエイターに未来は

貴志祐介「クリムゾンの迷宮」 - 究極のサバイバルゲーム

ゲームのパートナー、若い女性になりがち。 「究極の選択」を迫られるサバイバル・ホラー主人公は藤木芳彦。 失業し、人生の絶望を味わった彼が目を覚ますと、そこは深紅色に染まる異様な光景だったというオープニング。 携帯ゲーム機の案内に導かれ、最初のチェックポイントに集まった "ゲーム" のプレイヤーは合計9人。 この9人にまず迫られるのは、「これからどこに向かうか」という選択です。 どれだけ時間がかかるかわからない。 どんな動物や昆虫が潜んでいるかもわからない。 ここがどこか

斜線堂有紀「キネマ探偵カレイドミステリー」 - 映画好きにはたまらない短編集

引きこもりのオタクキャラ、すごい頭脳持ちがち。 デスノートのLのような安楽椅子探偵筋金入りの映画オタクで、一歩たりとも自宅から外に出ない休学中の白髪大学生「嗄井戸高久」が、ワトソン役の友人である奈緒崎くんとさまざまな事件を解決していくライトな探偵ドラマ。 かと思いきや、ラストは結構ハードな内容も含まれていて、読み応えがありました。 とにかくこの嗄井戸、キャラがめちゃくちゃ濃くて、デスノートのLを思い起こさせる。 そんな彼が、次第に人との友情を育んでいく過程も見どころのひと

読書記録 - 我孫子武丸 「殺戮にいたる病」

我孫子さん、あなたね……書きゃ良いってもんじゃないのよ。 ドス黒い気分を味わいたいなら犯人の逮捕シーンである "エピローグ" から幕を開けるサイコスリラー。 犯人の蒲生稔 息子から犯罪の匂いを嗅ぎ取る蒲生雅子 友人を殺された元刑事: 樋口武雄 という3人の視点で、時系列を前後しながら物語が進行していきます。 たまにはホラーも読んでみようと、軽い気持ちで読み始めたのが間違いでした。 グロ注意にもほどがある。 ホラーというより、ただただキモい。エグい。救いようがない

読書記録 - 森沢明夫 「エミリの小さな包丁」

この風景、あなたもきっと好きになる。 夏。 海の見える田舎町でいきなりの偏見で申し訳ないですが、夏の田舎町を舞台にしたドラマってハズレ無いんですよ。 たとえば『ビーチボーイズ』とか『Swing Girls』とか。 映画なら『真夏の方程式』もあるし、アニメなら『サマーウォーズ』もいい。(どれも古くてスイマセン) 意識の底の方にある日本の原風景というか、ある種懐かしい匂いを感じます。 この小説はそんな偏見バリバリの僕にはどストライクの雰囲気で攻めてくる、夏の田舎町を舞台にした

読書記録 - 西澤保彦 「七回死んだ男」

この設定、ズルい。 「七回死んだ男」のルール同じ1日が繰り返されることがある (意図的に繰り返せるわけではない) 繰り返される範囲はきっかり24時間 繰り返される回数は9回と決まっている 最後の9回目の結果のみが「本当に起こった出来事」として成立し、それ以外の結果は全て闇に葬られる 主人公が全く同じ行動をとれば、全く同じ1日が繰り返される そして事件は「あり得ないタイミング」で起こる。 新感覚タイムリープミステリいわゆるタイムリープもの。 ある1日が9回繰り返さ

読書記録 - 乙一 「失はれる物語」

ここ好き。 愛しさと切なさとちょっとした不思議の短編集乙一さんといえば『GOTH』に代表されるグロテスクなホラーテイスト (黒乙一) や、なんとなく切ない読後感を味わえる作品 (白乙一) をイメージされるかと思いますが、本書の中心はどちらかと言えば白乙一。 ただその中にも微かなホラーの香り漂う作品があったり、ちょっぴり微笑ましいファンタジーがあったりと、十二分にその幅広さを味わえる短編集となっております。 書き下ろし小説の『ウソカノ』を含めると全部で8篇の作品が収録され

読書記録 - 道尾秀介 「カラスの親指」

無理ですよ、このどんでん返しから逃げるのは。 噂に違わぬ名作2009年 第62回日本推理作家協会賞 (長編及び連作短編集部門) 受賞作。 僕はあんまり本 (特に小説) を読むのが速い方ではないんですが、この本は特に中盤以降、スラスラ読めてしまいました。 というか、止まらないんですよね……いやぁめっちゃ好きだわこれ。 推理小説としては読まない方が良い?ですが注意点として「これのどこが推理小説なの?」ってくらい、推理要素はありません。 そもそも大雑把なストーリーとしてはこう

読書記録 - 森博嗣 「すべてがFになる」

天才かよ。 理系ミステリと言えばこれ第1回メフィスト賞受賞作。 改めて紹介するまでもない理系ミステリの王道ですが、恥ずかしながら初めて読ませていただきました。 感想としては、めちゃくちゃ良かったです。 めちゃくちゃ良いんだけど、今回は敢えて「ちょっと残念だったところ」からお話ししてみようかと思います。 それくらいしないと、ベタ褒めで終わっちゃうので。 難易度は低めジャンルとしては密室ものですが、ミステリ好きな人なら、ある程度読み進めれば結構すんなり正解にたどり着けるかも

村上春樹は苦手だけど「街とその不確かな壁」を読んだので、感想を語る

ファンの方には本当、申し訳ないんですが、僕は村上春樹という作家がどちらかと言うと苦手です。 特に『ノルウェイの森』は全く受け付けなくて、今でも悪い意味で印象に残っています。 あの暗さと性描写が、なんというか…… "ウッ" とくるんですよね。 他にも何冊か読んだことはあります。『海辺のカフカ』とか『1Q84』とか。 でもどれもそこまで好きにはなれませんでした。 独特の文体は嫌いじゃないんだけど、物語としては東野圭吾とか横山秀夫の方が好み。 僕がこの小説を読んだワケそんな僕

殊能 将之「ハサミ男」を読ませたい

ミステリーには2種類ある。 読者が探偵と同じように推理に挑む「推理メイン」のミステリーと、読者が「騙されること」を前提とするエンターテイメント色の強いミステリーだ。 "読者への挑戦" で知られるエラリー・クイーンの『国名シリーズ』は前者に分類されるだろうし、アガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』や『アクロイド殺し』は後者の代表であろう。 ではこの『ハサミ男』はどちらに属するか。答えは、完全に後者である。 ハサミ男は既に2人殺している。紛れもないシリアルキラーだ。