愛する『ほわころくらぶ』の絵本を作りたい! 担当編集の熱烈な愛から生まれた2冊のしかけ絵本
まるでぬいぐるみをなでなでしているかのような、「ほわころくらぶ」のしかけ絵本『おやすみ ほわころちゃん』、『いただきます しばころちゃん』が誕生しました。
「ほわころくらぶ」とは、人気イラストレータ― えちがわのりゆきさんが描く、若い女性を中心にSNSなどでも大人気のほわほわころころしている犬のキャラクター「ほわころちゃん」たちのこと。実は、ポプラ社が「ほわころくらぶ」というキャラクターを扱うのははじめて。「ほわころくらぶの本をつくりたい!」という、担当編集の熱烈な愛から生まれたこの絵本。著者のえちがわのりゆきさんと担当・新村が、製作過程を振り返ります。
えちがわのりゆき
まんが家/イラストレーター。1980年生まれ。京都在住。2008年より、絵と漫画の制作はじめる。ほわころくらぶ会長。著書に『もっとほわころくらぶ いつもいっしょだよ』(KADOKAWA)『そっとね』『うんころもちれっしゃ』(ともにリトルモア)など。
ほわころくらぶ
ほわほわころころしている、子犬のほわころちゃんと、なかまたちの物語。
https://howacoloclub.com/
はじまりは担当の “ほわころ愛″
↑『ほわころくらぶ』(2017年刊行/KADOKAWA)の出版記念POPUPストアにて、いちファンとしてサインをもらいにいきました。
新村:もともと私がえちがわさんの大ファンで、2019年4月にポプラ社に転職してすぐ、上司に「ほわころくらぶの本をつくりたいんです!」と相談したのがはじまりです。編集部でも「いいね」と言ってもらい、ほわころくらぶのライセンス会社にアポをとって、2019年7月に打ち合わせが実現しました。
えちがわ:新村さんに目の前でほわころちゃんのことを褒めてもらえて、とても嬉しかったです。普段アトリエにこもって作業していると、作品を読んでくれている人や、好きでいてくれている人がほんとにいるのかなぁ〜と不安になってしまうことがよくあるので(笑)。
新村:「えちがわさんへの愛がものすごかった」と、同席した上司に言われました(笑)。私がお持ちしたのは、「ほわほわうらない」という、どの結果でもしあわせになれる児童書企画だったのですが、なんとえちがわさんも企画を持ってきてくださって!
↑えちがわさんにいただいた企画案。ややおとな向けのものでした。
えちがわ:「いつもほわころちゃんと一緒にいられるような絵本ができないか」とずっと考えていたんです。ぬいぐるみと違って、絵本ならバッグに入れられますし。ポプラ社さんが来るときいて、ここぞとばかりに提案させてもらいました(笑)。
新村:「ほわころちゃんをさわるなんて、かわいすぎる!」と興奮しつつ、一度企画を持ち帰らせていただきました。「既存のファンはもちろん、ほわころくらぶを知らない人たちにも届く本にするには、どうしたらいいんだろう?」と考え……。私にとってのほわころくらぶの魅力は、キャラクターたちの言葉や思いやりがつくる世界観が、心をほっとさせてくれることなんです。そう考えたときに、「このやさしい世界観は、あかちゃんへの読み聞かせにもぴったりじゃないか」となりました。そこで、「なでなで」をコンセプトにした、あかちゃん向けしかけ絵本をご提案したんです。
えちがわ:ぼくも娘がいるのでイメージが湧きました。「いろいろな素材の布をさわることができる」という点も、あかちゃんにおすすめできます。あかちゃん絵本ですが、ほわころちゃんを好きでいてくれている、大人のファンのひとたちにも届く、そんなかわいさを大切にしたいという、こだわりも、新村さんと一致しましたね。
新村:はい!絵本が完成したら、私も持ち歩く気満々でした。
気づけば夜!の構成会議
↑穴があいていて、次のページの布をさわれる仕組みの絵本に。
新村:社内の会議では、企画書といっしょにほわころちゃんのぬいぐるみも提出して、「こんなかわいい子がいますよ!この子たちをなでられますよ!」と伝えました。ぶじ2冊同時刊行が決まり、『おやすみ』の主人公は「ほわころくらぶ」の主役・ほわころちゃんに。『いただきます』はどの子にしよう?と悩み、コロッケが大好きな柴犬のしばころちゃんが抜擢されました。
えちがわ:『しばころちゃん』のお話には、最初はコロッケが出ていましたが、「あかちゃんに親しみのある食べものほうがいいかも」ということで、パンに代わりました(笑)。
