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ムカデ人間は繋がっているのに孤独

このところ辛いニュースが多くなっている。なかなか、そういうニュースを目の当たりにすると心を揺さぶられてしまい動揺してしまう。

だからといって何が出来るわけでもなく、ただただ思い悩むだけになるのも精神衛生上よろしくない。そんな時は思いっきり不条理で不道徳で倫理観なんて捨て去って没入できる不謹慎なホラー映画とか観るのがいい。

死というものを軽々しく扱っているもの、人を人とも思わないようなものを観ることで「こんな状況よりはマシだわ」と笑って今の世界を新鮮な気持ちで見直すことができる。

不謹慎この上ないことかもしれない。だが、僕の心が少し安らぐ。

ありがとうホラー映画。

『ムカデ人間』という映画がある。名前くらいは聞いたことがあるだろう。どんな映画かはタイトルから想像する通りの話で、それ以上でもそれ以下でもない。ドイツのイカれた外科医が長年の夢だった人体同士を結合させてムカデ人間を作る映画だ。

そこに日本人が被害者として登場する。捕まった後も関西弁で終始威嚇してイカれ外科医ヨーゼフ・ハイター博士に屈しない彼は、ふたりのアメリカ人女性と共に毒牙に掛かる。

ハイターによってムカデ人間とされた後も、先頭に位置する彼はずっと日本語で悪態をつきまくり抵抗する。そう、唯一喋れるのが彼だ。だが、彼は英語もドイツ語も喋れない。後ろの女性たちにも上手く意思を伝えられない。文字通り繋がっているのに、彼は孤独な戦いを強いられる。

今はSNS全盛の時代で、誰もが繋がりを求めている。

だが、上っ面の馴れ合いで本当に心からの繋がりができているだろうか。

『ムカデ人間』の彼は日本語で後ろのアメリカ人女性たちに「がんばれ!がんばれ!」と励ます。だけど、そんな彼を励ましてくれる声はどこにもない。繋がっているのに届かない声。繋がっているのに聞こえてこない声。これほど辛いことはないんじゃないか。

結局、彼は絶望し、そして尊厳的な行動をとる。

もう少しだけ我慢できなかったのか。もう少しだけ頑張れなかったか。傍観者である僕たちは思うことができる。だが、彼には分からない。彼には目の前の状況が全てになってしまっていた。

とても辛い物語である。

コロナ禍における世界は『ムカデ人間』に凝縮されて描かれている。

人はみな孤独だ。

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