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「わたしのデビュー」──作家の先生方に語っていただきました!【児童書作家デビューへの扉#06】

「デビューした時のことを教えてください!」
児童文学作家、絵本作家として、いま大いに活躍なさっている作家の先生方に、デビュー時の貴重なエピソード、夢をかなえた時のその思いを語っていただきました。
これから児童書作家をめざす方への応援メッセージもぎゅっとつまっています。「第11回ポプラズッコケ文学新人賞」の応募しめきりは今月末。先生方のことばは、きっと、みなさんの応募の背中を押すあたたかなひとことになるはずです。

■焦らず、急がず、あきらめず──いとうみく先生

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▲デビュー作『糸子の体重計』(絵:佐藤真紀子、童心社)

作家になる一番の近道は、出版の約束されている賞をとることだ。なんて話をよく聞きます。たぶん間違ってはいません。
『ポプラズッコケ文学新人賞』もそうですが、出版社などが主催している新人賞の多くは、新しい書き手を発掘し、育てようという思いで(ですよね?)毎年公募しています。受賞作には担当の編集者がつき、出版に向けて動き出します。たしかに作家になる一番の近道です。

が、しかーし! そういった“近道”といわれるコースに乗れる人ってどれくらいいるでしょう? 山のような公募のなかから、選ばれるのは1作。多くても数作です。かくいうわたしもデビュー前、K社、P社等々の新人賞に応募しました。結果はというと惨敗でした。最終選考まで残った作品が選に漏れたときなどは、もう落ち込んで落ち込んで(笑)。

そんな受賞経験のないわたしがデビューできたのは、同人誌『季節風』に掲載された投稿作を編集者のHさんが読んでくださったことがきっかけです。Hさんは『季節風』を昔から購読されていて、わたしが数年かけて投稿し、掲載されていたシリーズ作も読んでくださっていたのです。最終話の5話目が掲載されてまもまく、「全部通して読んでみたいので、原稿を送っていただけますか」的な(具体的なことばは覚えていませんが、こんな感じだったはず!)ことを言っていただきました。
もちろんそこからとんとん拍子で、などということはなかったのですが、数年かけてやりとりさせていただき、2012年に『糸子の体重計』(童心社)でデビューさせていただきました。

「出版が決まりました」とHさんから電話をいただいたとき、本が出来上がったとき、この二つの喜びと感動は忘れられません。来年、2022年でデビューから10年になります。わたしに言えるのは、道は一つではないということ。もちろん、その一つの道が賞への応募でもあります。
焦らず、急がず、あきらめず。これに尽きるのではないかな、なんて思います。


いとうみく
神奈川県生まれ。デビュー作『糸子の体重計』で第46回日本児童文学者協会新人賞を受賞。『空へ』(小峰書店)で第39回日本文芸家協会賞、『朔と新』(講談社)で野間児童文芸賞受賞。ほかの作品に「おねえちゃんって」シリーズ(岩崎書店)、『二日月』(そうえん社)、『トリガー』『ぼくはなんでもできるもん』『あおぞらこども食堂はじまります!』(以上ポプラ社)など多数。


■童話賞入選からのスタートが60巻のシリーズに──藤真知子先生

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▲デビュー作『まじょ子どんな子ふしぎな子』(絵:ゆーちみえこ、ポプラ社)

わたしがデビューしたのは、1985年。ポプラ社主催の「第一回ポプラ社こどもの文学」という文学賞でまじょ子の作品が入選したのです。

その頃、わたしは童話作家にあこがれて、カルチャーセンターの童話講座に通っていました。まだ誰もパソコンはもちろんワープロもつかってない時代です。4つ折にしたA3用紙に一話を書いて提出。それを先生や生徒が合評するという講座で、一話が原稿用紙5枚くらいです。
先生がプリントして配られる童話賞の募集要綱を見ては、枚数が合うものにみんなで応募していました。デビュー作の「まじょ子」が4話構成なのも、講座で評判のよかった作品に2作品プラスして、応募枚数20枚に応募したからです。
先生の指導で応募原稿は万年筆かボールペンで書き、吹き出しはだめ、一字でも間違えたらそれは書き直しといわれてましたから、長編なんてとても書ける状態ではありませんでした。修正ペンもなかった時代です。
でも、何度も書き直したおかげで編集者さん全員からわたしの原稿は読みやすいといつも言われてました。
大変だったので、ワープロができたときはすぐに変えました。
子どもをあずけてカルチャ―センターに通っていたので、児童文学界の状況も全然知らず、当時の編集者のSさん(後のポプラ社元社長)から、「三種類の童話を書けるようになれ」といわれ、「そんなに書けない」とびっくりしたら、「書いてるうちに書けるようになり、書くのは早くなるものだ」と言われました。
半信半疑でしたが、ほんとうにだんだん書くのも早くなり、いくつかのものを書けるようになりました。
最初はそんなに続くとおもっていなかったまじょ子が60冊も続くことができたのも賞をいただけたおかげです。
ですから、みなさんもぜひがんばって応募してくださいね!
あたらしい作家の出現、応援しています!


