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記憶の保管庫


スマートフォンをつかって目的地を検索する。アプリケーションが地図を表示していくつかの経路を僕に示してくれる。

最短時間のルート、最短距離のルート、遠まわりだが高低差の激しくないルート。

僕はそのどれかをタップして、地図上に表示された点線の上を行儀良く歩いていく。急いでいるときは腕を振って、一心不乱に歩きつづけるのだが、そうでもないときはいろいろ考える。例えば、僕はいったいどこへ連れて行かれるのだろう? そんなことを考える(こともある)。

もちろん、アプリケーションがバグを引き起こさなければ、僕が目的地を間違えて設定していなければ、スマートフォンは無事に僕を、僕の行きたいところへと連れて行ってくれる(物理的には)。

だけど目にみえない「なにか」——その「なにか」がじぶんの内側にあるものなのか、外側に存在しているものなのかも、わからないのだけど——「なにか」がどこかへ連れて行かれているような気がする。持ち去られているような気がして、刹那、背筋に鋭い寒気のようなものが走るのだけれど、そんなことはすぐに忘れてしまう。

忘れようとしてしまう。

アプリケーションも、スマートフォンも、便利なのだから四の五の言わないでつかいつづけたほうが良い。あたらしい技術にいちいちたてつくようなことをしていたら時代に置いてけぼりにされてしまうぞ、と脅しめいた声が聞こえてくる。

だから難しいことは考えずにとりあえず便利なものを便利なようにつかってみる。

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553字
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