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めぐりあう高知(高知旅行記) 2023.11.04〜11.06

11月4日(土)


高知に行かなくてはと思った。夏の八戸旅行の際に八戸市美術館で見た企画展「美しいHUG!」の中に、ドラァグクイーンの姿でリヤカーを引いて野点をする「きむらとしろうじんじん」さんという方がいて、その方の野点が高知であると知ったときから気持ちは固まっていた。宿はそれから経ったある酔っ払った日に勢いで予約していた。

11月4日の土曜日、仕事を午前で終えて阪急三番街の乗り場から17時に発車する高速バスに乗る。バスは淀川を渡って、神戸を通り、明石海峡大橋を渡ってそれから淡路島を縦断していく。日は暮れていつの間にか夜になっていた。

淀川
はりまや橋の交差点

高知に着いたのが予定より早く21時半。はりまや橋の交差点に立つと、高知に来たなという気持ちになる。今回の旅は、いつも高知で会う友人のMさんと都合が合わなかったので、一人だ。少し心細い。

宿にチェックインをして、22時から街に出る。この時間からも飲める自信があった。まずは、このところ高知を訪ねたら毎回寄っている居酒屋「とさ」へ。

地下の階段を降りて、扉を開けると女将さんが出迎えてくれる。ちょうど阪神が負けたところだった。テレビではハイライトを流している。
瓶ビールとカツオの刺身を頂く。カツオを待っている間、カウンターで隣になったご夫婦と話をする。京都から来られたという夫婦も飲み歩きが好きで、ついつい京都の酒場の話で盛り上がる(高木与左衛門商店がホームらしい)。待っている間、大将がみかんをくれた。甘くて美味しいみかん。

そして待ちに待ったカツオ。これでもかと分厚く切られていて抜群に美味い。これを食べに来たんだよな、と思う。そして隣の夫婦が食べていた切り干し大根も注文。これがただの切り干し大根じゃなくて、底に鰹の煮物が隠れていてこれがしみじみ美味い。思わず目を見開く。瓶ビールを3本飲んだところで店を出る。素晴らしい酒場だと改めて確信する。

それから南に歩みを進めて住宅街を歩く。この先に今回の目当ての屋台があるはずなのだが、あまりにも暗くて自信がない……がそれでもやがて赤提灯が見えてくる。「スナック屋台おふくろ」だ。

屋台の中に入ると、先客のお姉さんが2人で飲んでいて、そして店を切り盛りする女将さんは……寝ていた。そりゃそうだよな、日付変わってるんだから。お姉さんが女将さんを起こす。唐揚げやおでんも美味しいらしいが、「とさ」でビールを飲みすぎたせいで腹が膨れている。ここはラーメンを注文。そして懲りずにビールを飲む。
先ほどまで寝ていた人とは思えないほどラーメンを調理する手さばきがすごい。丼にカエシを入れてそこに塩?を振る。スープは鶏ガラベースだろうか、鍋の中で骨つきの肉がグラグラと茹でてある。そのスープとカエシを混ぜる。麺は製麺所の生麺でそれを軽やかに湯切りする。麺をスープにくぐらせてトッピングを乗せて完成。

これだけ手間をかけているので、予想を超えてくる美味しさ。夢中で食べる。すごい味わいだった。これはまた行かなくては……。

来た道を引き返して再び市街地へ。時刻は1時過ぎ。ラーメンを食べて勢いが着いたのでもう一軒行こうという気持ちになる。安兵衛で餃子でも食べようか。それとも大丸前のうどん屋台か、なんならラーメンをもう一杯げいよーけんで食べようか……と悩んでいると、帯屋町の商店街のところにたこ焼きの屋台が。これだ!と思い購入。

宿に帰ってハイボールを飲みながら食べる。〆のたこ焼きが最高に好きなんだよなー!さすがに食後は疲れて眠る。

11月5日(日)