16ページという短さで、お話の展開を決めるのがけっこう大変で……。穴と布の位置を考えながらのイラスト配置も難しかったです。ぼくが京都在住のため、構成のやりとりはメールだったのですが、どうしてもニュアンスを伝えるのが難しい。やっと実現した対面打ち合わせは、6時間以上かかりました。
新村:頭も体力も使いましたが、私は「えちがわさんといっしょに、ほわころくらぶの絵本を考えている!」ってウキウキしていました!すごく楽しかったです。ことばも一箇所変えるごとに、さいしょから声に出して通しで読んで…を繰り返し。
↑途中で打ち合わせスペースの電気が消え、プチパニックになったのもいい思い出。
えちがわ:あかちゃん絵本ですが、ほわころくらぶらしさもしっかり出すことも大切だと思い、「ぐぅ~」「チラッ」「ペロッ」など、いわゆるマンガ的な表現も入れました。
新村:その表現、ほわころ感たっぷりで、とても好きです! デザインのテーマもそんな、ほわころ感が出るように……とデザイナーさんとも相談して本文部分にはパステルカラーを選んだり、らしさを検討しました。
ほわほわを追求した布選び
とにかく注力したのは、布選びでした。連日ほんとうにたくさんの生地を取引先の担当者の方に取り寄せてもらい、手触りを何度も比べる日々が続きました。
新村:布が本についた状態での確認は、真っ白な本に布をつけただけのダミー、イラストや文字が入った初校・再校の合計3回。「3回もあるんだ」と思われるかもしれませんが、3回しか挑戦できないのは、なかなかの緊張感がありました。
えちがわ:一冊の中で、すべて異なる質感の布を選ぶのはわくわくしましたね。「チャウちゃんのおしりは、こんな感じでちょっともじゃっとしているかもなぁ」とか。と、同時に、理想のさわり心地と色を兼ね備えた布を見つけ出すのは難しかったです。
↑布の指定紙。赤が穴のライン、オレンジが布を貼る位置です。
新村:『ほわころちゃん』の表紙に使われている布は、最後の最後、2つに絞った段階で、編集部のみんなに「どっちがほわほわしてます?」と聞いて回りました。そして、実際に決定したものはえちがわさんも含め、全員一致で今のものだったので、この布にはとくに自信があります。
えちがわ:ただ、ちょっとこまったのは、布単体でさわってOKと思っても、実際に本につくとさわり心地が変わること。「選んだのはこれだっけ?」と思い、新村さんに確認したら「これです。でもさわり心地がちがいますね」って。毛足が短いと、本についたらかたくなってしまうんですね。
新村:その対策として、『ほわころちゃん』のおでこと『しばころちゃん』のホットケーキには、間にスポンジを入れることにしました。
えちがわ:あと仕掛けの話でいうと、小さな判型なので、さわる面積も課題でしたね。あまりに小さいと、「さわさわ」というより、「ツンツン」になっちゃうし。表紙のほわころちゃんは、ぎりぎりまで修正しました。
↑左が初校、右が再校。手を少し外側に広げることで、穴を広げました。
みんなの心に寄り添いますように
↑そして、やっとやっと完成した2冊の絵本。
新村:私、初校で「かわいい!」、再校で「これはかわいすぎる!!」となり、完成本で「かわいい本ができてしまった……」となりました。この子たちの動きと表情、発する言葉が愛おしくてたまりません。完成本を見て、いかがでしたか?
えちがわ:僕も完成した本をもらって読んだ時には「僕の心に思い描いていたものがちゃんと形にできた!」と思えて、とっても感動しました。自信を持って、良いものができたと言える絵本です。
子どもから大人まで楽しんでもらえて、心がほわっとほぐれて、そして、しあわせを感じてもられるものを目指して、じっくりと時間をかけて作りました。僕としては、シリーズ化して作っていけたら嬉しいなぁと思っていて、実はもう新しいアイデアも探し始めています(笑)。たくさんの子どもに喜んでもらえたら嬉しいのはもちろんですが、多くの大人の方々の心に、そっと、ほわっと、寄り添う絵本になってくれることを願っています。
新村:「あかちゃん絵本」より、「あかちゃんから楽しめる絵本」といったほうが正しいですよね。実際に私も、毎日そばに置いています。いつでもどこでも、この絵本はほわほわのしあわせな世界に連れて行ってくれる。この絵本は、私の宝物です。そして、だれかの宝物にも、なってくれたらいいなと心から願っています。