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伊豆旅行記その1 天城越え編

 故あって、伊豆は下田に滞在している。
 遊びに来たわけではないので、海水浴などしている場合ではないのだが、それでも久々の関東圏脱出である。

 仲間と共に七泊八日の長逗留だ。この原稿を書いているのは、二日目の夜、安いビジネスホテルの一角だが、既に伊豆入りしてからというもの、だいぶ大量の海鮮を喰らっている。

 下田の名物は金目鯛であるらしい。姿煮が2000~3000円程度なので、値段に躊躇してまだ食べられていないのだが、割り勘などして滞在中に一度は食べるつもりだ。楽しみである。


 今回我々は、ワゴン車に機材だの何だのを積み込み、関東某所から半日をかけて下田まで移動した。
 陸路で伊豆半島を南下する際、どうしても通らねばならない場所がある。かの有名な、天城峠である。

 伊豆半島の中ほどには、天城山が壁の如く聳え立っており、丁度半島を二分するような様子になっている。「天城山」の名前のみ聞くと、独立峰のようだが、実際には東西にのびる連邦なのである。
 この天城山を越えるのが、「天城越え」だ。(下地図星印が天城峠)

出典:国土地理院 色別標高図

 三島から下田を結ぶ下田街道(天城街道)は、伊豆半島の南北を結ぶ重要な交通路であるが、この最大の難所が天城越えである。1905(明治38)年に天城山隧道(旧天城トンネル)が開通し、峠越えはかなり楽になったのだが、難所であることには変わりない。
 石川さゆりさんの名曲、「天城越え」の歌詞には、天城隧道の名前が出てくるので、歌われているのは明治に開通したこのルートであろうか。

 現在は自動車の往来をより簡便にするため、国道414号線と新天城トンネルが整備されている。新天城トンネルの竣工は1970(昭和45)年である。
 旧天城トンネルは、重要文化財に指定されており、トンネルに至る旧道はハイキングコースとして整備されている。「天城越え」の歌詞に見える浄蓮の滝など、一連の観光名所を巡ることができるらしい。


 らしい、と言うのは、実際には行っていないのである。先述の通り、遊びに来たわけではない我々には、早急に下田に到着し、片付けねばならない仕事があった。文字通り、我々は下田街道を通り、難所越えをしたのである。

 二本杉峠から天城山隧道、新天城トンネルと、新たな道が整備される度に、天城越えは楽になっている。旧道(天城山隧道のルート)と、現在の国道414号線を比較すれば一目瞭然だ。

出典:国土地理院発行2.5万分1地形図

 地図の東(右)側が旧道、西(左)側が国道414号線である。明らかにカーブが緩やかになっているのがわかるだろう。

 とはいっても音に聞こえた難所中の難所である。山道特有の凹凸も多く、機材と人間で満杯のワゴン車で通るには、最悪の道だ。しかし、泣き言を言っている暇はない。
 ガタゴトと揺れる車中、ワゴン車の天井に頭を打ち付けそうになりながら、必死に前の座席にしがみつく。

 私は最後列の座席に座っていたのだが、当然ながら内輪差により、車のお尻に近づくほど激しく振り回されることになる。右へ左へと揺られながら、己の強靭な三半規管に感謝する。
 左右に動く峠越えでは、上半身の揺れと、座席の動きが一致しないため、腰から骨盤にかけて、かなり酷い負担がかかる。自分の骨盤が動いて、臀部の肉がごりごりと削られるような感覚だ。

 この左右運動によって、最後部座席に座っていた私と後輩は、「天城越え腰痛」を抱えることとなった。旅程二日目の現在、私の腰には二枚の湿布が貼られている。重い荷物を運ぶ度、腰に鈍痛が走るのである。長時間の立ちっぱなしも苦痛だ。
 明日にはこの腰痛が消えることを願うのみである。


 さて。今にも猪など飛び出てきそうな山道を、「浄蓮の滝」「道の駅 天城越え」などの看板も素通りして驀進する我々の前に、見えたのは交通情報を知らせる立て看板だ。
 ……「新天城トンネル 通行止め」のランプが点灯している。


 車中はにわかにざわめきたった。
 天城峠は現在でも、大雨などで頻繁に通行止めになる。実に難所らしい難所なのである。迂回路などない。
 新天城トンネルを抜けることができなければ、下田に到着するのは大幅に遅れることになるだろう。それ即ち、全任務完遂ミッションコンプリートが危ぶまれることを意味する。

 ある者がスマートフォンで交通情報を確認するが、電波圏外である。焦りが目立つ中、運転手はこのまま直進を選択した。
 国道414号は、山道のわりに車通りが多いのだが、その時は渋滞らしい渋滞はしていなかった。また、対向車にも何台かすれ違った。
 これらを理由に、天城トンネルは「通れる」状態であろう、との判断である。

 結論から言えば、運転手の読みは正しかった。新天城トンネルは、交通規制はされていたものの、片側のみを交互に通行できる状態だったのだ。

 無事に天城越えをした一行は、有名な河津七滝ループ橋に進んだ。

wikipediaより引用
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Kawazu_roopbridge01.JPG#/media/ファイル:Kawazu_roopbridge01.JPG

 二回転するループ橋により、高低差45メートルを上り下りすることができる河津七滝ループ橋は、天城峠と並ぶ国道414号線の名所である。
 「うーむ、転落したら即死だなぁ」などとぼやきながら、天城山を望む絶景を堪能した一行は、下田への旅路を続けたのであった。

伊豆旅行記その2に続く)

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