藤真知子(ふじ・まちこ)
東京女子大学卒業。デビュー作『まじょ子どんな子ふしぎな子』にはじまる「まじょ子」シリーズ(全60巻)は幼年童話のファンタジーシリーズとして子どもたちの人気を博している。絵本の作品に『モットしゃちょうとモリバーバのもり』など、読み物の作品に「わたしのママは魔女」シリーズ(全50巻)、「まじょのナニーさん」シリーズ(以上ポプラ社)、「チビまじょチャーミー」シリーズ(岩崎書店)など多数。


■絵本ってすごい! その思いでいまも──宮西達也先生

どうしたのぶたくん表紙
▲はじめて作と絵を手がけた絵本『どうしたのブタくん』(鈴木出版)※書影は現在のもの

僕は子供の頃から絵を描くことが大好きでした。

将来は絵を描く仕事につきたいと思い、美術の大学にも行きました。
そして、大学時代、人形美術の事務所でアルバイトをしていた時のこと。ある児童書の出版社が、絵本の絵の依頼を事務所にしてきました。事務所のアートディレクターが絵を描き、僕はアシスタントで全ての絵の色塗りをさせてもらいました。

それから時は流れ、僕は美大を卒業してグラフィックデザイナーになっていました。仕事はとても楽しかったのですが、絵が描きたいという夢が捨てられず、会社を辞めてしまいました。
それからは、アルバイトをしながら広告のイラストを描いて生活をしていました。

そんなある日、大学時代の人形美術の事務所のことを思い出しました。
(絵本はいっぱい絵が描けるぞ!)
僕は、1年間絵本の勉強をした後、はじめての絵本を描きあげました。
でも、どうしたら出版してもらえるのだろう?
僕は、出版社に電話をし、原画を持ちこみました。答えは、
「こりゃ、だめだ。帰りなさい」
泣きたくなりました。でも、次々、出版社に持ち込みをしました。
「基本がなっていない。」「これは絵本じゃない」惨憺たるものでした。

それでも挫けず、絵本を描き続け、1年間持ち込みを続けたある日のこと。
「ヘンテコだけど面白いかもしれない。うちで出版するよ」
僕は、飛び上がって喜びました。
そして、もっと嬉しかったことは、本屋さんに本が並んだ時のことでした。積まれた自分の絵本のそばに僕が立っていると、女の子が本を手に取り読みはじめたのです。そして、少しするとクスクスっと笑ったのです。
僕は、絵本ってすごい! と思いました。人を感動させたり、笑わせたり、なんてステキな書物なんだろうと思いました。
その日から、ずっと今も僕は絵本を描き続けています。
あの時の女の子のクスクスがあったから。


宮西達也(みやにし・たつや)
1956年、静岡県生まれ。日本大学芸術学部美術学科卒業。作品に『おまえうまそうだな』(けんぶち絵本の里大賞)にはじまる「ティラノサウルス」シリーズ(ポプラ社)、『帰ってきたおとうさんはウルトラマン』(けんぶち絵本の里大賞、学研プラス)、『うんこ』(けんぶち絵本の里大賞びばからす賞)『にゃーご』『きょうはなんてうんがいいんだろう』(講談社出版文化賞絵本賞、以上鈴木出版)、『ふしぎなキャンディーやさん』(日本絵本賞読者賞/金の星社)など多数。

■踊り出したくなった、はじめての本──山本悦子先生

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▲デビュー作『ぼくとカジババのめだまやき戦争』(絵:ひらのてつお、ポプラ社)

わたしは、25年前、「童話の海」作品募集(日本児童文学者協会・ポプラ社共催)で入選し、デビューしました。

「入選しました。おめでとうございます」
入選の知らせは、電話でした。
「ありがとうございます」
で、次に出た言葉は、
「本当に出版してもらえるんですか?」
「はい。その予定ですが……」
「書き直しをして、上手く直せなかったから、やめってことはないんですか?」
実は、それまでにも他の作品で、何度か他社からチャンスをもらっていたのです。でも、どれも書き直しが上手くできず、デビューに至りませんでした。
「本当に、出版やめってことは、ないんですか?」
こんな疑り深い受賞者は、後にも先にもわたしだけではないでしょうか。受話器の向こうで、編集者さんが笑いを堪えているのがわかりました。
「そのようなことはありません」

本当に「そのようなことはありません」でした。わたしのデビュー作『ぼくとカジババのめだまやき戦争』は、無事書店さんに並べていただくことができました。
ネックだった原稿の直しは、「新人さんとお仕事をするのが大好きです」と言ってくださる若い編集者さんが、根気よくお付き合いしてくださいました。(彼女は、今もわたしの担当さんです)

