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アメリカの大学入試とその後

 先月、メリーランド州立大学がオープンキャンパスを開催したので、高校生の子どもを持つ親として参加してみた。

 一般に、日本の大学は入学こそ難しいが、卒業は楽だと言われている。その一方で、アメリカの場合、大学入学は簡単でも、入学後はたくさん勉強する上に、卒業は楽ではないと聞く。日本の場合はさておき、アメリカの大学は本当にそうなのだろうか?

 今回、州立大学のオープンキャンパスに参加してようやくこの疑問が解けた。州立大学の場合、大学運営に州の税金が使われているからか、アイビーリーグを始めとした私立大学と異なり、よりオープンに情報共有をする姿勢が見られたのだ。

 以前もnoteで書いたが、アメリカの大学入試は、とにかく複雑である。出願者のGPA(主に高校4年間の成績)や統一試験(SAT/ACT)、課外活動、ボランティアなど、個人の努力や成績も合否を決める上で大切である。しかし、それだけではない。出願者個人の努力ではどうにもならないことも考慮されるのだ。人種(アジア系は成績優秀な進学希望者が多いため不利)、性別、両親の学歴(大卒か否か。親が非大卒の場合、優遇される可能性有)や年収、さらには両親が同窓生か否か(同窓生の場合、legacyとして優遇される可能性有)、家庭環境として親が離婚しているか否か・死別の有無(授業料・生活費など金銭的優遇措置有)など、全て出願書類に記入(ウェブサイト上に)しなければならない。大学側は、アファーマティブ・アクション(Affirmative Action; 積極的格差是正措置)の下、これらすべての情報を加味して、合否を決めるのだ。つまり、日本の一般受験とは異なり、統一試験(SAT/ACT)で高得点を取った者から順に合格通知をもらえるシステムにはなっていない。また、各々の要件が合否を決める上でどれくらいのウェイトを占めるか公表されないため、学生にとっても、そして親にとっても極めて不透明な選抜方法である。

 では、入学後、どのような学生生活が待っているのか。本当に「勉強させられる」のか。それとも「勉強する」のか。これは大学によって、また個々の学生によって捉え方はさまざまで、一概に言えない。しかし、私が参加した州立のメリーランド大学の場合、実は、入学段階ですでに大きく2つのレベル/プログラムに分かれている。Honors(優等)とRegular(普通)である。成績優秀者の上位25%が前者のプログラムに入れる。すると、登録可能なクラス(レベル)も、担当教授も、教員対生徒の割合も異なる。一年時に暮らす寮まで違うのだ。また、優秀な学生は各種奨学金(返済不要)が出るため、結果的にHonorsとRegularでは年間学費も大幅に変わって来る。大学入学だけが目的の学生にとっては、どうでもいいことかもしれないが、どのクラスやコースを選択するかによって、周囲の仲間も授業環境も大きく変わる。入って来る情報も、社会との接点も変わる。すると、インターンシップや就職先も自ずと変わって来るのである。アメリカの公立高校の段階で、すでに授業登録の際、同様のことが繰り広げられているので、HonorsとRegularの相違は、身を持って体験しているはずだ。

 メリーランド州立大学のHonorsプログラムを専攻する学生の質は、アイビーリーグを始め、上位校の学生と比較して、決して引けを取らないという印象を持った。オープンキャンパスでは、Honorsの学生が集まって、授業内容紹介や質疑応答、プロモーションが行われたが、彼らの話す内容は極めてレベルが高く、学習意欲と向上心で満ち溢れていた。以前、アイビーリーグの大学見学をしたこともあるが、その際に会った学生と同等か、むしろやる気とガッツの面では、メリーランド州立大学のHonorsプログラム専攻の学生の方が上ではないかと思うくらいだった。

 逆に、それだけ優秀ならば、なぜ州立大学ではなくて、アイビーリーグに入学しないのかという疑問がわく。個々の学生に尋ねたわけではないので真相はわからないが、おそらく金銭的な問題が大きいのではないだろうか。アイビーリーグから合格通知をもらっても、十分な奨学金が出ない場合、一千万円を超えるような多額の借金を抱えてまで大学名にこだわるのか。借金を抱えたところで、卒業後にすぐ返済可能な収入が保証されるのか。アイビーリーグが持つ独特のソサエティに入れるのか。そうしたことを熟慮した上で、州立大学のHonorsプログラムを選択し、実質本位で授業を取り、成績や実績を残す方が得策と考えているのかもしれない。あくまでも推測にすぎないが。

 私自身、アメリカで教育を受けたことがないため、なかなかアメリカの大学の雰囲気を想像できない。しかし今回、オープンキャンパスに参加し、実際に数多くの現役学生の話を聞く中で、アメリカの州立大学の構造がとても理解できた。また、学生の学問に対する意欲の違いが、入学後、学生生活を送る中でどのような違いを生み出し、そしてそれがどう社会と結びつくか、ようやく想像がおよぶようになってきた。

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