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まろやかな再解釈の神殿、映画「北極百貨店のコンシェルジュさん」



#ネタバレ

すっきり丁寧な大人の仕事!!!!!!!これまた優しく忘れがたい作品が完成してしまった…上映時間70分なんだし早く全員観た方がいい、たぶん私は原作を知らなくても好きになってただろうなと思えました

かわいい動物が出てくる不思議ハッピー上品な世界観でお仕事映画でメッセージ性もあって、それでいて時折スッと差し込まれるひんやりとした皮肉と警鐘、これジブリ好きな人とかにもしっかり刺さるんじゃない?ということはもう全人類案件なんじゃないか???早く観て本当に


特装版も出してくれた全2巻の原作、個人的には2巻が発売されたタイミングで知って、即購入してしまってそれはもう経験したことないくらい全ての要素にハマって!大事に読んだし何度も読み返してる、という経緯がまずあって

繊細でダイナミックでユーモアあふれる絵のタッチであるとか、じっくり語ったり省略したりの緩急がひたすら心地良いテンポ感、説明しすぎない飄々とした語り口、などなどを土台に優しくて苦いストーリーがゆったり語られるといった感じ
表情や動きを全体的に少ない線で描くからこそ余計に雄弁というか、でもそれと同時に点描の細かな質感も素晴らしい、とにかく全方位的に豊かであたたかい漫画だと感じられる大好きな作品でして!


ちなみに読み終えた当時書いた感想文があったので読んでみると

「贅沢な余白の使い方、意表を突くギャグ、優しさ溢れるストーリー、そのどれもが圧倒的なクオリティーなので浸ってるだけで幸せ、上品でかわいくてお洒落でもう全部あるじゃんみたいな」
「ややベタな感じもあるけどそれは工夫のなさってよりは、削ぎ落とされた理想としてのベタって感じ」
「アニメとも実写とも違う、この語り方ならではの工夫と遊びと矜持、それをポップにかわいく描いてる最強のやつでした、もっとこう畳くらいのサイズで読めたら最高だろうな」

などと書いておりました、分かる


それが今回アニメ映画化ということで!なるほどこれがアニメ化に際してファンが抱く喜びと不安なのかと実感しながら、とはいえスタッフやキャスト・原作者のプッシュ・そして何より本ビジュアルの見事さから割と安心して待てる感じではありました

この本ビジュアルね〜〜原作1巻・2巻の表紙を再解釈して組み合わせるというアプローチ、単なる宣材ではなく原作へのリスペクトもギュッと詰め込まれてて、発表された時は嬉しかったな

いろいろと期待はしてしまうけど、勝手に裏切られた気になるのも良くないと思ってフワフワした気持ちで公開を待ってました、東堂さんのバオ!とモガ!はどうなるかなぁとか


そしていざ本編、冒頭の意外な展開に驚きつつも、やはりまずはアニメーションとして目に楽しいというのがね!!!

ポップで柔らかな色づかい、しなやかなキャラクターたちの動き、デフォルメの効いたダイナミックなアクション、動きはこれリアリティーで言えばもちろんあり得ない動き方だったりするんだけど、いやいやそこが良い…動きそのものでキャラクターの性格や思いまで表現してる、これはもう見事としか

原作のコマとコマを誠実に繋いで動かして、納得感のある音をつけて、本当それだけのシンプルなことが過不足なく達成されてたな〜、場面ごとの緩急のつけ方も原作を読んでる時のリズム感そのままって感じだったし

例えばカウンターのベルが鳴る音、原作だとコマをまたぐ形で伸びやかに「チリーン」と鳴る表現で、それがそもそも映画的ではあると思うんだけど!その雰囲気がそのまま反映されてて嬉しいな〜とかね、そういう細やかな仕事がとことん積み重ねられてると感じた



生き生きとした挙動や表情からキャラクター達に命を感じられるというのは、もちろんアニメーション本来の喜びでもあるだろうけど、今回それ以上にストーリーとの関連でもね、このキャラクター達が「生きてる」と感じられることがどれだけ喜ばしいことか!!

これは原作だとそこまで強く感じなかった、やはりアニメだからこそ見出せた部分だと思う、ストーリー的にも表現方法としても、生きてると思えることが嬉しくて尊い…もうこの時点でアニメ化は大成功と言って差し支えないんじゃないでしょうか、好き



アニメとして、という点では声優陣の演技も軒並み素晴らしくてね!!!違和感ゼロ、根本的にアニメ特有のアニメアニメした喋り方が苦手ではあるので、そういう感じじゃないバランスで統一してくれてるのはありがたかった

東堂さん岩瀬さんあたりの自然さは特に素晴らしかったし、ウーリーさんの繊細な表現にもしっかりやられてしまいました、あれはずるい


それから70分を通してのストーリー面、これもまた見事だったな〜!!こればっかりは原作をよく読んだ状態での鑑賞だったのでそれが前提にはなってしまうけど、とにかくエピソードの組み合わせ方と取捨選択が上手すぎる

原作の各話をそのまま繋いだオムニバス形式にすることも全然できただろうに、そうではなくひとつの物語として自然に流れていくよう並び替えて組み合わせて、なんならエピソードや場面ごとの本質的な意味どうしで縫い合わせてるのにツギハギ感はない、すごいな〜これ

