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私の本棚に「二列目」はない【 本棚の二列目*一般書編集部 吉野】

他人の「本棚」を見るのって、すごく楽しくないですか?

その人を形作った小説やマンガやビジネス書――様々な「本」が詰まっている本棚を見るだけで「この人はこういう人だったのか~」と再発見できる気がします。
そして、あんまり見せたくない「偏愛本」を、本棚から発掘するのも大好きです。

本棚にどーんと飾る「よそいき」の本じゃないんだけど、大好き。いや、人に見せるのは恥ずかしいんだけど、見せたい思いもちょっとある……。

そんな相反した思いを抱えて、ひっそりしまい込まれた本たち。
いわば「性癖」みたいなものが隠されがちな「本棚の二列目」
それをドドンと公開しちゃおうという、嫌らしいコーナーです。
公開してくれる人たちは、ポプラ社で働く色んな部署の人たち。

出版社で働く人たちの本棚って、どんな本がつまってるんだろう?
そんな人たちの「二列目」には、どんな本が並んでるんだろう?


友達の家の本棚をのぞき見する感覚で、ぜひお楽しみいただければ嬉しいです。
第六回は、一般書編集部の吉野さんです。 


「べつに、二列目じゃなくてもいいよ!」
 
この「本棚の二列目」企画発案者・森さんの言葉に、私はたいへんびっくりしました。そんなの、もう、なんでもアリじゃありませんか。
 
 
こんにちは、ポプラ社一般書編集部のしたっぱ・吉野シンゴです。
小さなころから本が好きで、出版業界のいろんなところをうろうろしていたところ、運よくポプラ社に拾っていただきました、ただの本好きです。うろうろ歴は話すと長くなるので、またの機会に……。
 
さて、ポプラ社名物「本棚の二列目」
ついに私も書かせていただけることになりました。ポプラ社の公式noteで文章が書ける! とってもうれしい。
 
が、しかし。この「本棚の二列目」企画に参加することを喜び勇んで表明したものの、私にはこの記事を執筆する資格などないのでした。
 
なぜなら、私は生粋の「二列目」アンチなのだから。
せっかくお家に迎え入れた本が、埋もれて隠れて見えなくなってしまうなんて許せない。
ずらっとぴしっと、すべての本をきれいに並べて、これまでの冒険の歴史を一望したい。
背表紙がずらりと並ぶ、その壮観な景色こそが、私の理想の王国なのです。
 
そんなわけで、現在の私の部屋には薄型の本棚しかなく、一切の二列目が存在しません。
 
(まだ薄型の本棚を買う金銭的・部屋のスペース的に余裕が無かった)学生時代に暮らしていた部屋の本棚には「二列目」があったのですが、↓
 

↑このように、執拗に、二列目には「上げ底」をDIYで用意しています。すべての本の背表紙を余すことなく眺められるという、完璧なシステムを構築していました。
 
そう。私の本棚には、一切の隠し事・もとい「二列目」など存在しないのです!
 
…………と、いう旨を、この企画の発案者・森さんにお伝えしたところ……
 
 
「べつに、二列目じゃなくてもいいよ!」
 
 
この言葉に、私はたいへんびっくりしました。それと同時に、とても嬉しくなりました。
 
この人、ただただ、みんなの本棚が見たいだけだ!
 
……分かる。分かります、その気持ち。
人の本棚を覗き見るの、めちゃくちゃ楽しい。大好き。嬉しい。
 
分かりました。その気持ちに、私は全霊で応えましょう。
 
私には「本棚の二列目」はありませんが……森さんがこの「本棚の二列目」企画で発掘したいと語る「あんまり人に見せたくない『偏愛本』」は、それはもう、たっくさんあります。
 
私はそのような本たちを「殿堂入り本」と呼んでおり、ふと彼らをぱらぱらと眺める必要が生じた際にはすぐ手に取れるよう、作業机の上に「殿堂入り本」たちをまとめた「殿堂入り本棚」を違法建築しております。

 
本邦初公開。今回は、その「殿堂入り本棚」のすべてを、おひろめいたしましょう……!
(※2023年8月時点の殿堂入り本棚情報です)
 
 

1冊目『四畳半神話大系』森見登美彦

 
「今ここにある君以外、ほかの何者にもなれない自分を認めなくてはいけない。」
 
私の人生を変えた……いや、私の人生を迷宮のように捻じ曲げてしまった一冊。この樋口師匠の言葉を胸に、今日も私は人生を迷走し続けています。
 
 
2冊目『BLEACH (3)』久保帯人

 「そんで できれば笑って死ね。」
 
『BLEACH』は私がいちばん好きな漫画なのですが、その第3巻が特に大好きです。少年・一護の、戦いへの“覚悟”がバチっと決まったあのシーン。なんど読んでも痺れます。
 
