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第二回・アニメおしりたんていの舞台裏をのぞいてみました~声優 櫻井孝宏さんインタビュー~

「アニメおしりたんてい」制作の舞台裏に潜入する本連載。第二回目も引き続き、アニメの顔――声優さんから、かいとうU役・櫻井孝宏さんのインタビューをお届けします。どうぞお楽しみください!

櫻井孝宏
インテンション所属。アニメ「おしりたんてい」のかいとうU役のほか、代表作に「おそ松さん」松野おそ松、コードギアス 反逆のルルーシュ」枢木スザク、「ダイヤのA」御幸一也、『鬼滅の刃 冨岡義勇』、ゲーム『FINAL FANTASY Ⅶ REMAKE』クラウド・ストライフなど。

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▲かいとうUに扮する?櫻井孝宏さん 原作者トロルさんイラスト

主人公のライバルを演じて

――本日はよろしくお願いします。早速ですが、主人公のライバル「かいとうU」を演じるうえで、心がけていることをお聞かせください。

櫻井孝宏(以下、櫻井):上品というか、エレガントであることですね。颯爽と現れて、結果としておしりたんていにやられてはいるんですが、決して彼が弱いとかそういうことじゃない。ちゃんとストーリーに爪痕を残して去っていきます。「しつれいこかせていただきます」をされて、面白い顔をしてるんですけど(笑)、最後はかっこよく空に去っていくという、ギリギリの「かっこいい」ラインを保ちたいと思ってやっていますね。
もともと原作(※「おしりたんていファイル」シリーズ)の持つ柔らかさってあるじゃないですか。ユーモアの感じというか。そのタッチは踏まえつつではあるんですけど、エレガントさ、上品さもちゃんと漂わせつつ。かっこいいと視聴者の方に思っていただけたら。

――最初に役作りされたとき、特に第一期の最初のときに、ご苦労はありましたか?

櫻井:これはパイロット版が一番初めにあって、そのとき鷲尾さん(※東映アニメーション・エグゼクティブプロデューサー)にいろいろお話を伺って、そこである程度固まった感じはありましたね。その時はアドリブとかを入れたんですよ。「さらばだ!」を「さばらだ!」って言ったんです。Cava(サヴァ)っていうのがフランス語で「大丈夫」や「順調だ」みたいな意味だと知って。でも、本編始まってから、「あ、こういうのいらないな」って思いましたね(笑)。あまり小細工はいらないなって。
そのパイロット版の時に、そこにいたキャスト全員で雰囲気を作りました。一人でああしようこうしようというよりは、三瓶さん(※おしりたんてい役 三瓶由布子さん)はそう来るのか、齋藤さん(※ブラウン役 齋藤彩夏さん)はそういうキャラづくりなんだなっていうのを見ながら、その場のライブ感で「かいとうU」のキャラクターが作られたイメージです。

――その「さばらだ!」はアドリブだったのですか?

櫻井:かいとうUは「トレビア~ン」とか言うじゃないですか。だからもう少しエッセンス足したいなって、欲が出ちゃって。鷲尾さんは苦笑でしたけど、そのときは採用してくれたんじゃなかったかな(笑)。

――それは知らなかった秘話でした。

櫻井:そうですね。そこまでいい話じゃないですけど(笑)。
ちょっとセリフを足したくなる瞬間もあるんですけど、颯爽と走るシーンとか飛ぶシーンとか、そういうところの動きやリアクションのアドリブで色付けできればいいなと今は思っています。用意されたセリフをこねくり回すのは、なんかキャラクターがぶれそうだなって思って。

――かいとうUというキャラクターを初めて見たときのご感想は……?

