ワーカーホリック 心酔する愚者⑪
「精液ホストって・・・、なんかもう、あの掲示板の資料みてから嫌悪感より、疲労感の方がつよいわ」
わたしは眉間を押す。赤の他人の性事情なんて、仕事が関係なかったら知りたくもない。さすが有名なクラブのホストだからか、ターゲットが書き込みした内容に対するコメントの嵐がすごかった。ホストに対する嘆き、怒り、コメント主に対する批判、そしてそれでもホストを信じるコメント、よく橋本さんは5枚にまとめたよな。と感心してしまった。恐らくもっと書かれていて、だいぶピックアップした枚数だろうと思うけれど、もし詳しい内容が気になりましたら、検索すればすぐに出てきます。言っていた橋本さんの目は少し死んでいたな・・・・。
炎上している内容なんて、正直自分から見る気がしない。あぁでも、もう少し被害の内容を把握しないといけないから、あとで読んでみようかな・・・深夜に読むと病みそうだから、日中にすこし読むかなと考えていたところ、
「内容が生々しいよな。俺が書かれたら泣くわ。ってか家から出れないわ。気を付けないと」
急にキリっとした表情になる佐藤を無視して、私はカバンの内ポケットを漁る。
「あれだけはっきり書かれると。絶対1回限りじゃないんだろうな。まぁ実際太客だったらしいし。女って怖いな・・・」
「いや、一番こわいのは、男女共通して何考えているか分からないやつだよ。」
ほれこれっと言って人差し指と中指に名刺を挟んでヒラヒラと佐藤の顔の近くでふる。
「何それ、名刺?」
「そう、梨本との話が終わって、エレベーター乗ろうとしたとき、急にカトウさんが入ってきたの、それで下に降りているときに抱き着かれて名刺入れられた・・・。ほんと、危なかったわ。反射で蹴り上げなくて本当に良かった。」
「安心するところ、そこかよ」
「まぁね、ここで暴力事件おこしたら、ややこしいことになりそうだし。でも普通抱き着くか?」
「そんなの、お前と個人でやり取りしたいに決まっているだろう。今回の料金の話で、恐らくお前、高級取りだと思われたんじゃない?」
「高級取りだけど、毎月出費で首が回らないけどね」
ふうっと私はため息をつく。
「でも、一緒にエレベーター降りなくてよかった。正直ついてきそうな感じがしたし、何より・・・」
「ターゲットの存在気にした?」
「朝の尾行の連絡は新幹線で聞いていたからね。もしあの時一緒に降りて、佐藤君を待つ数分でも一緒にいたら、絶対客だと勘違いされるじゃん。今日の私、スーツじゃないし」
「たしかに、なんで黒のワンピースなのか気になったけど、汚したのか?」
「まぁね、昨日、結構ぐっしょり・・・ホテルの水道で粗方おとしたけど、捨てようかな・・・3万もしたのにショック」
「その恰好だと同伴する客に見えなくもないな」
「でしょ。いくら昼間だとはいえ、一緒にいるところは見られるとまずい。だから車を横につけてもらったのよ。ここでターゲットに見られたら、全部ぱぁよ。本当、エレベーターの前まで来てくれて助かった」
「それは良かった。」
「最終的にバラすから、バレても構わないんだけどね。たださっきバレるのは、本当にまずかった」
「尾行対策も含めて対面での依頼はそろそろ考えないとやばいよな・・・今回は特にストーカーに近いし、やっぱオンラインで受けていくか」
「対面は対面で楽だけどね、それにまずくなったら、全員その場でやってしまえば良い」
「発言がおっかねぇよ、そんなことばかり言うとまた上から要注意人物扱いされるぞ。」
「私はずっと要注意人物だよ。3年前から誰も口に出さないだけで、みんなそう思っている。佐藤くんも・・・Sもそう思うでしょう?」
佐藤は黙りこむ。そろそろ事務所の近くにお蕎麦屋さんがある交差点が見えてきた。
「・・・なぁ、聞いてもいいか?」
「答えないかもしれないけど、どうぞ」
「どうして3年前、1人で上層部を襲撃したんだよ」
わたしは5秒ほど沈黙したのち、「内緒」と答えてそのまま助手席の窓によりかかった。
Sはそれに反応しない。その代わりに
まもなく目的地です。というナビの音声が車内に響いた。
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