 
3冊目『大東京トイボックス (8)』うめ

 「あほらし」
 
何の冗談でもなく、「創作」に「命を救われた」人って、たくさんいるはずです。フィクションの力強さを見せつけられた一冊。
 
 
4冊目『完全自殺マニュアル』鶴見済

 「世紀末を生きる我々が最後に頼れるのは生命保険でも年金制度でもない。その気になればいつでも死ねるという安心感だ。」
 
「いつでも死ねるという安心感」。一見矛盾するこの言葉に、すさまじい衝撃を受けた18の私。それが今でも確かに、私の背骨になっていると、感じる。
 
 
5冊目『そして生活はつづく』星野源

 「つまらない毎日の生活をおもしろがること。」
 
何気ない日常は「何気ない日常」でしかなく、その中から「面白さ」を見出すのには努力と根性がいる。そんな絶望と希望を教えてくれた一冊。ただ生きているだけでは、人生はつまらない。
 
 
6冊目『チ。-地球の運動について- (1)』魚豊

 「でも 不正解は無意味を意味しません。」
 
ただ、「知りたい」という想いだけで、命をも懸けてしまえる者たちの物語。この命を懸けられるだけの何かが、いつか見つかるといい。今のところは、なにがなんでも、なにを犠牲にしてでも、絶対に死にたくないと思っているのだが。
 
 
7冊目『血界戦線 (1)』内藤泰弘

「征け!! 手始めに世界を救うのだ」
 
私は「異常の中の日常」というシチュエーションコントをこよなく愛している。この『血界戦線』は、その理想系であり最終形態。「手始めに」とかいうおつかい感覚で「世界を救」っちゃうの、あまりにも痛快。
 
 
8冊目『ジブリの教科書13 ハウルの動く城』

「やはりゼロから『動き』を作り出すことのできるアニメーションの醍醐味であるといえよう。」
 
絶対に動かないもの/動いてはいけないものだと思っていた「城」が動いちゃうって、めちゃめちゃウケますよね。そんなわけで、私はジブリ映画では『ハウルの動く城』が一番好きです。本書収録の「建築が飛び立つとき」というコラムが面白すぎるのでおすすめです。
 
 
9冊目『虚構新聞 全国版』

「『10桁で終了』円周率ついに割り切れる」
 
絶対に嘘をついてはいけないハズの「新聞」に嘘しか載ってないって、めちゃめちゃウケますよね。「まち針から またあんパン」「『ユッケ、よく焼いて食べて』消費者庁呼びかけ」「男子投げやり 日本新」あたりの記事が私は大好きです。見出しだけでかなり脱力。
 
 
10冊目『大喜利猿』小林賢太郎,升野英知

【お題】
「一滴一滴時間をかけて採取したドモホルンリンクルを大量に川に流す」より勿体無い事を教えてください。
 
【回答】
手塩にかけて育てた娘を大量に川に流す。
 
 
↑ 好き。
 
 
11冊目『風の歌を聴け』村上春樹

「そうだろ? 強い人間なんてどこにも居やしない。強い振りのできる人間が居るだけさ。」
 
何回読んでもまったく理解できた気になれない文章だけで構成されている小説。だから好き。だから何回も読んでいる。
 
 
12冊目『スターティング・オーヴァー』三秋縋

「言葉にできない感覚を、僕は軽視しすぎていたんだよ。」
 
とある男の「十年巻き戻って、十歳からやり直した感想」が記録された本。私の好きなバンドの曲に「過去に戻れる日が来たら 迷わず僕は今日を選ぶだろう」という歌詞があるのだが、結局そういうことになるんだなぁ、と、改めて想う。そう想えたらいいなぁ、とも想う。
 
 
13冊目『シン・ゴジラ(台本)』

「今ここで決めるのか? 聞いてないぞ」
 
大好きな映画『シン・ゴジラ』の台本。あの映画は本当に面白いし素晴らしい作品なのだが、あまりにも意地悪な演出が多いので、それらをじっくりと検証してやろうと思って取り寄せました。『シン・ゴジラ』ってほんと最高。冗談じゃなく100回は観ている。
 
 
14冊目『向日葵の咲かない夏』道尾秀介

この“物語”の真相には、気付かなければよかった。
 
ミステリというのは、真相まで辿り着いた時に、それまでにばら撒かれていた全ての伏線がカチッと噛み合って、謎がすっきり解けるというのが魅力だと思っていたのだけれど……本作は、それとは真逆の体験を与えてくれた。その真相に気付いてしまった瞬間、それまでの全てが崩れ落ちた。もう読みたくないと思うのに、年に1度は読み返している。夏に。
 
 
15冊目『えーえんとくちから』笹井宏之

「この森で軍手を売って暮らしたい まちがえて図書館を建てたい」
 
まちがえて……?
 
