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絵本『あっぱれ! どぐうちゃん』ができるまで~長谷川知子さんのアトリエ訪問

2021年6月に刊行されたばかりの『あっぱれ! どぐうちゃん』(堀切リエ・ぶん/長谷川知子・え)。
雨が降り続いて、おじいちゃんのジャガイモ畑を心配するぼくの目の前に、土の中から突然あらわれた「どぐうちゃん」。ぼくを縄文の世界につれていってくれます。
ユニークな設定のこの絵本ができるまでを、絵の長谷川知子さんのアトリエを訪問してお聞きした制作秘話もまじえて、担当編集者がご紹介します。

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『あっぱれ! どぐうちゃん』
堀切リエ・ぶん 長谷川知子・え

『あっぱれ! どぐうちゃん』あらすじ
雨が降り続き、おじいちゃんの畑のジャガイモが病気にならないか心配なぼくの目の前で、かけらが土からとびだして、土の人形になった。うねうねもように大きな目。きみはだれ? 「ド・グ……ドグウ」「どぐうちゃん?」そして、どぐうちゃんに連れられて土の中へ──。ぼくは「縄文の世界」を体験することに。
誰しもがひとめ見たらわすれられない魅力を持つ土偶のおはなし絵本。

「どぐうちゃん」誕生!

「縄文時代をモチーフにした絵本をつくりませんか?」
と、とっぴょうしもないわたしのアイデアに、
「おもしろそう。ぜひやってみたい!」
と、うれしい声を聞かせてくださったのが、画家の長谷川知子さんでした。

アイデアをお話したものの、わたしの中では絵本のストーリーも何も考えておらず、それは単なる思いつきでしかない。
土のにおいがぷんぷんして、緑豊かな縄文時代と現代がクロスするお話ってすてきだな、と、何も考えないままに、お話ししてしまったのでした。

でも、編集者が「いいっぱなし」のアイデアも、プロの作家・画家の方々はきちんとカタチにしてくださいます。
作家の堀切リエさんが、
「『どぐうちゃん』ってキャラクターを登場させたらどうかしら?」
そして、長谷川さんが、
「こんな風貌のどぐうちゃんは、どう?」
と、ラフを描いてくださいました。

思いつきのアイデアから、具体的な絵本へ、産声をあげた瞬間です。

どぐうちゃん_ラフと実際

▲どぐうちゃんラフスケッチ(左)と
実際の絵本の表紙に描かれたどぐうちゃん(右)

物語を絵本にまとめること・絵に描くこと

多くの場合、絵本の文章は「短く、簡潔に」まとめます。
こどもたちが飽きずに「つぎのページをめくりたくなる」リズム感も必要ですし、読み語りで使われることも多いので、読みやすさ、聞きやすさも大切です。

今回の絵本は舞台が「縄文時代」。ちょっと変わった設定のお話であることもあり、堀切さんには実際の絵本にするテキストとは別に、物語としてのテキストも書いていただきました。
舞台にたとえたら、実際に演じられるセリフだけでなく、ト書きつきの脚本のようなものを書いていただいたのです。

それを、長谷川さんは、絵本ではどのような画面割りにしようか、と、絵のイメージを想像しながら、ノートに書きつづっていきました。

ページ割

▲ノートにぎっしり手書きされた「どぐうちゃん」の物語。
ところどころに絵のアイデアがメモされている

ラフ、ラフ、ラフ、そしてラフ!

物語が決まって、堀切さんが一言一句ていねいに絵本テキストとしてまとめていきます。
その中で、長谷川さんが描いたのは、ラフ、ラフ、ラフ、そしてラフ!
同じ画面の絵でもたくさんのラフを描き、堀切さんとわたしに見せてくださいました。

どぐうちゃんとの出会い

▲どぐうちゃんとぼくの出会いのシーンのラフ


そして、三人で「ページのつながりを考えたら、こっちの方がいいのでは?」「画面ごとの明るさのめりはりもつけたいですね」などと、ひたいをつけあわせてのミーティングを何度もおこないました。

地下にもぐる

▲どぐうちゃんにつれられ、土のなかへ行くシーン。
向きや角度、色のイメージをさぐるために描かれた何枚ものラフ

いよいよ絵が完成して……

「絵ができたよ」
編集者にとって、このことばを画家さんから聞くときほど、うれしく楽しみなものはありません。
長谷川さんは仕上がった絵を愛おしそうに見つめながら、わたしに渡してくださいました。

