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そうだ、博士留学行こう!(前編)

今春より私はオーストリアで博士課程に所属する大学研究員という立場で働きながら、博士課程に留学をしています。この記事を読んでいる人は少なからずこれから博士課程進学に興味があったり、留学に興味があったり、という人だと思います。私も博士課程留学と言う道を選択するにあたって、随分とインターネットをさまよい、様々な体験記を読みました。ですが、留学も博士課程進学も背景や方法が人それぞれな上、いわゆる「優秀な人」の成功例で、参考にしにくいものなども多くあったので、博士課程留学をするためにはどのように戦略的に動けばよいか、ということを重点的に解説したいと思います。

まず、前半では「なぜ留学なのか」、「なぜ博士課程なのか」、という部分について、考え直す意味で解説したいと思います。そして後半では、実際にでは「どうすれば博士課程留学に行くことができるのか」、ということを解説したいと思います。

なぜ博士課程留学なのか。

ここからの内容の前提条件として、私のざっくりしたプロフィールを紹介しておこうと思います。

年齢: 28歳
最終学歴: 地方国立理系大学院機械工学系 修士卒
留学歴: イギリス1年間 (小学生の頃、親の都合で1年間滞在しました。)
TOIEC最高点: 960点 IELTs最高点: Overall 7.5点
大学学部生時の成績: GPA 2.48/4.00
大学院生時の成績: そこそこ良い程度(中の上くらい?)
大学・大学院での対外的研究成果: 国際会議発表 1回
大学・大学院での部活: 学生フォーミュラ参戦プロジェクト 設計・製作
大学院修了後の進路: 外資系大手自動車部品メーカー日本国内拠点技術職
趣味: 撮り鉄(国内外問わず)、航空(撮影/搭乗)、モータースポーツ

こうして書いてみると、たしかに英語力という点では光る部分もあるのですが、正直、大学生としてはどちらかというとポンコツな方でした。留年こそしませんでしたが、学部時代の成績表を見ると一部は落単の嵐になっています。大学院時代も、正直研究に打ち込んでいたかというと、国際会議での発表が1回あるだけでした。これも当時の指導教員の方に論文のほとんどをやってもらったような状態で、お世辞にも優秀な学生というわけではありませんでした。むしろ、実際に自分で手を動かして部品設計をして製作できることが楽しく、学生フォーミュラにばかり打ち込んでいました。
(学生フォーミュラについて詳しくはこちらをご覧ください: )

では、そんなかつてのポンコツ学生が何故今更博士課程なのか、という話です。端的に言えば、ヨーロッパで働きたかったから、です。もっと正確に言えば、ヨーロッパの鉄道車両メーカーで働きたいという目標があるからです。趣味の部分にも書いたように、私の第一の趣味は撮り鉄で、特にヨーロッパ圏の鉄道が大好物です。日本の鉄道技術は世界一、という風にしばしば日本国内メディアではヨイショされていることが多いですが、正直必ずしもそうとは思いません。対外輸出という点でみれば、日本の鉄道産業はヨーロッパの大手鉄道車両メーカーに対して遅れをとっている部分はかなりあります。そういった意味で、ヨーロッパの鉄道業界の良いところを経験してみたい、いつかそれを日本に持ち帰ってみたい、というお題目が自分の中にありました。そのためには、ただ海外旅行として行くのではなく、実際に働いて自分の手で携わってみたいとなったわけです。

 ですが、ここで問題発生です。新卒として就職活動をしていたころに、いくつか欧州メーカーへ応募を出しました。しかし、結果としては、まず面接にすらたどり着くことができませんでした。それはなぜか。主に3つの理由が考えられました。

1. EU圏内の人材であればビザ等不要で簡単に採用できる
2. わざわざ日本から呼ぶほどの人材としての価値がなかった
3. 実務経験・能力が相手からみて不明

EUという市場内においては、国境・国籍に関係なく働くことができます。それ故、わざわざ就労ビザを取得する必要がある日本人やEU圏外の人材を採用するためには企業側もそれなりの理由付けが必要になります。かなりの実務経験があるか、よほど学業が優秀か、はたまた英語以外の何の言語で実務をすることができるか、というような点が重要視されます。
日本やアジア圏で就職活動をするのであれば英語と日本語ができれば有利になることが多いですが、欧州から見れば日本語はあくまで遠く離れた極東の一部で話されている言語に過ぎず、企業側が日本を戦略的に重要視していなければ、彼らにとって人材価値があまりありません。
また、欧州では日本と違い、比較的長期間の実務インターンが多く実施されています。半年や一年といったインターンがあり、優秀な学生であれば、こういったインターンへ参加して、企業側とコネクションを作っておき、実務経験の証明をしてもらって採用されていくわけです。