朝7時に目が覚める。幸いにも二日酔いにはなっていない。シャワーを浴びて日曜市へ。残念ながら大好きなタコス屋台MASAKASA TACOSはお休みだった。しかし山椒コロッケなるものを見つけて買ってみる。山椒感がすごいゴロゴロ系のコロッケに大満足。

9時過ぎに高知県立美術館を目指す。路面電車に乗って向かう。今日はこの旅の一番の目的である、きむらとしろうじんじんさんの野点である。しかも高知県立美術館は周年記念でこの三連休入館料が無料なのである。すごい。職員の方に聞くと、じんじんさんのイベントは11時頃に開始ということでコレクション展を見る。横尾忠則、岡上淑子、合田佐和子、森村泰昌、バスキアとタダで見てええんか……という豪華さ。しかも展示の最後にはこれまでの図録やポスターの在庫を無料配布という大盤振る舞い。すごすぎる。濱口竜介のポスターと、図録を2冊頂く。

それから外のベンチに出て、じんじんさんのイベントが始まるのを待つ。偶然隣に座った二人組の女性の会話が、どう考えても同じ職業の人なので思い切って話しかけてみる。KさんとOさんは職場の先輩後輩で、Kさんは大ベテラン、Oさんは僕よりも少し若い方だった。お二人もじんじんさんのイベントに来られていて何かの縁ということでご一緒することに。
美術館のカフェでしばらく待ったあとで、11時頃に会場に向かう。しばらく待っていると、じんじんさんが登場。挨拶ののち、「ここにいる人たちのお茶碗はちゃんとあるから安心して」という言葉に安堵する。

美術館に何時からいるかでグループ分けをする。僕よりも早く来られていたKさんとOさんが一緒のグループに入れて下さった。めちゃくちゃありがたい。じんじんさんは「じっくり製作すること」と「急かさないこと、焦らないこと」を優しく何度も語っていた。

まずはじんじんさんが作られた器を選ぶところから始まる。KさんとOさんと相談しながら僕は茶碗形のものを選ぶ。

絵付は見本をみながらじっくりと色を選ぶ。膨大な数の色が用意されていて、それも塗り方や水分量、厚さで風合いも変化する。色を混ぜると何が出てくるかは誰にも予想ができない。望み通りにはならないがきっと素敵なものが出てくる、というのは未来の捉え方としてとても良い考えだなと思う。それぞれが茶碗に向き合い、豪快に塗る人や模様を描く人、色をふんだんに使う人に、あえて余白を残す人。人の数だけ茶碗がある。
Kさん、Oさん、スタッフの方と相談しながら色を塗る。最終的にすごい配色になった。外側の絵の具が3色混ぜたものだが粘度が強く、焼いたら垂れてしまうかもしれないが、凸凹の紋様をつける。みんなからは「どうなるんだろう」「なんかスイーツみたいで美味しそう」と言われる。

釜で焼き上げる
燻した茶碗を水に浸ける
煤を磨き取る作業はスタッフさんが

じんじんさんのイベントは、楽焼の手法が取られていて、絵付をしたものを高温の釜で20分ほど焼き、その後取り出した茶碗を火を焚いた容器の中で20分間燻す。燻した茶碗を水に浸し、ヤスリで煤を磨き落とす。合計で60分ほどで茶碗は完成する。
じんじんさんはその工程をこなしながら、お茶を立て、スタッフの安全を気にかけて、質問には優しくそしてユーモラスに答えて、我々参加者とも雑談をしたり写真撮影をしてくださったり……目の回るような工程を一切ピリピリすることなく楽しい雰囲気で取り組んでいる。
じんじんさんに触発されて、参加者もお互いを褒めたりアドバイスを送ったり、とても良い空気が醸成されていく。そうか、この空気を作るのも野点という場の力なんだ。そして何より、じんじんさんの人柄に惹かれてみんな集まってるんだと思った(中には20年追っかけている方も参加していた)。