まぁこの点については私が漫画原作ものをそんなにたくさん観てないということかもしれないけど、原作を壊さない範囲で理屈を補強しながらひとつの大きな物語に仕上げる、という仕事の丁寧さには感服しっぱなしでした

理屈という点では特に東堂さん、壁やら水槽から突然現れるというデタラメさにまできっちり理屈をつけつつ、油断した所であの登場の仕方はずるいよな〜〜本当にうまい

あと香水を欲しがった理由、エルルさんのスライディング、他にもいろいろあった気がするけど!とにかく物語の大胆さを邪魔しない範囲でさりげなく理屈を付け加える、そのバランス感覚が好きでした


それからやはり世界観設定とそれに対する姿勢の部分、ここは原作でも特に印象深い点であり今回どうなるか心配だったところでもあるわけだけど

まずひとつ、設定をはっきり説明する場面をあのタイミングで持ってくるのは上手いなと感じた!連載漫画だった原作は1話ごとの裏表というか、底に流れる影の部分をそれぞれのエピソードごとに入れて絶妙な温度感に仕上げることができたわけだけど
その裏表を映画版は70分全体を俯瞰した上で適切なタイミングを選んでる、その解体と再構築はなかなか度胸もいるところだろうけど、これは脚本の力なのかな〜違和感なく飲み込めました

それとあわせて、生き生きとしたハッピーな物語の中にチクっと差し込まれる明確な「死」の匂い、これをビビらずやるどころか原作以上に多く盛り込むというこれまた度胸ある再解釈…意表をつかれたし、この高低差で物語がより一層奥行きのあるものになってるなと感じた

きらびやかなだけではない、例えば売り場とバックヤードとの強烈なギャップを色や音で表現するスリリングさも、やっぱりカラーのアニメならではの強みだと思う


そして物語全体の着地点ね!ここも原作とは違うので評価が分かれる所だろうけど、環境破壊や大量消費のネガティブな面についての言及を最低限に抑えて、あくまでも「おもてなし」「他者を思いやること」にフォーカスするという判断もまた素敵な解釈だな〜と感じたところ

原作だと秋乃さん個人に人間が本来持っているであろう善性を見出す、というささやかなポジティブさに留めていたのに対して、映画版は他者を思いやるすべての登場人物をつなぎ合わせながら「相手に寄り添って、何か力になりたい・喜んでほしいと思う気持ち」そのものを大肯定する華やかなクライマックスに仕上げていて…

東堂さんのセリフこそ削られてたけど、セリフではない形で登場人物たちのまっすぐな思いをあたたかく描き切ったのは本当に見事な着地だと感じた、あらゆる演技と演出が強引ではない形で高め合っていてさすがに泣いた

コンサートを観てるそれぞれの表情を見せることが同時に回想シーンの役割を果たしていたりもして、物語が止まらないよう工夫が凝らされてるのも好きなポイントだったな〜

泣きの演出という意味では、ちょっとやりすぎなくらいエモーショナルな方向に寄せた再解釈でもあるとは思うので、ここらへんは好みが分かれる部分かもしれない!原作のあっさりした空気感とはまた違うゴージャスさも個人的には魅力だと感じたけどね、例えばサックスカルテットがオーケストラに変わってたりもするし


なんにせよ、コンシェルジュが主人公であるこの物語は基本的に他人どうしが関わり合う構図ではあるので!その他人どうしが連携し合う・お互いをベタベタし過ぎない程度にちゃんと思いやるということが余計に輝くんだろうな、理想論の塊でありながら語り口は原作同様にユーモラスで軽やか、あーもう素晴らしいな本当コンシェルジュマジック

主題歌もまだまだ聴き込んでいないけれども!よどみなく展開していく美麗なメロディー、その途切れなさ・密度感が今回の本編70分というタイトな尺から浮いてなくて見事だなと感じた


一方で、個人的に丁寧な仕事として受け取れなかった部分としては例えばスカーフの描き方、これ首がどうなってるってこと?とは終始思ってしまったかな

あとは丸木さんのデザインだけ原作から大きく変えられてて、大人の事情なのか知らんけど、原作を踏まえて観てる側からしたら戸惑ってしまうし、細身のキャラが1人増えたことで多様さが目減りする感じはあるなと思った(←これはパンフに「連載時のデザイン」と説明されてた、さすがに単行本しか読んでないからなーーー悔しい!)

雪とか紙吹雪のCGについては、これはもうこういうものとして受け取るしかないんだろうけどやっぱりな〜、どうしても絵から浮いてる感じがしてしまって苦手、なんかやり方ないんだろうか


とはいえ大満足で劇場をあとにした今回、仕上がりに期待と不安どちらも抱えてたけど完全に杞憂だったな、和服のミーアキャットまできっちり拾ってくれる映画化なんてもう後にも先にもないだろう

そういえば主人公の名前、「あき↑の」さんだと思ってたけど「あ↑きの」さんだった、「ポテト」と同じイントネーション、これ苗字だと気づいてなかったの恥ずかしい


いや〜〜〜それにしても素晴らしかった、全体的にこういう再解釈なんだと把握した上で、さらにフラットな視点でもう一度観る必要があるなと思っているし、あれこれ考えなくても目で楽しい豊かなアニメーション映画でもあるので!次は店内のディスプレイとか季節ごとの違いにも注目したいな、早くみんな観てほしい、ちゃんと売れてくれ

#映画 #北極百貨店のコンシェルジュさん #感想 #映画感想文

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