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ただいま、GUCCI。

あの日のGUCCIに、ようやく行けた。

私を泣かせた店員さんにアポを取ること、2度目(1度目はインフルでリスケ)。道すがら遠目にGUCCIの文字が見えた瞬間、反射的に思った。

ただいま!

まるで家に帰ってきたかのような安心感。言うてGUCCIでまだ買い物したことないやん、と1人ツッコむ。でもなんだろう、この圧倒的ホーム感。

***

ヨルダーンを買うと決めたのは、かなり早かった。あれから隙間時間を見つけては、TOD'SやBALLYなどローファーの名店をささっと巡ってみたのだが、いずれも履き口に幅広甲高足が入らない。実質的にヨルダーン一択だった。

ただ、色で一瞬心が揺れた。銀座に出かけた折、銀座三越のGUCCIに茶のヨルダーンが飾られているのが目に入り、ふらふらと吸い寄せられるように入店した。なんとなく自分には黒より茶が似合うような気がするのは、パーソナルカラー診断の後遺症だ。

でも履いてみたら、一瞬でわかった。黒がいい。色だけでこんなに印象が違うものかと驚いた。黒の方が全身がぐっと引き締まる。私がGUCCIというブランドに感じた気品や凛々しさを体現しているのも、圧倒的に黒。これで心が決まった。改めてあのお店に行って、黒のヨルダーンを買おう。

買う気もないのに長居するのも申し訳なかったけれど、私にはまだ「バッグ問題」が残っている。あの日出会ってしまったホースビット1955 ミニバッグを、私は本当に買うのか?

心震える出会いの後、ずっと自問自答を続けていた。

人生で一度も持ったことのないミニバッグ。容量は少ないし、決して出し入れしやすくもなさそう。何ならちょっと重い。私はこのバッグを本当に使いこなせるのか?これ以上に心惹かれるバッグは本当に他にないのか?

実はあれから、他のブランドにもちまちま足を運んでは、黒のバッグを検証していた。シャネルのマトラッセやフェラガモのピーカブーは、噂に違わずとても素敵だった。特にピーカブーは、同じミニでもホースビットより格段に収納力が高く、出し入れもしやすそうに思えた。

それなのに、びっくりするくらい、何もときめかなかった。

じゃあ、GUCCIの他のバッグはどうだろう?銀座三越で接客してくださったのが3歳の男の子のお母さんだとわかり、現役ママさんの意見を聞いてみたくなった。ヨルダーンに合わせるバッグ、おすすめしていただけませんか?

果たして持ってきてくださったのは、この2つ。

〔GGマーモント〕スモール ショルダーバッグ

画像は公式オンラインからお借りしました

〔オフィディア〕GG スモール トートバッグ

画像は公式オンラインからお借りしました

わ、わかるーーー!!

斜めがけできる。軽い。長財布も余裕で入る。口が大きく開いて出し入れが楽だし、ファスナーは開いたままでもOK。ロゴが目立たず割とカジュアルに持てて、それでいてコーデのアクセントになる。さすが現役ママ、ポイント全部抑えてる!!

だけどやっぱり、びっくりするくらい、何もときめかなかった。

そこでようやく気がついた。私、どうやらもう、アイツに惚れてる。

今この瞬間も、店内にアイツがいないか探してる。アントワネットばりに、長財布が入らないなら財布を小さくすればいいじゃないって思ってる。何ならミニ財布見せてくださいって言いそうになってる。

はあ。これは観念しろってことだよねぇ…。

***

そうして迎えたホームGUCCI訪問 in 横浜、ただいまである。1か月ぶりにお会いする神店員さんは、花粉症なのかメガネ姿だった。いつの間にか季節が進んでいる。

まずは予定通り、ヨルダーンとご対面。

前回はタイツだったので、念のため今回は靴下で試着。すると、大きい方の左足の横幅が締め付けられて、足指が少し重なってしまう。サイズを上げると締め付け感はなくなるのだが、今度は踵がゆるくて浮いてしまう。どうしたものかと思っていると、店員さんの神アドバイスが炸裂した。

「大きいサイズの靴って、履いてもこれ以上伸びないだろうとみなさん思われるんですけれど、違うんです。大きい靴の中で足が動いてしまうから、動いて靴に当たった分だけさらに伸びてしまうんです。だから私は、サイズを上げることは横幅がキツいことへの解決策としてはおすすめしません。試しに、ストッキングで履かれてみてください」

おお、ぴったり。左足指も余裕あり。どこも当たらずきつくない。

「○○様(私の本名)にはこのサイズがちょうどです。最初はストッキングで履き始めて、徐々に靴下に移行されるといいと思いますよ。思ったよりもずっと早く、馴染みますから」とニッコリ。

なんだ、この納得感は…。難なく購入決定だ。ここまではいい。


店の奥から、満を持してホースビットが姿を現す。

画像は公式オンラインからお借りしました

ああ、やっぱりコイツだ。俺にはお前しかいない。

それでも今日は、とことん納得したい。肩からかけさせていただくと、やっぱりちょっと、重い。「重いですね」と口から出てしまった。

「重いと感じるバッグには、芯材がしっかり入っています。軽いバッグはもちろん使いやすいですし人気もありますが、芯材がそこまで入っていないんです。それだと、受け継ぐことはできません」

なるほど、そういう視点か。

「たまに親御様から譲られたバッグを持ち込まれるお客様がいらっしゃいますが、芯材がしっかりしているものは、たとえ中がボロボロでも形は崩れていないんです。受け継ぐことのできるバッグって、そこが違うんですね」

とはいえ、あんまり重いバッグは使いづらい、かなぁ。

「はい、そうですよね。ですから、受け継げる強度があってなおかつ使いやすいものとしては、こちらのミニバッグのサイズ感がベストです。これ以上大きくなると、それだけ重くなるということですから」

ぐうの音も出ない、というか。合気道なのか?


