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《ふたりごと》2020.02.29(sut)映画


今日晴れるなんて知らなかった。洗濯機を回すために出たベランダはもう春のようで、向かいの一軒家の庭で梅が少しずつ蕾をひらいている。昨晩のオールナイトニッポンを流しながら、魚焼きグリルで一袋98円の食パンを焼いた。インスタントコーヒーの安っぽさが永遠に好きで、三十歳を目前にしてまだ弟に借金をしている。ふと思い出しげっそりとした気分は煙と一緒に吐き出してしまおう。
洗濯物を干したらいつもと違った化粧をして、へんなロンTを選んで着る。

いつかふたりで籐の椅子に座り、朝食を取りながら女子高生の頃を思い出す、そんな期待に満ちた映画はもう捨ててきたから安心していてね。
久しぶりに会うあの子は、髪を短く切っていた。待ち合わせの渋谷は、夜のはじまり。この先の平凡な画、わたしとあの子が吸い殻を捨てるシーンを、スクリーンの向こう側でただ自分だけが見ている。それをはっきりと意識しながらもう一本に火をつけ、ゆっくりと細い煙を吐き出した。画角を気にしながら演じる惰性は三文芝居だ。

そうして本物の虚構をまえにしてうろたえるのだ。わたしの人生はただただ平和で、もうこれ以上の幸せなんて有り得ないのだと、またひとつ絶望を知ってしまった。


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