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字が流麗なレディ (アルピナXD4の美しき淀ない走り)

“すごいわ。道路が流れていくみたい” 

俺は今、アルピナグリーンのXD4で、ヨーロッパ田舎町風情の中を走っている。上質なラヴァリナレザーのハンドルを握る袖下からは、グリーン文字盤のピアジェが顔をのぞかせて。 
そして、、、、例のごとく レディが助手席を埋める。

出会いは、持ち寄りワインの会だ。
受付の記名簿に、ひときわ美しい書体が一人あったな、と何となく思いながら、会場に入った。
自己紹介が始まると、当番でワインを持ち寄った人は、その説明もする。

俺は今回、アルピナ・ワイン・コレクションよりボルドー、シャトー・ジョンケール(2000年)を提供した。
アルピナというブランドのワインがあるわけでは無く、BMWをベースにしたハンドメイドのエンスー好みの自動車メーカーが、もう一つの事業柱としてワイン販売も行っているのだとも添えた。

紹介が進み、ピンとくる名前が聞こえた。
このレディか、あの美しい文字の人は。なるほど書は体を表すな。品があり、キレイだ。紅白の総合司会をここ数年している、あの看板アナウンサーに顔だちもスタイルもすごく似ているな。

会場では有名シェフが踊るオマール海老を捌くところから調理も披露され、参加者同士の会話も盛り上がっていた。
不意に、彼女と二人だけになった。 どうやら習字も教えているらしい。

この天からの引き合わせにしっかりと答えるかのように、
ヨーロッパの田舎町のカフェレストランに行こう、、茨城だけど。
おどけてドライブに誘った。

ドライブするクルマの名は、BMWアルピナXD4。

BMWではなく、Alpinaというこの独立工房ブランドは、乗ったものにしか分からない、筆舌に尽くしがたい、感動を与えてくれる。
だから、根強いファンがいる。俺もその一人だ。

またもや内外装をフルオーダーにしてしまった。このXD4も。

内装はやはり、アルピナならではの、ラヴァリナレザーだろ。
これは、虫食いなどが無いよう専門に管理飼育された生後二年経過の牝牛を使った、最上級のレザーだ。 実にしっとりとしている。 
外装色は、ブルーと双璧を成すシンボルカラーのアルピナグリーンにした。
深いのに実に透明感のあるグリーンが、ただならぬ高級感を醸し出す。

それらオプションだけで乗用車一台買えるくらいだし、全く贅沢なビスポークしたな、俺は。

BMWの量産ラインから出てきた車両を分解して、エンジン内部までアルピナ仕様に職人が手作業で調整加工、組み直して、変態するのがアルピナというメーカーだ。 
4つもターボを搭載した4WDスポーツディーゼルだが、決して尖ったSUVでは無いのだ。やはり、不思議なエレガントなアルピナマジックの世界へパッセンジャーをいざなう。

どの回転域からも瞬時に力強いトルクとスポーツカーの加速を生むのだが、不思議にも粗暴な感じはない。アクセルの微妙な踏み具合にもリニアにレスポンスするのだ。
他メーカーが標ぼうする、よどみない加速感とやらが誇大広告に思えてしまう。これが本物のシルキーエンジンだろう。

俺は標準の20インチホイールを選んだ。試乗したオプションの22インチだと、ほんの少し突き上げ感があったのと、特にレーンチェンジの際にむしろ扁平率の高さにハンドリングを重たく感じたのだ。
座席位置の高いSUVながら、ロールはしないし、200キロを超えようが、地を這うようなロードホールド感をキープする。ブレーキ性能も秀逸だ。

結局、総合して得られる感覚的な高次元のバランスに、アルピナは高いのに安いとも思えてくるよな。 

そのXD4に俺のウオッチコレクションから選んだのが、ピアジェのポロ、G0A45005だ。

丸みを帯びた四角のような独特な形状のケースが、クーペスタイルSUVに似つかわしい。
そして、グリーン文字盤にゴールドで縁取りされた針とインデックスの組み合わせが、ネオヴィンテージ感となり、主張し過ぎないエレガントさがアルピナの様だ。 

何が入っているのか大き目のトートバッグを持ってきた彼女を乗せて、都内から東北道を下り、順調な流れで二つの県をまたいで来た。

到着した目的地は、そこの一画だけ、まるでアルピナ本社があるドイツの田舎町のような田園風景に整備されている。

思った通りだ。実にアルピナが絵になる。

欧州の農家を見立てた建物の、カフェレストランに入ると、高い天井と太い木柱が張り巡る、ゆったりとした空間だった。

本当だ。ヨーロッパの田舎レストランに来たみたい。素敵。

誘い文句が利いたな。

すっかりリラックスして会話を楽しみ、ゆっくりとランチ時間を過ごした。
彼女は少しばかりワインも飲んでいた。

俺はこの後のランデブーを見越して、日が落ちるのが早い時期だからと帰路についた。

東北道の上りを、アルピナXD4のよどみない美しい走りを堪能するように、グイグイと巡行速度を高めていった。
日が傾き始め、周りの景色の流れと道路の境目がトワイライトゾーンに入り込んできた。

“すごいわ。道路が流れていくみたい” 

これがアルピナマジックの走りだ。

その流れるロードはホテルに向けられていた。腕でピアジェの時分針のゴールドがウインクするように一瞬キラリと光って夜の時間を指していた。


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