櫻井:まあちょっと衝撃的ではありましたけど、Uと読ませるところがトロル先生(※おしりたんてい原作者)のすごいおしゃれなところですよね……(笑)。やはり「おしりたんてい」の世界には、どこかちょっとブラックなユーモアも入っている気がするんですよね。それが下品にふれないのが、面白い。ああいう際どいキャラクターのビジュアルや設定で、ちゃんと世界観があって優しくて、面白くて……すごいなあと思いますね。大人も楽しめるし、ネタっぽい読み解きもできるじゃないですか。こういう作品がアニメになって、監督含め、「こういう風に作りたい」という狙いもよく分かって、「おしりたんてい」はアニメとすごく相性が良かったんだなと思いますね。

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▲原作に登場するかいとうU。おしゃれすぎる言い回しに注目。

――たしかにシニカルなところが効いている作品ですよね

櫻井:子供時代からこういうのを見たほうが、いわゆる見て、読む読解力がつくと思うんですよね。アニメを読むというか。そういうのが備わっていくんじゃないかと思います。「うんこちゃん」と言わないところが。

――そうですね、そこの絶妙なバランスが(笑)。絶対にキーワードは出さない(笑)。

櫻井:そうです。そういうところは素敵だと思います。

――ちなみに櫻井さんは他のキャラクターも演じられています。かいとうUとは打って変わって……なキャラクターですが、どう演じられていますか? まずは「ペンギンたろう」から。

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▲ペンギンたろうとペンギンはなこ。

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▲ペンギンたろうと、ペンギンはなこはいつもいっしょに。

櫻井:あの世界の、普通に生きてるナチュラルな一般市民ですよね。たろうとはなこというあのカップルのセット感が面白いですよね。なんか子供っぽいというか、相思相愛感が見ていて微笑ましい。ああいうラブな描き方しているキャラクターってこの世界でもあんまりいない、恋愛関係とかそんなにいないので、ただ、おじさんにならないように頑張ってます(笑)。

――「ジョン・ウマモト」はいかがですか?

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▲ジョン・ウマモト。ライブハウスUMAを経営している。

櫻井:ウマモトさんも面白いですよね。彼も収録中のやり取りの中で、キャラクター定めていきました。初めのアプローチは今よりも少しおじさんっぽくやっていたと思います。ただ、ビジュアルに引っ張られていたかなと。少しおじさん感あるじゃないですか。でも、そうではなくもう少し優しく、ジェンダーレスなところがありますよね
でもまだまだ、どういう人なんだろうっていまだに思っています。まだこの人、掘ればなにかあるなって(笑)。

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▲ロック好きのウマモトさん。

かいとうUってそんなに頻繁に登場しないじゃないですか。彼が出てくると大きな事件になるから。最近なんて、ペンギンたろうとジョン・ウマモトの方がちょっとなじんできちゃっていますね(笑)。

――今後に期待ですね。次に、かいとうUの好きなお話とか思い出に残っているお話とかあれば。

櫻井:水洗トイレみたいに流された話かな。びっくりしました。目が覚めるような……やっぱりそれじゃん、って(笑)。ああいう表現を避けるのかなって思ったら、やるときは徹底的にダイナミックに描ききるという。そこが上質なコメディーの要素があるなって思いますね。子供だましじゃない、大人が見てもくすっとできる。
もちろん「しつれいこかせていただきます」で劇画調になるところなんて何回見ても笑っちゃいますね。あれを見たいがために……なんていう人もいるんじゃないかって思います。
勧善懲悪のお約束というか、ちょっと時代劇的なつくりもありますよね。だいたい何分ごろになるとあの顔が見られるみたいな(笑)。

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▲決して水洗トイレ…ではなく、ぶたバラ家のおじょうさま、ぶたローズ専用のお風呂「ミューズのいずみ」(29話「ププッかいとうUはおアツいのがおすき」)

――キャラクターでいうと、かいとうU以外で気になる方はいますか? 

櫻井:署長はずるいですよね~、かわいいし。いっけいさん(※マルチーズしょちょう役 渡辺いっけいさん)の後ろ姿見ながら、声を聞くのすごく好きなんですよね。いっけいさんがうーんって首を傾げながら、いま納得いってないんだろうな…良かったけどな、とか思いながら。あと、刑事のみなさん楽しいですよね。ドタバタ騒ぎで、すこーしかわいく見える感じが。ブラウン役の齋藤さんも絶妙ですよね。かわいいんですけど、ちょっとイラっとするんですよ(笑)。あれが大事なんですよね。ちょっとだけ。この野郎、みたいな(笑)。頭わしわしってしたくなるような感じ。あれがもう絶妙で素晴らしいです。

