100人いたら100人分の物語~いとうみくさんの描くもの
■小学校1年生って!
小学1年生のころ、自分はどんな子だったかな……。
4月、新しいランドセルを背負った黄色い帽子のこどもたちを見ると、そんなことを思います。通学とちゅう、同じクラスの男子に田んぼにつきおとされたことしか憶えてない……ですが、1年生にはそれぞれの思いがあって、そして誇りもあるのです。
小学生なんだから、もう赤ちゃんじゃない!
「ぼくは ぜーんぶ、ひとりで できる!」
つぎに紹介するのは、そんな小学1年生のためのとっておきの1冊です。
■1年生はなんでもできるもん!
いとうみくさんの『ぼくはなんでもできるもん』は、小学1年生のたっくんが主人公の幼年童話。(幼年童話というのは、おもに小学校低学年向きの物語のこと)
保育園では最年長だったのに、小学校に入ったとたん、最年少になる小学1年生。上級生やおとなが先まわりしてお世話をしてくれますが、たっくんは「赤ちゃんあつかい」されているみたいでおもしろくありません。
小学1年生になりたての子どもたちにとって、これからはじまる学校生活は目の前にひらかれた「新しい道」。そして、1年生になるということは、その道を行くはじめの一歩を踏み出したということ。
その一歩はやっぱり胸はって、前向いて歩きたい!
いとうみくさんはこの作品でそんなたっくんの気持ちを、まるで本人から話を聞いたかのようにリアルに描いています。そして、田中六大さんの絵がまたぴったり。田中さんの絵のたっくんの表情に「こんな子、いるいる!」って思わずにはいられません。
■こどもとこどもをとりまく状況へのやさしいまなざし
今月(2021年4月)は、いとうさんの新作幼年童話も刊行されました。
『あおぞらこども食堂はじまります!』(丸山ゆき・絵)です。
ある春の日、お弁当を持って公園に出かけたハルさん。そこでニコちゃんという女の子にであい、いっしょにお弁当を食べます。ニコちゃんと話すなかで、ハルさんは「ひとりでごはんを食べているこどもや大人がたくさんいる」ことに気づき……。そこで「こども食堂をはじめよう!」と考えつくのです。
いとうさんは、
「こども食堂は地域の人たちが集える場、人をつなぐ場としての役割こそが大きいと思っています。コロナでこども食堂の運営は大変難しくなっているとお聞きします。スタッフのみなさんのご努力に本当に頭が下がります。
これからまた、いろいろな工夫や形でこども食堂を続けていかれるのだと思います。この本が、そのお役に少しでも立てれば、こんなにうれしいことはありません」
と、語ってらっしゃいます。
いとうさんのまなざしは、こどもひとりひとりをやさしく見つめるだけでなく、こどもをとりまくまわりの状況もあたたかく見つめているのだな……そんなふうに思います。
■いとうみくさんの描くこどもたち
この春、いとうさんの幼年童話が各社から出版されています。
『1ねん1くみの女王さま』(モカ子・絵/学研プラス)の主人公は、前出のたっくんと同じ小学1年生。つむぎちゃんという女の子です。つむぎは同じクラスのひめかがちょっと苦手。席替えでは「となりの席になりませんように」と願っていましたが、願いかなわず席はとなりに……。
毎日、「女王さまっぷり」を見せつけてくるひめかだけれど、いっしょに過ごす中で、ひめかのすてきな一面も見えてきて。
つむぎちゃんとひめかちゃんはタイプが違うけれど、読んだらふたりともと友だちになれちゃう。そんなうれしい気持ちになるおはなしです。
『つくしちゃんとおねえちゃん』(丹地陽子・絵/福音館書店)に登場するのは、2年生のつくしちゃん。のんびり、マイペース。つくしには、優等生でがんばり屋、4年生のお姉ちゃんがいます。お姉ちゃんの名前は、かえで。
ケンカしてなかなおりして、助けあって、笑いあって……「姉妹って、こんな感じだよなあ」と、思わずうなずいてしまう、そんなお話。ふたりのおたがいを思いやる気持ちに胸がほわっとあったかくなります。
いとうみくさんの物語にはいろいろな性格、立場のこどもが登場します。
100人のこどもがいたら、笑顔の数も涙の数も100通り。
いとうさんは物語の中で、その100通りの思いに寄り添います。
だから、いとうさんの物語は「ここにわたしがいる」と感じられる。子どもたちに愛される理由はそこにあるのだな、と思います。