ミニサイズを使ったことがないので、失礼ながら自分の荷物を入れるシミュレーションをさせてもらえないかと頼んでみると、快諾していただけた。

まずは、スマホ。愛用しているスマホショルダーからストラップを外す。少し斜めにすると、するりとホースビットに収まった。

次に、財布。入るわけないんですけどねぇ、と言いながら長財布を取り出すと、店員さんが言った。

「あれ、パンパンじゃないですね?長財布をお使いの方って入れるものが多くていらっしゃるから、大体ぱつんぱつんなんですが…ということは○○様の場合、お財布の容量に対してかなり余裕がおありってことですよ」

はい。今ほとんど現金使わないので、長財布は正直持て余してるんです。カードもかなり整理できたので、たまに使う現金少々とカード数枚が収まるミニ財布に変えるつもりです。…あら、自分で言っちゃった。

次、ポーチ。これも、さすがに入らないですよね~。

「そうですね、このままでは無理ですねぇ。あれ、お持ちのポーチも容量に対して余裕がありそうですね?」

毎回使うのは目薬とリップ、あとは子ども用にティッシュくらいで、確かにあとは持っててもあんまり使わないんですよねぇ。でも、目薬とかをバッグに直でバラバラ入れるのってやっぱりナシですよね?

「そうですね、できればひとまとめにしてお入れになった方が使いやすいかと思います。例えばポーチじゃないんですが、こういったものでもいいかもしれません」

店員さんが出してくださったのは、小さなキーケース。ただ、それだとティッシュが入らない一方、マチがどうしてもかさばる。うーん…と考えて、閃いた。ティッシュケースの裏側にポケットがついてるやつ!あれなら幅も取らないし、エコバッグを入れる余裕までできるんじゃ?!

こういうの

結果、スマホにミニ財布、ティッシュケースにエコバッグと必要最低限のものが難なく収まることがわかった。あら、まあ。これは、いけちゃうなぁ。

買わない理由、なくなっちゃいましたねぇ。そう言ってホースビットからスマホを取り出すと、待ち受け画面の娘の笑顔がころん、とこちらを向いた。

「お嬢様ですか?可愛いですね~」

その瞬間、脳裏にインフルの悪夢が蘇った。自分のコンディションが悪いとすぐ娘に対して余裕がなくなる私。とことん自由人な娘には心身ともに付き合いきれないことも多いし、イライラしない日は正直に言って、ない。

「私、あんまりいい母親じゃないんですよ」

思わずぽつりと、呟いてしまった。「すぐ怒ってしまうし、不機嫌になるし。私が不機嫌な時は、娘も近寄ってこないんです」自嘲気味に続ける。


「お話しさせていただいて、これだけお嬢様のことが話題に上る時点で、○○様がお嬢様のことを大事に思っていらっしゃるのはすぐにわかります。そうじゃなきゃ、そもそも話にすら出ませんもの」


顔を上げると、店員さんの優しい目が真っ直ぐこちらに向けられていた。


「確かに子どもって、大人のネガティブな感情にすごく敏感ですよね。だけど、ネガティブが分かるってことは、ポジティブな感情も同じくらい分かるってことです。○○様の愛情は、お嬢様にちゃんと伝わっていると思いますよ。それはもう、痛いくらいに」


カウンセラーなのかな?と思った。

幼い私には、母は不在だった。だから、幼い子にとって母親がどういう存在なのか、子どもにどうやって接するのがいいのか、正直よくわからない。今私にできるのは、等身大の自分のままで娘に向き合うことだけ。私の方が子供っぽい態度を取ってばっかりだし、娘には後から謝ってばっかりだ。

それでもいい。そう言ってもらった気がした。

付き合わされる娘からしたらいい迷惑だろうけど、私は、娘と一緒に母として育つしかないみたいだ。それでも、できる限り一緒にいる中で大切に思う気持ちが本人に伝わっているのだとしたら、きっと大丈夫なのだろう。どのみち、私にはそうすることしかできないのだし。


…あ、そうだ。いいこと思いついた。


「今月は私の誕生日なので、今日は、ローファーをください。4月になったら娘の誕生日なので、そのタイミングでバッグをいただきたいです」

我ながら、ナイスアイディア!お財布の負荷分散にもなる!

店員さんが、破顔した。

「素敵ですね。それがいいと思います。お嬢様のお誕生日から使い始めたバッグって、すごく思い入れが伝わると思います」

メガネの奥の目が、心なしかうるんでいるようにも見えた。私はGUCCIという店が、この店員さんが、大好きだ。

***

そんなわけで、連れて帰った相棒がこちら。

私はこのローファーと、43歳を始めることにしよう。GUCCIと刻む誕生日、なかなかいいな。


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