ワーカーホリック 心酔する愚者 2章ー②
私と佐藤は、お蕎麦屋さんに到着後、女将さんの案内で、2階の個室席に座った。掘りごたつになっているので、足が伸ばせて嬉しい。
ここは事務所から近く、お昼のランチのお蕎麦が美味しくてよく使っている。
席に座り、女将さんが温かいお茶とお手拭きを渡しながら、注文を聞いてきた。
私と佐藤は季節のお蕎麦御膳を頼んだ。佐藤は盛り蕎麦を大盛りにし、私は盛りからかけに変更する。
女将さんが扉をしめたタイミングで、私は佐藤に話しかけた。
「それで、ターゲットはいまどこにいるの?私がエレベーターに降りてきたときには、もう近くにはいなかったんじゃないの?」
Sは手を拭きながら、あぁと答える。
「自宅からあのビルまでは俺がずっと尾行してたからね、正直13時まであの喫茶店にいるとは、思えなかったよ。駐車場で清算する前に確認したときは、繁華街にすらいなったぞ。いまの位置情報だとクリニックにいるらしい」
「クリニック?」
「どうやら複数のクリニックが入っているからただどの階のクリニックか分からないけれど」
「位置情報、私にも送ってほしい」
ほいっといってスマートフォンで佐藤が操作する。
私のスマートフォンに通知がくる。送られてきた位置情報から内科、形成外科、泌尿器科が入ったメディカルクリニックビルと書かれていた。
「おそらく泌尿器科でしょうね。ターゲットの勤務先のソープ嬢がよく行くクリニックが入っている。ここのクリニックはターゲットの家から電車でいくには少し遠いから、間違いないと思う。」
うわぁと佐藤が顔を歪める。
「妊娠中に、性病の可能性があるのか。きついな。」
「症状があるだけで、診断結果まで分からないでしょう。そもそも、妊娠しているか謎だし。…まぁそこも調査結果待ちかな。今も誰か張っているんでしょう?」
「男女で梨本さんたちのお使いが張っている。病院のカルテと処方箋の内容は後ほど送るとさ」
佐藤はお茶を飲む。
いくら私たちでも、病院のカルテを確認することができないため、そういう場合は梨本さん経由で依頼する。今回は報酬の一部に組み込まれているが、たまに別料金が発生する。
だからこそ、梨本さんからのチップは使わない方が良い。
「そういえば、もらった名刺。もう一回見せて欲しい」
「貰ったわけじゃないけどね。ちょっと待って」
鞄から取り出そうとしたが、うちポケットから出てこない。私は鞄を覗き込み机の上に中身をだす。
スマートフォン、手帳、タバコ、テニスボール、タロットカード。
「これ、タロットカード?なんで持ち歩いているの?お前、占い信じるタイプだっけ?」
佐藤はタロットカードを手に取り、箱を開けてカードを取り出す。
「別に信じている訳じゃないけど、大事な人から貰ったものだからなんとなく持ち歩いているだけ、占ったことは一度もない。」
ふーん。大事な人ねぇといって佐藤は1番前にあった愚者のカードを取り出す。
「愚者か。確かタロットって向きによって意味が違うっていうよな。正位置と逆位置だっけ。調べてみよっかな。」
「調べるのはいいけど、大事なものだからとりあえず返して、その代わりどうぞ」
わたしは鞄こそ底にあった名刺取り出した。
佐藤は愚者のタロットカードを箱にしまい。私に渡す。
佐藤に名刺を渡すと天井の照明の光に当てたりして、細く確認をはじめた。
「ホストの名刺ってすごいな。この名刺、クレジットカードぐらい厚みがあって、やたらキラキラしてあるぞ」
確かに最初にカトウアイの名刺は、私たちが知る普通の名刺とは違って、名刺の表面にはホログラム加工のようにキラキラとしていた。
はぁーすごいなっと言う佐藤は名刺を持っている反対の手で、机に置いてあったスマートフォンの画面を開けた。
「この名刺、僕がもらってもいい?」
「いいけど、まさか連絡とるの?」
わたしはお茶を飲もうとした手を思わず引っ込めてしまった。
「ネカマ用携帯があるからそれで、やり取りしようかなら。安心しろ。お前のフリをするが絶対に迷惑はかけない。連絡とっている間は、お前にも報告する。登録名、野田紗希子で良い?」
佐藤はスマホを淡々と操作する。
「確かにターゲットの目的の1つが、カトウアイだから、本人とやり取りするのは構わないけど…私の人格を壊すような発言したら止めるからね。あとその携帯のメッセージのログイン私も出来るようにして」
「もちろんだ。」
ほいっとメッセージでログインアドレスとパスワードが送られてくる。
「早速、今夜からメッセージ送るわ、久しぶりのネカマするのはすごく楽しみ」
「タチが悪い男だな」
「お前に言われたくねぇよ」
むすっとしながらスマートフォンで登録作業をしている。アイコンとプロフィールどうしよっかなと考えはじめたところで、私は机に置いていたタバコを手に取り取り出そうとしたが、佐藤が止められる。
「せめて、飯食ってから吸えよ」
むぅと思ったが、階段から登ってくる音が聞こえたので、私はタバコをカバンにしまった。
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