杉原ひろみ

アメリカ東海岸に21年暮らし、公立進学高校で臨時教師をしていました。家族は日本人の夫と娘(大学1年)の3人。子育てと仕事をとおして、アメリカの教育や、海外で暮らす子どものアイデンティティ形成について考えます。

杉原ひろみ

アメリカ東海岸に21年暮らし、公立進学高校で臨時教師をしていました。家族は日本人の夫と娘(大学1年)の3人。子育てと仕事をとおして、アメリカの教育や、海外で暮らす子どものアイデンティティ形成について考えます。

最近の記事

フィリップス・コレクションを訪問して

 学校が春休みの今、ワシントンDCにある「フィリップス・コレクション」(The Phillips Collection)に行く機会があった。ここは、鉄鋼業で財を成し、近代美術作品の収集家だったフィリップス夫妻の近代美術アートのコレクションをもとに、1921年に作られた邸宅ミュージアムである。ルノワールやゴッホ、シャガール、ドガ、セザンヌ、ボナールの作品など、世界屈指の収集品を誇り、日本でもフィリップス・コレクション展が開かれるなど、世界的にも有名な美術館である。だからという訳

    • オンラインでの出会い① アメリカの黒人文化からアイデンティティへ広がりを持って

       コロナ禍以降、Stay Homeで家族以外の人と話すことが少なくなったため、刺激を求めて日系オンライン英会話を始めた。世界中の講師とフリートークをすることで、私は視野が広がり、精神的に自由になったと感じる。新しい出会いを見つけるために、何百人と登録されている講師のプロフィールや受講生の評価・コメントを読みあさり、まるで人事採用をしているかのようだ。  ある日の講師は私と同世代で、メキシコのアメリカン・スクールで高校歴史と実業教育を担当するアメリカの黒人女性だった。メキシコ

      • 私が始めたオンライン・ボランティア活動

         コロナ禍をきっかけに、新たに始めたことの二つ目に、オンライン日本語交流ボランティア活動がある。コロナ禍の流れで最近、始まったばかりのオンライン・ボランティア活動だが、毎回、とても刺激を受けている。日本に到着して二週間のホテル隔離期間中の技能実習生が、日本語や日本文化に慣れて、日本生活にソフトランディングできるようにすることを目標にした活動だ。オンラインだと、アメリカに住んでいながら、こうした人たちとも簡単にコミュニケーションをはかることができる。    技能実習生と会話を

        • 私が始めたオンライン学習

           新型コロナウイルスの流行で、人々の行動様式が一変して早くも7か月が過ぎた。その中で私自身が一番変わったことは、家にこもってオンラインで、仕事も学習も、そしてボランティアも行うようになったことだ。コロナ禍で人とのリアルな交流が絶たれたため、インターネットが唯一、外の世界とつながる大切なツールとなった。しかし、世界全体が同時に新型コロナウイルスという猛威に阻まれ、対面からオンラインにシフトしてくれたことで、他国との分断をさほど感じずに、私の行動様式を大きく変えることができた。

          半年ぶりに開いた校舎

            アメリカの私が暮らす地域にコロナ禍が押し寄せ、急に学校閉鎖が決まったのが3月中旬。以来、わが学区の公立高校は、一度も建物を開放することはない。許可なく建物内部に足を踏み入れることを、固く禁じているのだ。8月終わりから始まった新年度も完全オンライン授業で、生徒も先生も学校に通うことは一切ない。しかし、9月終わりと10月はじめの2週連続、SAT試験会場として、学区内のいくつかの公立高校がようやく、受験生に門戸を開いた。学校に生徒が戻ってきたのだ。これは本当に画期的なことで、と

          半年ぶりに開いた校舎

          学び続けることは新たな世界の扉を開く

           コロナ禍の今、録画された英語による講演に、翻訳字幕をつける仕事を仲間から請け負って、家族を巻き込み大騒ぎしながら、分業体制でやっている。コロナ禍の影響で、家族全員が毎日、家にいるからできる技。  令和の家内工業。  アメリカの高校に通う娘は、有給インターンとして動画への字幕つけに参加。本人は、カレッジエッセイでの自己アピールに使っている。 請け負ったビデオに登場するプレゼンターは毎回、英語圏出身のスピーカーではない。これがまた大変だ。アメリカ人の話す英語がどんなに聞きや

          学び続けることは新たな世界の扉を開く

          アメリカの高校生の運転免許

           アメリカでは、自分で運転して高校に通うのは驚くべきことではないことをご存じだろうか。州によって自動車運転免許の取得に関する法律が異なり、特に10代での免許取得の場合、1歳毎に規則が細かく異なるので、一概には言えないが、私が暮らす州を例に挙げると、最年少では16歳から運転免許を取得できる。なので、高校3年生ともなると、毎日、自分ひとりで運転通学してくる生徒もいる。そのため、高校の駐車場は生徒用スペースもあり、とても広い。しかし、そのスペースにも限りがあるため、高校によっては成

          アメリカの高校生の運転免許

          アメリカの新学期-対面授業かリモートか

           アメリカでは、新型コロナウイルスの蔓延で、多くの学校が3月中旬から学校閉鎖に追い込まれた。私が暮らすカウンティでは当初、2週間の学校閉鎖と言われていたはずだ。しかし、事態が変わり、代替措置としてオンライン授業が開始、最終的には6月中旬の学年末まで学校が開くことはなかった。そして例年通り2か月におよぶ長い夏休み。日本では、学校閉鎖による授業カリキュラムの遅れを取り戻すべく、土曜や夏休み返上で登校し、授業を行う学校もあるようだが、私が暮らす地域ではそのような動きはなかった。これ