なかでも、わたしがとても気に入った1枚がこちら。
どぐうちゃんたちが生命の誕生を祝う月夜のまつりのシーンです。

月のシーン

▲月の満ち欠けは命のめぐり。
だから「ここは満月で描きたかった」と、長谷川さん

透明感あふれる絵のひみつは、トレーシングペーパー。青がすけたように見える部分は、厚めのトレーシングペーパーが貼ってあるのです。
「ちょっと不思議な感じも出したくて、こんなふうにしてみたんだけど、どう?」
と、はにかみながら、長谷川さんはわたしに絵を渡してくれました。

長谷川知子さんのアトリエ訪問

本づくりをすすめるとちゅう、長谷川さんのアトリエにもおじゃましました。

アトリエ全体

▲長谷川知子さんのアトリエ。
机はヨーロッパのアンティーク家具なのだそう


編集の仕事をしていても、実際に画家さんのアトリエにおじゃますることはそんなに多くありません。長谷川さんのアトリエも、実ははじめておうかがいしました。
おかげで……
「わあ、小さなどぐうちゃんたちがいる!」
「この棚にも画材が入っているんですか?」
「どぐうちゃんを描いた筆はどれですか?」
などなど、ついおおはしゃぎしてしまいました!(長谷川さん、うるさくしてすみませんでした!)

小さなどぐうちゃん

ふでなど

▲たくさんの画材が机のまわりに並ぶ

どぐうマスコット02

▲アトリエには小さなレプリカの土偶も


長谷川知子さんの絵はダイナミックな構図と筆致で、見ている人を明るく元気な気持ちにさせてくれます。

だから、太い筆でぐいぐいと描かれるのかな、と思っていたら、
「広い面を塗るとき以外は、わりと細い筆で描いているんですよ」と長谷川さん。
たしかに、筆立てには面相筆や細い号数の筆がたくさん立てられています。

ふで

▲長谷川さんが手にしているのは、
この仕事をはじめた頃に使っていたという筆。
筆立てに立っているのが、いま使っている筆

「1冊の絵本を描きはじめる時に、同じ号数の筆を何本も買うんです。ひとつの仕事で思い切りその筆を使えるように」

パレット

▲長年使っているパレット


「このパレット、年季が入っているでしょ(笑)。『1ねん1くみ』シリーズのくろさわくんも、このパレットから生まれたの」

長谷川知子さんといえば、「1ねん1くみ」シリーズ(後藤竜二・作)の絵でご存じの方も多いと思います。主人公の元気でいたずらなくろさわくんが活躍するロングセラーです。

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▲「1ねん1くみ」シリーズ1巻め
1ねん1くみ1ばんワル
(後藤竜二・作 長谷川知子・絵)

絵本『あっぱれ! どぐうちゃん』完成!

作家と画家が心をこめて、つくった1冊の絵本。
印刷、製本の工程を経て、書店さんに並びます。

刷り出し

▲印刷所で刷られたばかりの
『あっぱれ! どぐうちゃん』本文


絵本を手にしたみなさんが、どぐうちゃんとともにすてきな時間を過ごせますように。思いをこめて……。


(文・編集部 小桜浩子)

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【こちらも公開中!】
『あっぱれ! どぐうちゃん』の作者・堀切リエさんによる縄文遺跡・博物館探訪と絵本への思いを綴っています。
縄文の扉をひらいて──堀切リエ
どうぞお読みください!

堀切リエ(ほりきり・りえ)
1959年、千葉県に生まれる。作家、編集者。おもな絵本の作品に、『日本の伝説 きんたろう』『きつねの童子 安倍晴明伝』(以上子どもの未来社)などがあり、ほかの作品に『田中正造 日本初の公害問題に立ち向かう』(あかね書房)、『マハトマ・ガンディー 阿波根昌鴻 支配とたたかった人びと』(共著、大月書店)などがある

長谷川知子(はせがわ・ともこ)
1947年、北海道に生まれる。絵本、児童書の装画・さし絵などで幅広く活躍している。おもな作品に、『くらやみのかみさま』(新日本出版社)、『教室はまちがうところだ』(蒔田晋治・作、子どもの未来社)、『だんごどっこいしょ』(大川悦生・作)、『クリスマス・キャロル』(芝田勝茂・文、以上ポプラ社)などがある。