お薦めWebマンガを多様性の観点から選んでみた
マンガ大賞2020が発表された。
大賞は『ブルーピリオド』が受賞した。まあ、妥当だったんじゃなかろうか。意外と珍しい美術マンガという題材がキャッチーであり、かつ月刊アフタヌーン連載という癖の強さも併せ持っていて僕も大好きな作品だ。
しかし個人的には来年こそ天才・田村由美先生の『ミステリと言う勿れ』が受賞することを願ってる。今年は6位でした。
マンガというよりも舞台演劇を観ているかのような静かな会話劇の作品。ほとんど主人公の久能整(くのう ととのう)くんがひたすら喋っている間に事件の真相が明らかになっていくという不思議なマンガである。
若干、取っ付きにくさもあるかもしれないけど、読みだしたら止まらなくなること必至なので超お薦め。
ということで、マンガ大賞には絡んで来ないかもしれないけど個人的に今、お薦めしたいマンガを勝手に紹介するコーナーを始めたいと思う。
特に今回はWeb連載のマンガに焦点を当てて、更に多様性をテーマにした作品をお薦めしていこうと思うので、お付き合いください。
■オトメの帝国
Webマンガ誌である少年ジャンプ+で連載している百合マンガ。今年で連載10年目に突入した知る人ぞ知る名作。
まず画力がエグい。そしてキャラクター設定が多彩で、多様性に溢れている。とはいえ基本は百合なんだけど。
だが特筆すべきは台詞回しだろう。とにかく口語体であることを大切にしていて、説明台詞を極力廃している。これは作者からも明言されている重要なポイント。
そして最新の210話がスゴい。
様々なカップルが登場する中でも異彩を放っている「かおる先輩✕マスク先輩」の物語。
初めて描かれたのは113話だったのだが、ほぼモブキャラと思っていたマスク先輩と超絶美少女かつ女王様なかおる先輩が、まさかここまで耽美かつ純文学な世界観を繰り広げるとは誰も思わなかったはずだ。
現在ジャンプ+で全話無料配信しているので是非とも一読して貰いたい。たぶん全話一気に読んだあとで単行本をあらためて全巻揃えたくなること請け合い。あなたはどのCP推しになるだろうか。
百合好きも、百合はちょっと苦手という人も、ギャグありエロあり涙ありな群集劇をご堪能あれ。
■うちの息子はたぶんゲイ
Twitterで連載されているゲイの息子を優しく見守るお母さんのお話。最近はpixivでも配信されている。
普通こういうテーマだと主人公が自分のジェンダーに悩んだり戸惑ったりすることが多い。しかし、この作品は「うちの息子は女の子より男の子のが好きなんだ」と知った母親が、そんなことには気付いていないフリをしてソっと見守る姿を描いているのが新鮮。
お母さんだって少なからず戸惑いはあるけど、決して否定せずに息子の気持ちを尊重していて、なかなかこれは出来る対応じゃないと思うのだ。
そして作者のおくら先生、ハロプロが好きなのも個人的に推しポイント。28話にはJuice=JuiceならぬSOUP=SOUPが登場したり、たまにTwitter上でアンジュルムのことを呟いていたり、そんなトコも好き。
またこの家庭は二人兄弟なんだけど、ゲームが好きな弟くんが更に良い子で、お兄ちゃんがゲイなことに気付いているけど、お母さんと同じように知らんぷりしつつ、さり気なくお兄ちゃんの気持ちを気遣ってあげたりする。
唯一お父さんだけが一般的な思考の一般的な男の人で、だからたまにデリカシーのない発言をしたりする。そういう時のハラハラする気持ちを僕らに自然と抱かせてくれるのも素敵だと思う。
LGBTの問題をライトかつハートフルに考えさせてくれる点でも本当に良い作品なので是非読んで欲しい。3月21日に待望の2巻も発売します。
■怨霊奥様
BooKLive!などで月イチ配信している一風変わった新婚カップルのコメディ。タイトルそのまま奥様が怨霊である。