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▲可愛くてズルい?! マルチーズしょちょう。

そして、アニメの真ん中を張るおしりたんていさんはすごいです。ああいうハードボイルドな、ニヒルな雰囲気を、当然声も使ってではありますが、呼吸というか間合いというか。そういうところで表現するのってすごい難しいと思います。しかも女性がやっているじゃないですか。僕女性が演じる男性役って好きなんですよ。

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▲おしりたんていはいつも沈着冷静。三瓶由布子さんの演技がキラリ。

――低い、ローボイスというか。

櫻井:そうですね。昔のアニメってよく主人公の男の子は女性の声優さんが担当されていたケースがあって、小学生の男の子のキャラって。すごく客観的な演技で、いわゆるアニメの世界の「男の子」っていうイメージがあったんですよね。リアルな男の子っていうよりは、みんなが頭の中にあるアニメの「男の子」像みたいなのがすごく好きでした。
男性も、女性の仕草がうまかったりしません? そういう分析というか、研究されたような、客観的な視点がアニメの演技に出ているのが好きだったんです。
おしりたんていさんは、大人の間合いというか、雰囲気と表現を三瓶さんが巧みに形にしているからすごいです。あの「フーム」だけで何杯か飲めます(笑)。あれ難しいですよ、「フーム」って……。

声優のお仕事について

つづいては、
声優のお仕事について伺っていきます。

――アニメ「おしりたんてい」にかぎらずですが、声優というお仕事について、なぜ声優を職業にされたのかと、このお仕事のやりがいを伺ってもいいですか?

櫻井:むかし中学の国語の授業で、教科書読むじゃないですか。そのとき、担任の先生が、「あの坂を越えると海が見える」っていう一文から始まる文章だったんですけど、「おまえ声優さんみたいな声してるね」って言われて、「え、そうなんだ……」って。そこからスタートしました。中学一年生ですね。そこまでは全然、声優なんて意識してなかったですね。アニメはアニメ、だからドラえもんはドラえもんが喋っていると思っていて。大山のぶ代さんだとは思わないじゃないですか(笑)。だから、そういう仕事の人たちがいるんだ…って意識しました。
で、みんなでお泊り会みたいなのやった時に、思い出作りだっていってカセットテープ回して、わいわい騒ぎをずっと録音してて、後で聞いたら知らない声が一人いるなって。それが自分で――。すっごく変な声に聞こえて、あんまり自分の声好きじゃなくなるんですよね。コンプレックスになったんです。それを引きずって高校くらいになって、これじゃだめだと思って、たまたま養成所というか学校を見つけて、チャレンジしたいと思いました。自分の中の点が線になったような、そういう何年かがあって。実際に声優になれて、今に至るんですけど、やっぱり僕はアニメが好きなんですね。子供の頃に見てたアニメっていまだに自分の中で大事な思い出というか。性格とか人格にも影響を及ぼすような作品がたくさんあって、それは今も変わらず、自分が出ている作品をどういう人たちが見て、どういう思い出になって、ということとか想像すると、子どもの頃の自分と、時代が変わっても変わらないだろうなと思っています。なにか作品を通してその人にいいものを送れればなあっていう気持ちが変わらずあって、それがひいては、やりがいにつながっているのかなと思いますね。

――ご自身が小さい頃に影響を受けたようなことを返す、というような?

櫻井:そうですね。アニメは子どものものだっていうのは古い考え方になりつつあるけど、でもやっぱり子ども向けのアニメもあるし、そこから学ぶものは多いと思います。先生が教科書をもって教えてくれるんじゃなくて、アニメってもっと自主的に、自発的に見るから、そこで何を拾うかってその子どもたち自身のチョイスになってくるじゃないですか。だったら選択肢は多いほうがいいですよね。
たくさんのアニメがあって、その一期一会が大切な出会いになったらないいなって思います。

――ちなみに感銘を受けた、影響を受けた作品は?

