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野のゆり

原題:Lilies of the Field
制作年:1963年
製作地:アメリカ
上映時間:94分
監督:ラルフ・ネルソン
視聴日:2024年3月8日

あらすじ

黒人ホーマーは、ステーションワゴンに大工道具を積んで、気ままな旅をしていました。
アリゾナ砂漠でエンストしたことで、東ドイツから亡命していた5人の修道女に出会います。
彼女たちは立ち寄っただけのホーマーを「神が使わせた男手」として、屋根の修理をはじめ、タダ働きさせようとするのでした。

シスターといえば迷える子羊を救う立場の人。
それなのに院長のマリアときたら、神職の権力をかさに着て、ついにはホーマーをして「ヒットラーとなんら変わりない」と言わしめるほどの身勝手ぶり。

貧しい食事や人使いの粗さに辟易しながらも、仕事を手伝い、英語を教え、村人たちの人気も得ていく、人の良いホーマー。
ついには彼女たちの念願だった教会を一人で建てるため奮迅します。

やがて見かねた人々が手伝うようになり教会は完成。
塔のてっぺん、十字架を立てた生乾きのコンクリートに、ホーマーは密かに自分の名前HOMER SMITHと刻みます。

最後の晩。
シスターたちと一緒に賛美歌『エイメン(アーメン)』を歌いながら、誰にも挨拶せず、ホーマーはひっそりと出ていきます。
ただ一人、マリアだけはその気配に気づきながらも、もはや引き止めることができないのでした。

感想

なんの説明もいらない、このとおりの爽やかな話です。
こみ上げる感動も、息が詰まる展開も、社会への問題提議も政治思想もなく、風景といえばほこりっぽい砂塵ばかり。
これ見よがしなところがないからこそ、人生捨てたもんじゃないかもと、胃の腑にお湯が満たされたような穏やかな気持にさせてくれます。

「野のユリ」というタイトルは聖書の言葉からきています。
ホーマーは英語、シスターたちはドイツ語を話すため、意思疎通ができません。
そこでお互いの聖書から言葉を引用しつつ(それぞれの母国語で同じ内容が書かれているので)、ホーマーはマリア院長に、「力仕事をしたら報酬をくれ」と交渉しようとします。
しかしマリアはマタイ6章28の29節~31節を引用し、
「野のゆりをごらん、働きもせず紡ぎもしない。明日は炉に投げ込まれるかもしれない。しかしそんな花さえも、栄華を極めたソロモン王より美しい。神様の愛はこれほどまでに尊いのです。あなたにもご加護がありますから、着物や食べ物のことで、悩むのはやめなさい」
と、報酬を払うことを拒否します。

マリアの詭弁にホーマーは呆れ果てます。

マリアはホーマーが働くのは神のお使いであると信じているため、神には感謝すれど、ホーマーにはありがとうの一言も言いません。
しかし最後には、英語でありがとうと言い、ホーマーも満足して出て行くのでした。


主演シドニー・ポワチエ

この作品で、黒人ではじめてアカデミー主演男優賞を受賞しました。
1974年、エリザベス英国女王から大英帝国勲章を授かり、
2009年には当時の米大統領オバマ氏から、米民間人に与えられる最高位の勲章である大統領自由勲章を授与されました。

2022年1月7日、94歳、カリブ海の島国バハマで亡くなりました。



カバー写真:Amazon Prime Video


<参考資料>
映画.com『黒人俳優の先駆者シドニー・ポワチエさん死去 94歳』
2022年
https://eiga.com/news/20220111/4/

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