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ふとした瞬間、編集者が読み返したくなる児童書と絵本

職業柄ふだんから、手に取ることが多い児童書や絵本。そんな本の中にも、見えるところにいつもあって、何かあるときに手に取って見返す本だったり、疲れたときに気づくと読み返している絵本、担当した本で思い入れがあり仕事に行き詰まったときに読み返す本……編集者によってもさまざまです。今回は読書の秋にもおすすめしたい、”わたしが読み返したくなる本”をご紹介します。

『子うさぎましろのお話』作/佐々木 たづ 絵/三好 碩也

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こどもの頃は、自分の読んでいる絵本がどこの会社から出版されているかなんて気にしないものです。わたしがポプラ社に入社してすぐ、会社の棚でこの本に再会した時は、とても嬉しかったことをおぼえています。

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世間ではクリスマスの定番絵本として知られていますが、そのことはあまり関係無く、お話に出てくる雪におおわれたあたり一面の銀世界を、どこか遠い国へ行ったような気持ちで楽しんでいたのだと思います。

noteでロングセラー絵本を写真と文で紹介する連載「絵本を思い出すところ」を担当することになり、また改めて、この『子うさぎましろのお話』に向き合うことになりました。

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白うさぎの子「ましろ」が、サンタクロースからもらったお菓子を、ぺろっと食べてしまうところからお話が始まります。多くの人が共感していただけると思いますが、なぜこどもの頃に読んだ本に出てくる食べものは、まるでその味さえも感じられるほど記憶に残っているのでしょう? カラフルな包み紙にくるまれたケーキの味を、ページをめくるたび味わっていた気がします。

その印象が強く、撮影では南阿佐ヶ谷にあるパンとケーキのお店「好味屋」さんにご協力いただいて、ケーキを買って帰るときのワクワクと、その美味しさが伝わるような記事を作ることにしました。

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このページは、サンタクロースに嘘をついたことに罪悪感を抱く「ましろ」が、自分の体についた炭の跡を「罪を犯した者への裁き」として感じる部分です。「ましろ」の悲しそうな顔が、強く印象に残っています。なぜ、これほど悲しがっているのかをまだ理解することはできませんでしたが。
思い返せば、自分にとって絵本を読むことは「楽しさ」だけではありませんでした。お話に出てくる人たちの「悲しさ」や「苦しさ」を追体験すること、それが一冊の本を忘れられないものにしてくれるような気がします。
きっとこれからも読み続けるだろう絵本として、自分の中で大切にしていきたい一冊です。

(文・齋藤侑太)


『ゆずちゃん』 作/肥田 美代子 絵/石倉 欣二

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入社したばかりのころ、「ポプラ社といえば」で思い浮かぶ作品のひとつがこの絵本『ゆずちゃん』でした。

『ゆずちゃん』は、阪神淡路大震災をえがいた作品です。
震災で亡くなった女の子、ゆずちゃんについて、クラスメイトのたいちくんの視点でつづられます。ふうせんやさんになりたい、という夢を持っていたゆずちゃん。おわかれの日には、ふうせんを手に友だちが集まりました。忘れてはいけない、人の命についての大切なことが描かれた作品です。

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この作品をはじめて読んだのは、小学校1年生のとき。夏休みの課題図書として出会いました。(1996年青少年読書感想文全国コンクール・小学校低学年)
1996年というと、震災をテレビで目にした衝撃や、関西に住む祖父母に電話をかけた不安な気持ちが、心にまだ残っていたころだったと思います。
それもあって、表紙のこの笑顔の女の子がいなくなってしまう、という内容は、当時のわたしには衝撃的でした。

まだ「地震」や「命」について完全に理解はできていなかった年齢と思いますが、それでも「もう会えない」というのはリアルに想像ができて、表紙の絵と、このおわかれの日のふうせんのシーンが頭から離れませんでした。
この本に出会うまでは、楽しい明るい絵本しか読んでこなかった、という理由もあると思います。

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そしてこの作文を書いた時のことは特に、自分でも驚くくらい鮮明に覚えています。当時わたしもふうせんが大好きだったこともあって、ゆずちゃんをものすごく身近に感じていました。

自分がゆずちゃんのような危険にあったらどうしよう、自分だったらどうするかな……と想像すると、とても恐ろしい一方で、その思いや考えを文章にする行為は、不思議と熱意をもってぐんぐん進められた記憶があります。本を読んでその感想を言葉にして伝える、という初めての経験でした。

作文の内容はというと、「もし地しんがきたら、つくえにかくれたあと、弟をせおって小学校へ走ります。ランドセルはママにまかせます」(当時のわたしにとって、ランドセルはすごく大事だったようです)というような、たわいもないものなのですが……
なぜか学校の先生も「素直で実感がこもっていていいね」とほめてくれて、それにも後押しされるように、このころからぼんやりと本への親近感、「本は自分の側にあるものなんだ」という気持ちが生まれたように思います。

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今、本に関わる仕事をしていますが、振り返ってみるとその原点のひとつは確実にこの『ゆずちゃん』です。あの頃の「本は自分側にある」というほんの少しのプラスの感情を、ずるずると大事に、自分の糧にしてきている気がします。

ということで、私の思い入れのある作品は『ゆずちゃん』。
読み返すといつも、はじめて本に真剣に向き合った熱量を思い出させてくれる作品です。
(文・上野 萌)

『答えのない道徳の問題 どう解く?』 文/やまざき ひろし 絵/きむらよう 絵/にさわだいらはるひと

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「なんかこう……子どもの悩みにこたえられるような、そんな本、作れないのかな…。」。ちょうど3年前の私がそんなことを考えていたときに、この本を見つけました。

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『どう解く?』と語りかけてくるこの本は、答えのない問いに対しての色々な人の意見が載っている絵本です。
「ついていい嘘と、ついちゃいけない嘘ってどう違うんだろう?」
「人数が多いほうが、正しいってどうして言えるんだろう?」
「かぞく、どう解く?」
今でもふと考えるような、答えのない問い。
哲学書や専門書もたくさんある中で、ほかの本とは一線を画す、おしゃれなデザインに色使い。どれもとても新鮮で、当時まだ別の会社にいたのですが、この『どう解く?』を読んだとき、「わ!こんな本作りたかった!!!」という気持ちとともに、この本を作っている人たちと仕事をしたい、と思い立ち、急いでポプラ社の求人を探しました(笑)。

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そういったこの本との出会いもあって、ふとしたときに、思わず手に取ってしまうのかもしれません。自分の疑問やもやもやした気持ちを、解消してくれたり、新たな発見をさせてくれたり。ときに自分の仕事についても、ぱらぱらとめくって読んでいると、“どう解く?”と問いに気づかせてくれるような気がします。

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本は人生をちょっとだけ変えるようなそんな新しい出会い、気づきをくれるものだなぁと改めて思えた1冊。今年、「どう解く?」の新刊2冊目も出たので、ぜひ気になった方は読んでみてはいかがでしょうか。
(文・宮尾るり)