さて、話を戻しましょう。では、博士課程がどう関係するのか、ということです。日本では、だれかを敬称をつけて呼ぶ際、〇〇さん、や、〇〇先生、〇〇社長・部長・課長、といった呼び方をすることがほとんどだと思います。もちろん、欧州でもこれは日常的にMr.やMrs.といった形でみることができます。しかし、これらと同じように使用されるのがDr.、つまり「博士」です。例えば、ドイツ語圏の大学教授の方であれば、Mr.〇〇ではなく、University Professor Dr.〇〇を省略してUniv. Prof. Dr. 〇〇といった敬称で呼ばれます。欧米社会において博士号は、それを持っているだけで通常のMr./Mrs.以上の価値を持っています。特にドイツ語圏であれば、Dr.がつくかどうかだけで社会的信用が変わってくるほどです。そして、欧州大企業ともなると、幹部ポジションには博士号を持った方が就いていることが多くあります。博士号が彼らの能力の絶対的な証明だからです。つまり、先ほどの話と総合して考えれば、日本からわざわざ欧州へ来てほしいと思われるためには、自身の能力を博士号という形で証明すれば採用される可能性が少なくとも幾分か高くなるのです。

では、なぜ留学する選択をしたのか。日本でも博士号は取れるではないか、というのはもっともなご指摘です。ですが、ここで欧州の博士課程がどういった仕組みかということを考える必要があります。冒頭にも書きましたが、私は大学研究員として働いています。そうです、学生でありながら給与が支払われています。どうしてこのようなことが可能かと言うと、欧州の大学の研究室では、往々にして大学からの研究費だけでなく、企業との共同研究という形で研究費をもらっているからです。この研究費で、研究員を採用し、研究員を博士課程や修士課程の学生として学ばせ、後進の育成を行っている場合があるのです。(場合がある、というのは、中には学生自身で給付型奨学金を取って持参金と言う形で自分の研究したいテーマで博士課程に所属している学生もいるからです。ドイツであればドイツ政府の出資しているDAADが行っている奨学金制度が有名です。)こういった企業との共同研究では、学生時代から自身の歩みたい進路にある企業とコネクションを作れる可能性が高いのです。共同研究において成果をだして相手企業に気に入ってもらえればそのまま卒業後はその企業へ就職という道が用意されているわけです。

補足になりますが、欧州の大学では研究室や研究所の長であるところの教授が受け入れを認めてくれれば、いわゆる学科試験無しで博士課程へ進むことができる場合が多いと思います。(もちろん大学個別で学力条件が付されている場合もありますし、学部時代の専攻が違う分野であったり、修士号がなかったり等の場合の例外はあります。)

以上の理由を踏まえて、私は博士課程留学をする、という選択肢をとりました。自身の目標に対して、一番近道できる手段だからです。仮にもし現地就職できなかったとしても、欧州の大学で博士号を取ったとなれば、箔はつきますし、キャリアの選択肢も増えます。博士号を取る努力さえすれば、ひとまず完全なハズレにはならない、というのが私の今の見立てです。前半の総括として、私が今留学を希望している人に言えることは「あなたの目標は何で、何をどうしたいから留学するのか」ということを戦略を立てて考えてみてほしいということです。

余談ですが、私が本気で博士課程留学を検討し始めたのはこの2年ほどです。ですが、大学院時代に少しは行きたい気持ちがあったのも事実です。
もし、今就職するか留学するか悩んでいるのであれば、私から言えることは一つです。それは「可能性を広げる選択肢を取ってほしい」です。私は留学するか就職するか迷った結果、大手外資系へ進むという選択をしました。これには3点理由がありました。1つは多国籍企業で実務経験を積めることで転職で海外に行くという選択肢が増えるということ、2つめは、名の通った外資系に潜り込むことで、留学に際して推薦書を書いてもらうようなことがあれば会社のネームバリューで有利に進められる可能性があったからです。そして3点目は、もし留学に行けなくとも、会社のネームバリューで転職しやすくなる可能性があったからです。留学に限らず、人生戦略という点で今後どうしたいのかということを常に考えておいて損はないと思います。

それでは実際にどうやって博士課程に行ったのか、ということを後編で解説したいと思います。
後編はこちらから: https://note.com/poppoya_premium/n/n8712232926a6

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