焼き上がりを待つ間、Kさんの提案でお昼ごはんを食べることに。リクエストされたので咄嗟に、くいしんぼ如月の弁当が食べたいです、というとオッケーといって車を出してくださった。何から何まで本当にありがたい……。

くいしんぼ如月のチキンナンバン、やっぱり美味い……そしてボリューミー。食後しばらくするとどうやら僕たちの茶碗が焼き上がったようだ。

Oさんの茶碗
Kさんの茶碗
僕の茶碗
茶碗の内側

出来上がった茶碗を見てみんなで「すごーい」「こんな風になるんだ」と喜びあう。お互いの茶碗を見て、触って、写真を撮る。僕の茶碗は予想外の色になったが、内側の朱色が強く出るのは珍しいらしく、どこか炎のようなうねりのある紋様はとても気に入った。そして作った茶碗にじんじんさんがお抹茶を立ててくださる。

ここでKさんが「じんじんさんって何でこの格好で野点をしようと思ったんですか?」と質問をされていた。
じんじんさんは「話せば長くなるわよ」と笑い、半生を教えてくださった。
大学院まで陶芸の勉強をしたじんじんさんは、卒業後コミュニティ作りに関わるセンターの運営に携わる。そのとき、ドラァグクイーンの方々(シモーヌ深雪さんら)とも仲良くしていて、京都メトロのイベントによく遊びに行っていた。京都メトロのドラァグクイーンのイベント「ダイヤモンド」は背景に、エイズや同性愛へ向けられた差別への問題意識がある。そうしたじんじんさんを取り巻く様々なことをすべて結びつけたのが「野点」だったのだ。
「はたから見たら何でこれ(ドラァグクイーン姿)でこれ(陶芸)なのって思うけど、自分の中ではごく自然な流れで結びついているの。だからこそ20年も続いてるのかもね」と語った。
すごい方だと改めて思った。今度は豊中で開催されるらしい。またじんじんさんに会いたいな、と思いながら「ありがとうございました」といい野点をあとにする。茶碗は丁寧にくるんで渡してくださった。

帰りはKさんがご厚意でホテルまで送りますよと車に乗せてくださった。同業者のKさんの仕事の話、さっぱりとした器の大きな姿、こんな人になりたいなと憧れてしまう、そんな人だった。「これも何かの縁でしょ。一日楽しかったよ、またどこかで」と言って互いに「お元気で」と言って別れた。連絡先は交換しなかった。でも人生のどこかでまた出会うような気がする、そんな方だった。

ホテルで少し休憩してから街に出る。目当てにしていた居酒屋には振られてしまったが、ふと目についた「純酒場ナブラ」という店が気になったので入ってみる。

キンミヤ焼酎と強炭酸、そして新鮮な高知のフルーツを使ったチューハイが売りで、まずは直七ハイで乾杯。美味い!キンミヤ好きにはたまらない。
今日は魚がないらしいが、この時期しか食べられない四方竹の天ぷらと、珍しいナスのタタキを注文する。

仏手柑ハイに切り替えて

四方竹の天ぷらは、普段食べる筍よりも柔らかいが風味は知っている筍よりも一段階深いところから湧き上がってくる味でたまらなく美味い。
そして感動したのがナスのタタキ。これは揚げナスではないかと一瞬疑ったが、食べてみると間違いなくタタキなのだ。ナスと、薬味と、タタキタレとが絡み合って最高に美味い。酒が進む味だ。
椎茸のタタキもあったが敢えて頼まずに次の宿題に残した。タタキの世界、まだまだ奥が深い。