 
16冊目『デリカシー体操』ヨシタケシンスケ

日常の「あるある」と「ないない」のスケッチ集。こういう些細な、だれも気に留めないようなことだけを考えて生きる人間になりたいと、つねづね考えすぎている。
 
 
17冊目『スタジオジブリ絵コンテ全集14 ハウルの動く城』

世界で、どんなに重大で悲惨な事件が起こっていても、なりふり構わずハッピーエンドへと突き進む力強さ。そんなわけで、私はジブリ映画では『ハウルの動く城』が一番好きです。この映画、画面の端から端まで美しすぎますよね。
 
 
18冊目『プラネテス(1)』幸村誠

「……上等だ 何もかも思い通りにしてやるぜェ」
 
“宇宙”とかいう、人類なんかがどうしようもできないような壮大なものをテーマとしている漫画で、こんなセリフが飛び出してきたという衝撃。自分の人生くらい、何もかもを思い通りにしてやりたいものです。
 
 
19冊(?)目『ファイトクラブ(Blu-ray)』

「1つ頼みがある 俺を殴ってくれ」
 
私たちはこんなに滅茶苦茶で素晴らしい世界に生きているので、ふと、傷だらけのブラピの顔を眺める必要が生じることがあると思います。そうした時に非常に助かる一枚です。
 
 
20冊目『亜人 (16)』桜井画門

「そう 信じたいじゃないか」
 
あれだけ理詰め理詰めで繰り広げられてきたストーリーが、クライマックスに差し掛かったところで急にトンデモ精神論になってしまった。たいそうビックリしたのだけれど、これがあまりにも美しい。人に非ずな「亜人」をめぐる物語なのに、どうしようもなく人間くさかった。
 
 
21冊目『メアリー・スーを殺して 夢幻コレクション』乙一,中田永一,山白朝子,越前魔太郎,安達寛高

「この文字のひとつひとつは自分の意志の象徴だ。蠢く大自然から何かを切り取ろうとする意志そのものなのだ。」
 
各方面に尖り散らした、個性豊かな5名の作家のアンソロジー。この5名が一冊の本に集結した、その奇跡に感謝している。その中でも1編目『愛すべき猿の日記』が私のお気に入りで、何度読んでも涙が出てしまう。文字は、まるで奇跡ですよ。
 
 
22冊目『フェルマーの最終定理』サイモン・シン

「私はこの命題の真に驚くべき証明をもっているが、余白が狭すぎるのでここに記すことはできない」
 
はしっこにちょろっと書かれたひとことに、人生を狂わされた者たちの記録。小学生でも理解できるような単純な定理に、世界最高峰の天才たちが振り回された歴史。こんなの、どうしようもなくアツくなってしまう。「これ、ノンフィクションってことは……“本当”にあったことなんだ」と、馬鹿みたいな感動を抱いた一冊です。
 
 
23冊目『ノンデザイナーズ・デザインブック』ロビン・ウィリアムズ

反応・反射・音速・光速……デザインの「4つの基本原則」を私は頭に叩き込んだ。
 
 
24冊目『ハイパーインフレーション(3)』住吉九

「人生に意味ィ~~!? そんなものあるわけないでしょッ!!」
 
贋札をめぐる頭脳戦・心理戦が異常に異様に面白すぎる作品ではあるが……その渦中に生きた人々の、それぞれが貫き通す「生き様」に、私はやられた。この言葉を胸に、私はいつまでも生きていこうと思った。
 
 
26冊目『かいけつゾロリ つかまる!!』原ゆたか

「脱獄劇」というジャンルを、私はこよなく愛している。限られた空間で、限られた時間で、限られた道具で──そして無限の発想と機転で──目的を遂行する獄中劇に、私はこれまで何度も魅了されてきた。そして、私が人生でいちばん度肝を抜かれた脱獄劇は、間違いなく『かいけつゾロリ つかまる!!』であろう。あんなこと、しちゃっていいんだ……
 