          アメリカの新学期-対面授業かリモートか

          アメリカでK-popに惹かれる若者たち

           アメリカに暮らして20年になるが、私が初めて関心を持った海外は朝鮮半島で、大学では語学や歴史を学んだ。1980年代終わりから90年代初頭の韓国は、隣国でありながら、まだまだ遠い国だった。当時としては画期的だったが、大学の授業でも韓国ドラマを扱い、リスニングやディクテーションをした記憶がある。しかし、勉強の域を超えて、韓国ドラマを見ようとまでは思わなかった。そこまで簡単にビデオが入手できなかったこともある。だから今日、韓流ドラマが一つのジャンルとして確立し、不動の地位を占めて

          アメリカでK-popに惹かれる若者たち

          論理力を鍛えるアメリカ教育

           日本では、緊急事態宣言も解除されて、大学はさておき、多くの小学・中学・高校が再開されたのではないだろうか。かたやアメリカでは、ほとんどの学校が再開されることなく、長い夏休みに突入してしまった。  新型コロナウイルスの蔓延によって、人々の行動様式が変わった。その中で最も変わったと言えるのが、会社や学校という場所に行って、対面で仕事をしたり、学んだりせず、自宅でリモートワークやオンライン学習をするようになったことではないだろうか。こうした変化に順応を迫られる中で感じるのは、「

          論理力を鍛えるアメリカ教育

          アメリカでは大学への推薦状をどう作るのか

           日本でもAO入試が盛んになってきた。その際、受験生はどのような書類を用意し、どのような試験を受けるのだろうか。アメリカで子どもを育て、アメリカの教育界にいる私は、日本のAO入試がとても興味深い。  「いい大学に進学するためには、小さい頃から、コンクールや大会に出場して賞を貰うことが大切よ。」アメリカで子育てをしていると、ことある毎に、周囲の人から言われ続けてきた。大学受験で有利になるために競うのだろうか。スポーツでも音楽でも、上を目指すと熾烈な戦いがある。州をまたいであち

          アメリカでは大学への推薦状をどう作るのか

          この先、アメリカの大学が待ち受けること

           新型コロナウイルスによる大学側への影響について考えてみる。2020年5月27日付ワシントンポスト紙によれば、ソーシャル・ディスタンスや、学生の行動様式、若い学生と年を取った教職員との交わりといった観点から考えると、大学が通常通りに再開するのは、さまざまな業界の中でも最も後になるだろうとされている。そうだとすると、大学はこの先、どのようなことが起こるのだろうか。  アメリカの大学授業料は、成績や家庭環境、エスニシティ、特技・才能等が考慮された上で奨学金が出るため、学生ごとに

          この先、アメリカの大学が待ち受けること

          全米統一試験の自宅オンライン受験から何を学ぶか

           毎年、5月第1~2週目にかけて実施されていた全米規模の試験(AP試験)が、今年はコロナ禍の影響で2週間遅れ、さらに試験会場の閉鎖で、自宅オンライン受験に切り替わったが、その大きな試験も終了した。  このAP試験に関して、私には二つの学びがあるように思う。  一つが、前回のコラムでも書いたが、のべ240万人の高校生が受験する大規模な科目試験を中止にすることなく、大胆にも自宅オンラインで実施したことである。国際バカロレアやSATなど大学受験を左右する大規模な試験が軒並みキャ

          全米統一試験の自宅オンライン受験から何を学ぶか

          コロナ禍の中、米国の大学進学をめぐる葛藤

           新型コロナウイルスなど全く関係なかった前年までだと、大学受験生は、5月1日までに大学からのオファーを受け入れるか否かを決めなければならず、逆に言うと、その日を境に多くの生徒の進学先が決まる。しかし、今年は多くの大学が一カ月延長し、6月1日までに最終回答すればよいとしている。  なにせアメリカの大学の学費は高い。各々の家庭環境や経済環境によって異なるが、多くの場合、生徒の気持ちだけで進学先を決められないのがアメリカの現実だ。複数の大学から合格通知を貰っても、それがたとえ本人

          コロナ禍の中、米国の大学進学をめぐる葛藤

          アメリカの在宅オンライン統一試験

           世界的に広く普及した国際カリキュラムとして、国際的な教育プログラムと大学入学資格とを提供する「国際バカロレア(IB)」や「ケンブリッジ大学国際教育機構」(ケンブリッジインターナショナル)があるが、今年は新型コロナウイルスの影響で、いずれも最終試験を中止している。そんな中、のべ240万人が受験すると予想される全米最大のAP(Advanced Placement)試験が、5月11日から22日までの2週間にわたって在宅オンラインで行われている。  アメリカの高校では、同じ科目で

          アメリカの在宅オンライン統一試験

          オンライン学習を軌道にのせる三つのポイント

           日々、世界が激しく動いている中で、ちょっとでも立ち止まると、瞬く間に目の前の景色が変わり、自分が発信しようとしていた情報が陳腐化していくような気がして怖くなる。教育の世界も同様だ。世界中の学校が、あれよ、あれよという間に閉鎖に追い込まれ、大きな流れとして、オンライン学習へと移行した。その移行過程を追っている間に、あっという間にまとめの時期に差しかかってしまったようだ。今は世界のあちこちの国で、学校閉鎖の解除に向け、さまざまな施策が発表されつつある。  そんな前置きはともか

          オンライン学習を軌道にのせる三つのポイント