純酒場ナブラを出て、振られた居酒屋に再アタックすると丁度カウンターが空いていた!やった!白央篤司さんおすすめの「凪」さんへ。

凪の前に黒猫が
カツオ、イカ、ブリ、大トロ

店内では日本シリーズの最終戦を流してくれていてありがたい。刺身の盛り合わせと、日本酒をお願いする。日本酒は「土佐しらぎく斬辛雄町」から始めたのだが、これがめちゃくちゃ美味い。もっと飲みたかったが、僕が頼んだので最後。これは明日探して買って帰らねばと決意する。
刺身はブリと大トロの脂の乗りがすごい超絶品。すいすいと日本酒が進む。そして時は来た。

阪神タイガース、日本一。虎党の大将と喜びを分かち合う。横田のユニフォームが宙を舞った瞬間抑えきれずに人目もはばからずに号泣した。
それからは隣に座っていた野球好きの常連の方と野球談義に花を咲かせる。日本酒も結構飲んでそこそこ酔ったのでホテルに帰る。いやあ良い夜だった。「凪」さんもすごく居心地の良い店でこれはまた高知に来た際はお世話になりたいお店。

一旦ホテルで酔い覚ましのつもりがコトッと眠ってしまいそのまま朝まで眠る。少し惜しいことをした。

11月6日(月)

朝6時に目が覚める。酔ってそのまま寝てしまったらしい。行けなかった酒場が頭に浮かぶが仕方ない。チェックアウトの時間までゆっくり過ごして外に出る。この日の高知は悪天候。高速バスのターミナルのコインロッカーに荷物を預けて身軽になってから行動開始。

まずはお土産を買いに地元のスーパーへ。そこでマックポップコーン、塩けんぴ、はこべソース、柚子ポン酢とを買う。そのまま歩いて、酒屋を目指す。昨日飲んだ「土佐しらぎく斬辛雄町」が忘れられない。「安岡酒店Blues」という酒屋を訪ねる。

店名にBluesとあるのは、音響設備が整った店内でレコードを流しながら日本酒を売るからのようだ。角打ちはできないが、定期的に店でライブもやっているらしい。めちゃくちゃ面白い酒屋だ。
ご年配の店主も気さくに話しかけてくださって、目当ての「土佐しらぎく斬辛雄町」をゲット、ラスト一本だった。ラッキー!そしてオススメの安芸虎も購入。阪神の日本一祝いに良い酒だ。

店主が「天気も悪いんで送りましょうか?」と言って下さったのでお言葉に甘えさせてもらう。なんて優しいんだ……。はりまや橋まで送って頂く。今度から酒を買うなら絶対安岡酒店Bluesに決まりだ。

昼食は何も考えずにひろめ市場に行き、明神丸の塩タタキ定食。調子に乗ってご飯大盛りにする。
それから散歩。金高堂で本を見て(昨日、甫木元空のサイン本を買ったのだ)、郷土コーナーが面白くてついつい読み耽る。雑誌コーナーにMeetsやSAVVY、Leafがあるのを見たのが少し意外だった。それからまた散歩。

カツオ3種盛り。300円。

途中、お腹いっぱいだったが、ローカル回転寿司の天天丸で少し寿司をつまむ。スシローやくら寿司と値段がかわらないのにネタが倍くらい大きくてびっくりする。
そしてまたあてもなく歩く。

大きな苔むした木
絵が良い
鏡川は少しどんよりしていた
ここ良さそうだったなー!
そういえばこの通りで飲むのを忘れていた…

最後はひろめ市場に戻って、わずかに残った予算で日本酒の小瓶と酒盗を買ってチビチビと飲む。高知旅行ももう終わりか……と思うと寂しくなる。しかし時間は容赦なく訪れる。日本酒を飲み切ったところでバスターミナルへ。16時のバスに乗る。

そして帰りのバスでこの旅行記を書いている。
いつも一緒にいる友人には会えなかったが、不思議と多くの人との出会いのある、そして優しさに思わず触れる旅になった。出会った一人一人の方の顔を思い出しながらこの文章を書いている。またどこかで会えるだろうか。少なくとも僕はまた高知に行く。またこの街でめぐりあえたら、と思う。

南国土佐を後にして

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