櫻井:めちゃくちゃシンプルですよ。例えば「ドラえもん」。私の中ではギャグマンガなんですよね。今、あれをギャグとして捉えてるかどうか分からないですけど、昔はもう少しブラックだったし、あの時代の先生たちってそういうユーモアをすごい忍ばせてますよね。ああいう毒気に当てられて(笑)、それも学びだったと思います。あと、それこそ東映作品とか、東映まんがまつりとかもずっと見に行ってましたし、「ドラゴンボール」とか、「キン肉マン」とか、一通り影響受けたと思います。

――それは小学校とか中学校にかけて?

櫻井:そうですね。もうみんな見てたんで。クラスの6~7割は見てましたね。もう知ってないとダメ、ぐらいの人気で(笑)。誰が一番早くジャンプ買うか――「あそこの本屋行くともう買えるよ」みたいな。

――いまきっと声優になりたい子ってどんどん増えていると思うのですが、アドバイスというか、メッセージはなにかあるでしょうか? 

櫻井:私は、なろうと思えば誰でもなれるのかなと思ってはいるんですよね。当然、結果なれない人もいますけど、でも目指そうと思わない限り、なれないじゃないですか。だから興味持ったら飛び込んでみるのはありだなと思います。ただ、アニメ見るばっかりじゃなくて、勉強もやって運動もやって……いや、この答えは違うな(笑)。大人な回答になっちゃいました(笑)。難しいですねえ…。でも「おしりたんてい」という作品をひとつとっても、いろんなエッセンスが詰まってるから、この作品見て声優さんになりたいと思ったら、おしりたんていを熱心に見るのも一つ。最初、物真似からでもいいと思うんですよね。私も物真似からでした。だからそういうはじめのステップ、誰でもやれるものですけども、そこから入って。もしかしたら声優さんになれるかもしれない。

声で演技する、表現するのが声優さんなので、例えば物を拾うときとかに、自分の身体がどういう動きをして、その時にどう息が漏れるのか、どう声が出るのかっていうのは日常で経験できるじゃないですか。そういうものも、ひいては声の表現って大事になってくるんですよね。俳優さんのように身体で見せられないので。ちゃんと自分の身体がどういう構造をしていて、どういう動きをして、何をしたときにどういう呼吸になるのかとか。そういうものを知っておくのが大事なんですよね。で、それを知るには普段の生活を普通に送るのも実際大事で、普段生きているのが勉強っていう。これ、すごいよく先生に言われました。たとえば、「くしゃみってどういう風に出てるの」とか。みんな生理現象で「はくしょん」ってやってますけど、それを演技でやるっていうときに、人間だったらまだしも例えば動物だったら、犬のキャラクターだったらどういうくしゃみになるんだろう、とか。「はっくしょん」と言わずに「ふるるるるる」みたいなのとか、例えばそういうアイデアも生まれたりとか。自分の中にアイデアとか貯めておけるといいのかなあと。普段の暮らしの中に表現のヒントがたくさんありますね。

――アドバイスありがとうございます。このインタビューを読んでいただいている方にも、声優さん志望の方もいるかもしれませんので、参考にしていただけるかもしれないです。では、最後に。今おっしゃっていた話ですが、櫻井さんも、今でも日常の中に発見はあるんですか?

櫻井:ありますね。もう少し情緒的な部分ですけどね。たとえば、うれしいこととか悲しいこととか、その時の心の機微というか、いわゆる体のアクションじゃない、マインドの方も年齢感が出てきます。昔は悲しいと思えていたものをもう少し冷静に受け止められるようになるとか。立ち止まっちゃいそうなところを、もう一歩踏み出すとか。その人の解釈になってくるので、じゃあそれを今度はどういうふうに声の表現に乗せようかとか。ある種、自己満足なところもあるんですけど、それがキャラクターとか作品に活かせたらな、と。年齢ごとのステップがありますね。

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▲かっこいいかいとうU、優雅なかいとうU…と櫻井さんの変化にも注目したい。

――そうなんですね。今回は、かいとうUの演技から、声優さんの仕事~心構えに至るまで長時間のインタビューありがとうございました。

櫻:ありがとうございました。

連載はまだまだ続きます。第三回はアニメおしりたんていの仕掛け人、東映アニメーションプロデューサーの鷲尾天さん、谷上香子さんです。お楽しみに!(インタビュー:尾関友詩(ユークラフト)/構成:長谷川慶多(ポプラ社))

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