「ぽっぺのひとりごと」(3) アナベル・リー
エドガー・アラン・ポオが亡くなった翌々日、1849年10月9日に発表された珠玉の詩『アナベル・リー』。それは究極の愛の物語。
私はこの詩が大好きで、学校の行き帰りによく暗唱していた。
わずか24歳でこの世を去ったポオの妻ヴァージニア。それも貧しさの故なのだ。ポオは文芸雑誌を自ら立ち上げたり、世界初の推理小説を生み出したり、詩人、作家、評論家として活躍した。代表作『大鴉』(1845年)は高く評価された。だが、出版社に買い叩かれたり、編集長の地位を奪われたり、酒に溺れ、トラブルを起こしたりして、生活は常に困窮していた。
二人は家賃の安い所へ、安い所へと移り住み、何と、木造の小屋で暮らしていた。寒い部屋は彼女には命取りだった。結核になり、死んでしまった。
最愛の妻を守ってやれなかったポオの苦悩と後悔。
詩の中で、二人の愛は天使も羨むほどだった、と綴られている。
天国の天使達からさえ妬まれたので、或る夜、冷たい風が吹き降りてきて、アナベル・リーの身体を冷し、凍りつかせ、死なせてしまったのだ、と。
でも、「天上の天使や海底の悪魔さえ、私の魂をアナベル・リーから引き裂くことはできない」のだった。なぜなら・・・・・
「月が照れば
美しきアナベル・リーは私の夢に入ってくる
星が輝けば
美しきアナベル・リーの瞳が見える
愛しき人よ、恋人よ、私の命、私の花嫁よ、
私はその傍に横たわる
海沿いの墓の中
波轟く海沿いの墓の中」
何と美しい詩だろう! 小説も映画も叶わない、純粋な愛と強い絆。
愛する人を失っても、生涯をかけてその思い出を心に刻み続けることはできる。だが、遺された者が死んでしまえば、二人の物語はそこで終わる。
芸術家は絵画、音楽、文学など、その作品に刻むことによって、二人の物語を永遠に遺すことができる。
ポオはヴァージニアの死の2年後に、40歳で悲惨な最期を遂げた。
だが、『アナベル・リー』は輝き続ける。100年後も、200年後も。
この世界がある限り。
「アナベル」は純白の紫陽花の名前でもある。
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