ワーカーホリック 心酔する愚者⑧

疲れたーと佐藤は両腕、両足をのばす。そして立ち上がり、資料を岩田に渡して、コートを着始めた。
「資料自分で持っておかなくていいの?」私はカバンにタブレットをしまいながら、佐藤に声をかける。
「全部覚えた。」
「怖っ。これだから天才は・・・」
私も立ち上がり、コートを着る。すると私の着替えが入ったボストンバックを佐藤がもってくれた。
「あら、優しい。なんの気の迷い?」
「気の迷いって、いつも僕は紳士だ。ところで車できたから先に駐車場に向かうけど、お前もどうせ事務所に戻るだろ?事務所に戻る前途中のどっかで昼飯食べにいこう。」
おっけ。と返事をしながら、私はスマートフォンをみて時間を確認する。時間は13時20分を指していた。そりゃ、お腹空くはずだよなと思っていたら、ホストクラブのキャストたちのナイン、シン、タカはお昼をどこで食べる?の話をしながら、部屋を出て行った。カトウはまだ座ったまま、岩田から返却されたスマホで画面の操作をしている。

「2人とも、何度もすまないが、よろしく頼むよ」
梨本さんが私と佐藤に声をかける。
「かしこまりました。結果報告以外にも都度報告はさせていただきますので、何かあれば仰ってください。依頼中は電話もかけて頂いても問題は無いように上に許可を取っています。」
「本当に、君は仕事熱心で助かるよ。この後、ホテルで中華のランチでもと思っていたのだけどね、まだまだ打ち合わせが続くから、また今度にさせてくれ」
「ぜひ、今度ご一緒させてください」わたしはにっこりと梨本に微笑む。
では私たちはこれで、と言おうとしたところ、いつのまに佐藤の姿がない。
代わりに橋本が声をかけた。
「佐藤さんなら、先ほど部屋を出てエレベーターで下に向かわれました。」
「まったく、彼は相変わらずとういうか・・・あれで仕事ができるから、誰も何も言わないと思うが、本当に困ったものだよ。よほど私のことが嫌いなのだな。」
「申し訳ございません。あとで注意しておきます。・・・ところで梨本さん八戸橋議員の件ですが」と私は小声で梨本に話す。
「あぁ、それなら・・・と梨本は画面を操作し始めた。そして私のスマートフォンに通知がくる。私はパスコードを解除し、アプリを開く。そこに表示された入金金額を確認し、わたしはニヤケそうになるが、口を隠すふりをして、梨本に話す。」
「確認いたしました。上の分は後ほど?」
「そうだ。事前に私から連絡しているから、君が怒られることはないだろう。佐藤くんの分も勿論了承済みだ。」
「承知いたしました。本当にいつもご贔屓にしてくださり、ありがとうございます。」
「何、君と私の付き合いだからね。僕も一旦お昼にするから、ここでそろそろ失礼するよ」
「はい、私も失礼いたします。」と部屋の扉に向かって歩き出すと
赤城社長と村山店長が立ち上がって、ありがとうございました。と声をかけたれた。わたしも会釈をして扉にむかった。
私は扉を開けた途端、岩田が部屋に入ろうとしていた。どうやらお弁当を手配していたらしい。両手にお弁当とお茶が入った袋をもっていた。
高そうなお弁当だなと思いながら、私は扉を抑えて岩田が部屋に入るのを見届け扉を閉めた。

扉を出ると、薄暗い店内が広がっていた。やはり昼間とは言え暗く感じる。
わたしは、来た道を戻るようにお店の出口へ向かう。
フロントが見え、お店の扉の前についた。私は扉を開けて、エレベーターホールに向かう。
エレベーターホールも暗く感じるなと思った。
そして昼間だからか、エレベーターは殆ど稼働している様子はなく、1階ですべて止まっているようだった。
私は下のボタンを押し、エレベーターを待つ。
スマートフォンを開き、わたしは佐藤に連絡をしようとしたところ、佐藤から駐車場についた。とメッセージがきた。私はどこの駐車場?と返信したところ、エレベーターが9階に到着する。

扉が開き、私はエレベーターに入り、1階を押す。そして、閉めるのボタンを押そうとしたとき、急に扉のドアに手を出してくる人が見えた。
わたしは扉をみるとカトウアイが、急にごめんなさい。といいながらエレベーターに入ってきた。コートと荷物を持っていたので、恐らくカトウも帰宅するのだろうと思ったが、そこまで急ぐ必要があるのか?エレベーターはあとふたつもあるのに、とカトウを見たが、カトウは慣れた様子でエレベーターのボタンの前にいた私の前に入り、ボタンの操作をした。
「今日はお越しくださり、ありがとうございました。今日の件、よろしくお願いします。」とカトウが私に声をかける。
「いえ、仕事ですので、気になさらないでください」と私は返事をする。わたしはカトウのすぐ後ろに立つ形になってしまったが、改めてカトウは身長が高く、細見だなと思っていたところ、カトウがこちらを向いた。そして私に近づいて抱き着いてきた。
わたしは反射で右足を彼のお腹に突き出そうとしたとき、カトウが呟いた。
「本当におねがいしますね・・・」と言い終わるタイミングで私から離れた、そして扉が開く音がして。どうぞ、カトウが出るように促す。
「・・・ごめんなさい。カトウさん。先に出てくれませんか?」
「えっ」
「私、先ほど忘れものをしたみたいです。取りに戻るので、こちらで失礼いたします」
「でも」といいかけたところで、彼の体を押し、エレベータの外に出す。
彼が出た瞬間、私は9階のボタンを押し、扉を閉めた。
扉がしまる瞬間、彼が少し私を睨みつけているように感じた。



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