 
27冊目『ジャンケン入門』清水義範

「入門者はまず、初歩的な訓練をしなければならない。それはジャンケンの三つの『手』を、どれでも任意に、瞬時に決定して出せるようにする訓練である。」
 
ふとジャンケンの仕方を忘れてしまった時にたいへん役に立つ手引き書です。当たり前のことしか書いていなくて、非常におすすめです。
 
 
28冊目『人生の短さについて』セネカ

 
「良く生きれば人生は十分に長い」
 
とはいえ、結局、やっぱり、人っていつか死ぬんだな〜と思える一冊。生きているそのうちは、死んでたまるか〜~~。
 
 
29冊目『映画大好きポンポさん2』杉谷庄吾【人間プラモ】

「もし『完全にオリジナルな物語』なんて物がこの世に存在すると思ってる奴がいたら そいつはただの無知かバカね」
 
これは、「『映画大好きポンポさん』の第2巻」ではなく、『映画大好きポンポさん2』。我々は如何にして「あとづけの続編」という「商品」と向き合うべきか。
 
 
30冊目『ぼくたちは習慣で、できている。』佐々木典士

「やるべきことをやっている時に、結果が出なくても気にならない。凹んでしまうのは、やるべきことをやっていないと、自分で知っているときだ。」
 
わりと、人生が変わりかけた一冊。
 
 
31冊目『Mobitecture 動く住まい図鑑』レベッカ・ローク

「普遍的で永続的。」
 
ロマンの塊。とにかく眺めていて飽きない一冊。いつかこういう家に住みついて、千葉県から長野県あたりをうろうろしたい。この記事を書いていて思ったが、この本が好きなのは絶対に『ハウルの動く城』の影響だ。
 
 
32冊目『文藝春秋 総特集 森見登美彦』

「作家は机上で冒険する!」
 
このキャッチコピー、最高にカッコいい。ついでに私も、便乗して冒険させてもらっています。いつもありがとうございます。
 
 
33冊目『プログラムはなぜ動くのか 知っておきたいプログラミングの基礎知識』

「思えば、便利な時代になったものです。」
 
私は、特に「日々の生活の中で当たり前のように使っているモノの仕組みを知りたい欲」が、すごい。コンピューターは、その最たるモノ。このちっぽけな箱に、人類最新鋭の英知が詰め込まれているのかと思うと眠れなくなりますよね。
 
 
34冊目『カキフライが無いなら来なかった』又吉直樹,せきしろ

「はからずもクリーニング店の激戦区に迷い込む」
 
これは「あるある」ではない。これは「「ある」」だ。
 
 
35冊目『恋文の技術』森見登美彦

「せっかくの機会だから、俺はこれから文通の腕を磨こうと思う。そしてゆくゆくは、いかなる女性も手紙一本で籠絡できる技術を身につけ、世界を征服する。皆も幸せ、俺も幸せとなる。文通万歳。」
 
手紙のやりとり(今作に至っては、主人公が書いた手紙の文面のみ)で物語が進行する「書簡体小説」。こんな形式で小説って成立するんだ! と衝撃を受けたし、世界は広いな〜とも思った。そして、私が知らないだけで、もっともっとすごい技法が存在するだろうし、まさに今も考案され続けているんだと思ったら、私はこの世の全てを知りたいと思ってしまう。
 
 
36冊目『惑星のさみだれ(10)』水上悟志

 「日陰者の妬みパーンチ‼︎」VS「モテモテ野郎制裁パーンチ‼︎」
 
王道と邪道の、その直球ど真ん中。まっすぐな瞳を持つ者も・どうしようもないひねくれ者も、地球を守りたいだの・地球を壊したいだの、誰もが心の奥底にアツい信念を持っている。
 
 
37冊目『SLAM DUNK 完全版(24)』井上雄彦

この感情に、言葉はいらない。
 
 
38冊目『燃えよペン』島本和彦

「全てのマンガ家がこうだと思ってもらいたい!」
 
読むエナジー。否応なくアツくさせられるし、アツすぎて笑っちゃう。いつかこの本棚が燃え出しそうで、ひやひやしている。常時、脇にはバケツを用意している。
 
 
39冊目『エンジェル伝説 (3)』八木教広

「ギャグ」の奥深さを知った一作。この作品を初めて読んだガキんちょの私にとって、ギャグというのは「突拍子のなさ」「勢い」「大きな音」など、派手で大雑把な「動」だった。しかし本作では、「当事者間の認識のすれ違いを外部から眺める」という「静」の構造によって笑いが生みだされていた。この緻密に計算された「ギャグ」に、私は打ちのめされ……完全に、私の笑いに対する姿勢は、この本によって形成された。
 
 
40冊目『太陽の塔』森見登美彦

 
「何かしらの点で、彼らは根本的に間違っている。
 なぜなら、私が間違っているはずがないからだ。」

 
私の聖書です。
 
 
以上です。
めちゃめちゃ長くなってしまいましたが、お読みいただきありがとうございました……! これが、私の「本棚の二列目」のすべて(※2023年8月現在)です。
「あんまり人に見せたくない『偏愛本』」というハズでしたが、語れるとなれば嬉しくなって、つい口数が多くなってしまいますね。
また、この本棚の入れ替えや更新をすることがあったら、記事にさせてください。
 
ご愛読ありがとうございました! 吉野シンゴの次回記事にご期待ください。


 


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