本は、書店さんに配られる前に、作者に見本が送られてきます。この見本を見るときが、一番嬉しい瞬間です。何冊出してもですが、デビュー作の時の喜びは絶品。踊り出したいくらいでした。今からデビューする方は、あの喜びを味わえるんだなと思うとうらやましいくらいです。皆さん、その瞬間を楽しみに、頑張って書いてください。 


山本悦子(やまもと・えつこ)
愛知県生まれ。『神隠しの教室』(童心社)で第55回野間児童文芸賞受賞。ほかの作品に『夜間中学へようこそ』(岩崎書店)、『先生、しゅくだいわすれました』『先生、感想文、書けません!』(ともに童心社)、『今、空に翼広げて』(講談社)、『ボーダレス・ケアラー 生きてても、生きてなくてもお世話します』(理論社)、『神様のパッチワーク』(ポプラ社)などがある。


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ここからは、ポプラ社70周年記念冊子「こどもと昔こどもだったすべての人へ」(2017年)にご寄稿いただいた文章をもとに、先生方のデビュー、新人作家当時のエピソードを編集部でまとめたものを掲載します。

■はじめての本の思い出──あまんきみこ先生

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▲2000年に新装版として出版された『車のいろは空のいろ 白いぼうし』(絵:北田卓史、ポプラ社)

デビュー作は『車のいろは空のいろ』(1968年)。小学校の国語教科書にも掲載され、長くたくさんの子どもたちに愛されつづけている日本の児童文学を代表する名作です。本ができたその日のことを、あまん先生はこう回想してらっしゃいます。

「できましたよ。やっとできましたよ」
編集長の田中英夫さんから電話がかかってきた日、私は電車の中を走る思いで、ポプラ社に向かいました。(中略)
二階の応接室で、北田卓史さんの明るい表紙絵の本を手渡していただいた時、嬉しさと戸惑いが形にならないまま、ぐるぐる廻っている感じで、「うわあ」と言ったきり、しばらく言葉が出ませんでした。

「車のいろは空のいろ」は、あまん先生が童話雑誌「びわの実学校」に作品を投稿し掲載された作品です。これを読んだ編集者から出版の話があり、新たな3編が書き足されて本になりました。

デビュー作を受け取ったその翌日に仙台にお引っ越しをされたあまん先生。新しい土地での暮らしが落ち着いた頃、『車のいろは空のいろ』の編集者から「絵本を作りましょう」と電話がありました。そうして生まれたのが、はじめての絵本『おにたのぼうし』(絵:いわさきちひろ)だそうです。

その後、あまん先生は、多くの童話、絵本の作品を発表、日本を代表する児童文学・絵本作家としてご活躍されることになります。

あの事もこの事も書きたい、あの思いもこの思いも書きたい。作品が生まれる喜びと苦しさが身にしみ、どきどきし、わくわくし、童話に恋していると気づきました。

あまん先生の作家のデビューは恋のはじまりだったのかもしれません。


あまんきみこ
1931年、旧満州生まれ。デビュー作『車のいろは空のいろ』は日本児童文学者協会新人賞と野間児童文芸賞推奨作品賞を受賞。『ちいちゃんのかげおくり』(絵:上野紀子、あかね書房)で小学館文学賞、『きつねのかみさま』(絵:酒井駒子、ポプラ社)で日本絵本賞受賞など受賞歴多数。ほかの作品に『もういいよう』(ポプラ社)、『あるひ あるとき』(のら書店)など多数。


■一度はあきらめた夢──武田美穂先生

▲「第二次デビュー作」となった『スーパー仮面はつよいのだ』(ポプラ社)

ロングセラー絵本『となりのせきのますだくん』の作者、武田美穂先生は一度絵本作家デビューしたものの、うまくいかずに夢をあきらめたこともあったそうです。

でも、編集者からの声がけで『スーパー仮面はつよいのだ』を出版。「第二次デビュー」を果たしたその時のエピソードは……?


武田美穂(たけだ・みほ)
1959年、東京都生まれ。『となりのせきのますだくん』で講談社出版文化賞絵本賞、絵本にっぽん賞、『ふしぎのおうちはドキドキなのだ』で絵本にっぽん賞、『すみっこのおばけ』で日本絵本賞読者賞、けんぶち絵本の里大賞を受賞(以上、作絵の作品、すべてポプラ社)。ほかの作品に『ねんどの神様』(作:那須正幹)、「ざわざわ森のがんこちゃん」シリーズ(作:末吉暁子、講談社)、『どーすんの!? おもちゃゲット大作戦』(作:吉田純子、ポプラ社)など多数。


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ポプラ社では「ポプラ社ズッコケ文学新人賞」で原稿募集をおこなっています。今年の第11回の締め切りは、10月末日です。みなさまからのご応募をお待ちしています。次に「デビュー時のワクワクとドキドキ」を味わえるのは、あなたかもしれません!

【応募受付2021年9月1日~10月末】第11回「ポプラズッコケ文学新人賞」
★応募のきまりはこちらから

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