相手が地縛霊の怨霊だろうと恋をしてしまったら止められないし、怨霊だって優しくされたら好きになる。だってもともと人間だもの。
そんなお話なんだが、こちらも画力が凄い先生なので怨霊奥様の怨霊バージョンが完全に『呪怨』の伽椰子さん。まあ、『呪怨』自体が半分コメディみたいなホラーだし、昔から恐怖と笑いは表裏一体とも言うくらいで「怖すぎて笑っちゃう」感覚を上手く取り込みつつ恋愛要素まで入れてしまう力技が凄いと思う。
最初は手のつけられなかったゴリゴリの怨霊奥様が、少しずつ癒やされて人間の心を取り戻してアツアツな新婚生活を送る日常が、なんとも面白い。
同性婚とか夫婦別姓問題とか結婚の形も多様化している昨今だが、結婚対象が怨霊ということすらも受け入れられる世の中になるといいなぁ。
■部長が堕ちるマンガ
WEBくらげバンチにて連載されてた「堅物な部長が腐女子の部下に同人誌で無機物とのBL漫画の受けにされたり、薦められた乙女ゲーに嵌ってしまう」というギャグマンガ。
57歳のオジサンが乙女ゲーに嵌って、声優に嵌って、BLにも寛容になっていく姿が面白いという評価だと思うのだが、ちょっと考えたい。これってそんなに特殊なのか?
最早50過ぎのオジサンとはいえ子供の頃からマンガやゲームには親しんでいる層のが多い時代になっている。小山田部長にも素地があったのではないか。
ちょっとしたキッカケがあれば誰でも、どんなジャンルでも好きになる可能性は否定できないと思うのだ。
確かに小山田部長の乙女ゲーへの造詣の深さやBLへの寛容さ、実の娘がゴリゴリの腐女子であることに何ら疑問も拒絶反応もなく受け入れている姿は笑ってしまうほどに清々しい。
世の女性も、こんなお父さんがいたら嬉しいのではなかろうか。それともやはり実の父がこういう趣味というのはまだ抵抗があるだろうか。
願わくば全ての人類が自分の好きな事を好きなように楽しみ、誰もそれを否定しない世界が来てほしい。そんなことを思いながら小山田部長と電信柱の純愛に涙するのだった。
ちなみに続編の『シン・部長が堕ちるマンガ』も進化した小山田部長を堪能できます。
■極主夫道
こちらもWEBくらげバンチで連載されている「元伝説の最凶ヤクザ、不死身の龍が極道から足を洗い最強の専業主夫となる」ハートフルコメディ。
なんともイカれた設定かもしれない。だが、ヤクザが専業主夫になることの何が悪い。
適材適所、得手不得手をお互いが理解し尊重することで固定観念にとらわれない結婚生活をおくれるのなら、男が家庭に入る選択も当たり前になっていくべきではないだろうか。
令和の時代に“ヒモ”なんて言葉は死語になっていけば良いと思うのだ。
ところでこのマンガ、俳優の津田健次郎さんが自らメガホンを取り、監督主演で実写版PVが作られている。そのクオリティが圧巻でこのまま実写化して欲しいと思うレベルだ。
これを読むことで“働き方改革”と言われる日本で社畜としての生き方に疲れたサラリーマンに家庭の仕事の大変さを啓蒙しつつ、専業主夫という生き方もあるんだよという気付きにもなると良いなぁなんて。
■まとめ
ということでザックリと5作品を紹介した。ジェンダーの問題はLGBTだけじゃなく、娯楽の性差にもあることを少し考えるキッカケになればと思いつつ、また多様性という観点では結婚の価値観(恋愛対象の多様化、家庭における役割分担)にも踏み込める作品を選んでみた。
最近はWebマンガによって足枷もなくクリエイターの本当に描きたいもの、伝えたいものがダイレクトに提供できるプラットフォームが増えた。そして面白い作品が至るところで生まれているので、みなさんも新しい価値観、可能性に触れてみてはいかがでしょうか。
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